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理学博士でありキャリアコンサルタントであるKOTORA先生のキャリア相談室。
前回に引き続き、博士課程に進学された人、進学を検討中の人へ向けて、学位取得後のキャリアについて考えていきます。
こんにちはKOTORAです。
今回は、博士課程後の進路について、文部科学省が公開している博士課程後の進路データやポスドクの状況調査データを整理してみました。
博士課程修了・単位取得退学者の進路
学校基本調査2020年度データによれば(図1)、理学系、工学系、農学系いずれの専門領域でも博士課程後、約半数の人は無期雇用労働者となっています。具体的には理学系では41.1%、工学系では55.6%、農学系では43.3%でした。就職先の詳細はデータがないのですが、昨今の博士新卒での就職活動の様子を見る限り民間企業へ就職している人が多いと思います。
一方で、ポスドクになる人は理学系では24.3%、工学系では11.4%、農学系では15.1%です。ポスドクになる人はアカデミアでの無期雇用の研究職を目指している人も多いと思いますが、何年くらいポスドクを続けて、次にどのような進路をとっているのでしょうか。
ポスドク在職期間とその後の進路
ポストドクター等の雇用・進路に関する調査2019年度データによれば、現職での在籍期間は1年目の人が最も多く(図2)、年齢は30代が最も多くなっています(図3)。
同じ調査でポスドク後の進路についてもデータが出ているので次にご紹介します。
アカデミアでテニュアトラック(無期雇用研究者)のポジションを獲得した人は0.4%程度(理学・工学・農学系合算)となっています。その他・不明欄には、おそらく業務が忙しくて調査に回答できなかった人が含まれていると思いますので、各区分に当てはまる人もいるだろうと推測していますが、それにしてもテニュアトラックのポジションをめぐる競争はとても厳しい、という事実は間違いないでしょう。民間企業へ出る人は3.1%程度となっていて、これも思いの外少ない印象です。
ただ、これらのデータをどう解釈するかは難しいところです。ポスドク全体のうちポスドク在籍期間が1年目2年目の人が半数以上を占めている(図2)ことを考えると、テニュアトラックのポジションを得る人や民間企業へ就職した人が、どのくらいのポスドク在籍期間ののちにその職を得たのか、ということが気にかかります。例えば、ポスドク在籍期間3〜5年の人を母数とすれば、テニュアトラックのポジションを得た人は1.5%、民間企業へ就職した人の割合は11.3%になります。また、ポスドク以外の「アカデミアでの有期雇用の研究職」からテニュアトラックのポジションを得た人が多いのではないかと考えてアカデミアでの有期雇用(PD除く)の人数を母数とすれば、テニュアトラックのポジションを得た人は3.8%となります。
ポスドクを進路に選ぶなら
詳細なデータがないのでどのように解釈するかは想像の域を出ませんが、ポスドクという進路を取ったなら、ポスドクの次にどうするのかということだけでなく、何年くらいポスドクを続けるのかについても考えたほうが良さそうです。そのために、まずやるべきことは所属している研究室や分野、学会等での状況を知ること。ポスドクをしている・していた人が何年くらいポスドクをしているのか、その後どういう進路を取っているか聞いてみましょう。テニュアトラックを目指しているのなら、実際にそのポジションに就いている人の経歴や業績について情報を集めてから計画を立てることが大事です。
進路データを見て考えることは人によっても立場によっても違ってくると思いますが、私はこれらのデータを見て無期雇用の研究者を目指すのはかなり難しいんだな、という印象を持ちました。だから、アカデミアでの研究職を目指す場合にも、他の進路も念頭に置いて情報収集したり、行動することはとても大事なことだと改めて思いましたし、研究職を諦めた10数年前の自分には、とても難しい目標だったのだからそんなに落ち込まなくてもいいよ、と声をかけたいと思いました。これから目指そうとする人には、覚悟を決めると同時に視野を広げる材料になればと思いますし、過去に目指していたことがあって、今も挫折感が強くてつらい人には、少しでも心を軽くする材料になればいいなと思ってご紹介しました。
若手研究者の育成・支援プログラムを活用しよう
90年代に文部科学省施策として実施された大学院重点化計画やポストドクター等1万人計画によって博士・ポスドクが急激に増え、でもその後の出口(就職先)が少ないままで、2000年代になっていわゆる博士・ポスドク問題と呼ばれる深刻な博士の進路・雇用問題がたびたび報道されました。その影響もあると思いますが、博士課程(後期博士課程)へ進学を希望する人が年々減少傾向にあります。博士課程修了後、新卒から民間企業へ就職する人は多くなり、90年代に博士・ポスドクを増やそうとしていた文部科学省が当初イメージしていたように、アカデミアだけではなく民間企業においても博士号取得者の多様な活躍が期待できる状況に近づいているのは間違いないはず。そんな今だからこそ、若手研究者を支援しようと内閣府では若手研究者の育成・支援に関する施策をまとめています。
研究力強化・若手研究者支援総合パッケージ施策紹介ページ
https://www8.cao.go.jp/cstp/package/wakate/wakatepackage.pdf
「研究者を取り巻く状況が厳しく、研究者の魅力が低下」と明確に書かれていて驚きますが、今年度からは博士課程在学中にも研究に専念できるよう2つの大きな支援事業が実施されています。
文部科学省 大学フェローシップ創設事業
・支援規模 年間1000人へ経済的支援
・支援内容 研究専念支援金+研究費
事業HP:https://www.mext.go.jp/a_menu/jinzai/fellowship/index.htm
Q&A:https://www.mext.go.jp/content/20211220-mxt_kiban03-000011739_1.pdf
・支援規模 今年度最大6000人へ経済的支援
・支援内容 研究奨励費(生活費相当額)+研究費
事業HP:https://www.jst.go.jp/jisedai/
Q&A:https://www.jst.go.jp/jisedai/dl/faq-2021.pdf
詳細は各事業HPのQ&Aを確認するのがわかりやすいと思いますが、博士課程修了後のキャリアパスに重点を置いていたり、海外派遣を積極的に推奨していたり、事業によって支援の規模も、金額も、特色も異なります。ただ、いずれのプログラムでも有償の企業内インターンシップに参加でき、アカデミアでの研究職以外への進路選択も成果として評価される点は共通していて、博士号取得者がアカデミア以外でも幅広く活躍する社会の実現を目指しています。いずれの事業も採択プログラムや人数がすでに決定しており、採択された大学の情報もHPに記載があるので、所属する大学が含まれているなら支援を受けるのに必要な手続きについて調べてみると良いと思います。
また、これらに加えて、以前から博士課程進学予定者の間ではよく知られている日本学術振興会特別研究員(学振とかDC1、DC2という呼び方が一般的ですね)も研究奨励金が支給されます。修士2年時から応募でき毎年6月頃に応募締め切りがあるので、周囲に応募経験のある先輩がいれば書類の準備等について詳しく話を聞いておくと良いです。
日本学術振興会特別研究員
・支援規模 年間2200人前後(DC1,DC2,PD合計)へ経済的支援
・支援内容 研究奨励金+研究費
以上3つの事業で支給される研究専念支援金や研究奨励費・奨励金は生活費にあてることができ返済不要ですが、いずれの選考にも漏れてしまった場合には、日本学生支援機構から奨学金の貸与を受けることもできます。将来返済が必要な上、学費と生活費すべてを賄うには十分な金額ではありませんが、博士課程に進学するならできるだけ多くの時間を研究に使うために検討した方が良いと思います。
国がこれだけの支援をするのは、先ほどご紹介した「研究力強化・若手研究者支援総合パッケージ」資料内に記載があるように、博士号取得者が純粋な学問の世界だけではなく、学問の世界と産業界を結ぶ役割や、産業界での技術力向上、イノベーション創出、マネジメント人材の輩出にも重要だと位置付けているからです。研究に意欲・能力のある人が経済的不安や修了後の進路への不安で博士課程への進学を諦めてしまうことがないように国が支援していこうという取り組みなので、博士課程進学を考えている人、在学中の人は、制度の内容をよく調べて、ぜひ活用を検討してください。
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