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日本における女性研究職の数が諸外国に比べて少ないことがたびたび話題になり、国や各研究機関はジェンダー格差の是正に努めています。最近は、女性だけではなく、どんな人も等しく研究を志す人が研究を続けられるようにという意味で、DE&I(ダイバーシティ&インクルージョン)という言葉が使われるようになっています。女性は出産・育児・介護などのライフイベントによって研究キャリアを断念する人が多かった歴史的背景もあり、女性が研究を続けられるよう、さまざまな取組みがなされています。
そこで本記事では、女性研究者の支援や助成金制度についてまとめました。
詳しくは各ホームページ等でご確認ください。
ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ
文部科学省の所轄である科学技術振興機構(JST)が実施している事業です。
この事業では、女性研究者がその能力を最大限発揮できるよう、研究と出産・育児・介護等とを両立できる環境整備を行う大学や独立行政法人等を選定し、その取り組みを支援しています。
研究と出産・育児等のライフイベントとの両立や女性研究者の研究力向上を通じたリーダーの育成を一体的に推進するなど、研究環境のダイバーシティ実現に関する目標・計画を掲げ、優れた取組を体系的・組織的に実施する大学や独立行政法人等を選定し、その取組を重点的に支援するものです。
<ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブの支援内容の一例>
- 相談体制の確立(カウンセラーの配置や相談室の設置など)
- ライフイベントの期間中に研究活動を支援する者の配置
- 夜間保育、休日保育、病児保育などの支援制度の構築
- ライフイベントによる研究中断からの復帰・復職支援
- ライフイベントを考慮した業績評価、人事評価システムの構築
- 指導的地位に占める女性研究者の割合向上に向けた取り組みに対する支援
選定機関については、ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブのHPに掲載されているほか、大学等の各機関のHPにもダイバーシティ研究環境実現イニシアティブを活用した女性研究者向けの支援が紹介されています。
ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ 女性研究者研究活動支援事業
日本学術振興会の支援制度
日本学術振興会(JSPS)では、研究と出産・子育てを両立させる女性研究者に対してさまざまな支援事業を行っています。
【特別研究員「RPD」】
出産・育児により研究を中断した研究者が円滑に研究に復帰できるよう、JSPSが特別研究員-RPDとして採用。国内の大学等の研究機関において一定期間、研究に専念できるように支援する制度です。
出産育児のために通算3か月以上研究活動を中断した人が対象で、研究奨励金として月額36万2千円と研究費として年間150万円以内の支援が受けられます。
【女性研究者の出産に伴うキャリア継続支援事業】
特別研究員、海外特別研究員に採用されている女性研究者で、採用期間中に出産を理由として採用の中断を行う人が対象です。
1日あたり1万円に、支給対象期間の日数を乗じた金額が支給されます。
【海外特別研究員「RRA」】
出産育児により研究科活動を通算90日以上中止した若手(※)研究者を、海外での研究機会を得られるよう、海外特別研究員「RRA」として採用。海外の大学等の研究機関において一定期間研究に専念できるように支援する制度です。
滞在費・研究活動費として年間約450〜620万円の他、子供手当や往復航空費が支給されます。
※若手:博士号取得後10年未満、常勤研究職の経験が5年未満
【科研費(研究活動スタート支援)】
人文学、社会科学及び自然科学の全分野が対象で、研究機関に採用されたばかりの研究者や育児休業等から復帰する研究者等が一人で行う研究に対する研究資金(300万円以下。ただし、単年度当たりの応募金額は150万円以下とし、研究期間1年の場合の応募総額は150万円以下とする。)を支援する制度です。
【特別研究員(出産・育児に伴う研究再開準備支援)】
特別研究員(DC,PD,CPD,RPD)に採用中の方で、出産または2 歳に達するまでの子を養育するため、採用の中断及び延長を行った方において、短時間の研究継続を支援する制度です。
研究奨励金の半額が支給されます。
【特別研究員(子供の保育所入所申請)】
特別研究員採用期間中に子供の保育園への入園申請を行うにあたって、各自治体によって必要となる書類など手続きが異なります。手続きにおいて、特別研究員の採用証明書が必要となる場合は「採用証明書」を発行しています。
日本学術振興会(JSPS)の支援制度
日本私立学校振興・共済事業団 若手・女性研究者奨励金
私立大学等に在籍する助教又はポスト・ドクター、勤続年数10年以内の講師(ただし、医歯薬学部を除く)の職にあり、一人で行う研究を対象としています。
基礎研究・応用研究を問わず、あらゆる学問分野の研究が対象です。「若手研究者奨励金」は、対象年齢は39歳以下、「女性研究者奨励金」 は、年齢制限を設けていません。
交付額は、1件の研究課題あたり40万円です。
2023年度交付実績は、若手研究者奨励金37件、女性研究者奨励金37件です。
日本私立学校振興・共済事業団 若手・女性研究者奨励金
公益財団法人 内藤記念科学振興財団 内藤記念女性研究者研究助成金
出産・育児によって研究が中断した際の復帰と、研究業績を上げることを支援する目的で設置された助成金です。
博士号を持つ人類の健康の増進に寄与する自然科学の基礎的研究を行う女性研究者で、出産日から復帰日までが61か月未満(約5年)の方が対象です。ただし、復帰前の方の場合は、復帰場所が明確かつ規定する復帰日である必要があります。
年間200万円の助成を3年間受けることができます。(総額600万円/件)
公益財団法人 内藤記念科学振興財団
公益財団法人 アステラス病態代謝研究会
女性に限定されていませんが、特に応援したい研究者は、「個人型研究を新たに提案する研究者」、「女性研究者」、「教室を立ち上げたばかりの研究者」、「留学を終えて帰国後2年以内の研究者」、「ライフイベント(出産、育児、介護)と研究の両立」となっています。
各助成1件あたりについて、200万円の研究助成金、標準400万円(最大1,000万円)のステップアップ研究助成、700万円の海外留学補助金があります。
公益財団法人 アステラス病態代謝研究会
薬力学研究会 研究助成金
医学・医療、歯学・歯科医療、薬学等の学術の発展と疾病予防及び健康維持増進に貢献すると判断される研究に対し、助成金が贈呈されます。
日本国内の大学・研究機関等に在籍する40歳以下の研究者が対象です。ただし、産前・産後休業または育児休業をとった場合は、40歳以下の制限に、その日数を加算できるため、女性は大いに活用してください。
助成額は1件あたり100万円です。
薬力学研究会 研究助成金
資生堂 女性研究者サイエンスグラント
将来指導的立場の研究者を目指す女性を支援する研究助成になります。
対象期間中に大学もしくは企業以外の研究機関で自然科学分野の研究(理工科学系・生命科学系全般)をしている女性研究者が対象です。使途は、研究費用(試薬代・機器代など)のほか、研究補助員の雇用にも充てることが可能です。100万円の助成を1年間受けることができます。(最大10件まで助成)。
資生堂 女性研究者サイエンスグラント
ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞
若手女性科学者が国内の研究・教育機関で研究を継続できるよう奨励し、助成する賞です。
生命科学、物質科学の分野において、日本国内で博士後期課程に在籍あるいは、博士後期課程に進学予定で40歳未満の女性が対象です。毎年、それぞれの分野から原則1年2件(2名)、計4件(4名)を選考し、受賞者に賞状及び奨学100万円が贈呈されます。
ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞
Nature Awards for Inspiring Women in Science 賞
女性研究者やSTEM分野で活躍する女性を対象に、学問の壁に挑戦し、科学のキャリアで成功できるようにインスパイアすることを目的としています。
「Science Outreach」と「Scientific Achievement」の2部門を設けており、各部門の受賞者には、5万米ドルの賞金が贈与されます。さらに、ザ エスティ ローダー カンパニーズを通じたメンタリングとそのほかの広報の機会が提供されます。
また、「女性」という言葉を包括的な定義で使用され、トランスウーマン、ジェンダークイア、ノンバイナリージェンダーの方からの応募を歓迎しています。
Nature Awards for Inspiring Women in Science
羽ばたく女性研究者賞(マリア・スクウォドフスカ=キュリー賞)
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)と駐日ポーランド共和国大使館が、日本の女性研究者のより一層の活躍推進に貢献することを目的に、国際的に活躍が期待される若手女性研究者を表彰します。
博士学位取得後5年程度まで(ライフイベントなどによる研究活動休止期間を勘案する)の女性研究者(ポスドクを含む)、大学院生(博士後期課程)、およびこれらに相当する者が対象です。
最優秀賞の受賞者には、賞金100万円と副賞としてポーランドへの渡航・研究機関等を訪問するための滞在費が贈呈されます。なお、奨励賞は各50万円、2名です。
羽ばたく女性研究者賞(マリア・スクウォドフスカ=キュリー賞)
キャタピラーSTEM賞
女性エンジニア育成・支援プロジェクトで、一般部門と学生部門の2部門が設けられています。
一般部門では、国内でSTEM分野の開発/研究に従事する女性を対象に、最優秀賞100万円、優秀賞30万円が贈呈されます。学生部門では、 国内の高等・高等専門学校・大学・大学院(修士)に在籍中の学生を対象に、最優秀賞30万円、優秀賞10万円、奨励賞3万円などが贈呈されます。
キャタピラーSTEM賞
猿橋賞
一般財団法人「女性科学者に明るい未来をの会」が、毎年、自然科学の分野で顕著な業績を収めた女性科学者に賞(猿橋賞)を贈呈しています。
自然科学の分野で優れた研究業績を収めている日本国内在住の50歳未満の女性科学者を対象に、賞状及び褒賞金50万円が贈られます。
猿橋賞
一般社団法人大学女性協会(JAUW) 守田科学研究奨励賞
自然科学分野において、優れた研究成果をあげており、科学の発展に貢献することが期待される40歳未満の女性研究者を対象としています。
授賞件数は年2件以内で、賞状および副賞50万円が授与されます。
一般社団法人大学女性協会(JAUW)守田科学研究奨励賞
日本女医会 学術研究助成
満45歳未満の日本国内在住の女性医師を対象に、優れた研究に対して助成を行う制度です。
助成金額は1件30万円までで、うち最も優秀と判断されると山﨑倫子賞として50万円の助成を受けられます。
日本女医会 学術研究助成
日本生理学会 入澤彩記念女性生理学者奨励賞(入澤彩賞)
優れた⼥性⽣理学者の研究を推進し奨励することを⽬的とした賞です。
研究領域は問わず、⽇本⽣理学会の会員で、3年以上の正会員(学⽣会員を含む)歴を有する⼥性⽣理学研究者が対象です。受賞者は、生理学会大会の総会の席上で、入澤彩記念女性研究者奨励賞受賞者として表彰され、日本生理学会大会において講演を行い、副賞に1人50 万円の研究費が贈呈されます。
日本生理学会 入澤彩記念女性生理学者奨励賞(入澤彩賞)
日本動物学会女性研究者奨励OM賞
不安定な身分等の理由により研究を続けることが困難な状況にありながら、強い意志と高い志を持って優れた動物科学分野の研究を推進しようとする女性研究者を支援することを目的とした賞です。本学会会員に限らず動物科学を研究するすべての女性研究者を対象にしています。
原則として年間2名に授与され、受賞者には賞状と副賞として50万円が贈呈されます。
日本動物学会女性研究者奨励OM賞
日本化学会 女性化学者奨励賞
化学の専門性を活かした学術研究に傑出した業績と貢献があり、社会貢献にも努め、国内外での研究活動・交流を通して日本の女性化学者の地位向上に寄与し、将来の科学者・技術者を目指す学生や若手研究者の目標となる女性会員を対象とした賞です。満40歳に達していない方が対象となります。
授賞件数は年2件以内。
日本化学会 女性化学者奨励賞
日本女性科学者の会(SJWS) 奨励賞
女性研究者の育成・支援のために1995年に設けられた賞です。
性別は問わず、広く理系の分野において研究業績をあげ、その将来性を期待できる方、かつ本会の趣旨に賛同し、その達成のために努力していると認められる正会員および学生会員が対象です。
授賞件数は年1〜3件で、表彰楯及び副賞20万円が贈呈されます。
日本女性科学者の会(SJWS)奨励賞
日本女性技術者フォーラム(JWEF)奨励賞
既存の社会や職場での意識や風習を変革する成果をあげた若手女性技術者を表彰し、ロールモデルとして提示することを目的とした賞です。
40歳未満の女性技術者が対象ですが、キャリアチェンジやライフイベントの期間も考慮されます。審査内容は研究成果ではなく、仕事を遂行する上での行動・手法・成果が社会や会社の意識・風土の改革につながり、若手のロールモデルとなっているかになります。過去、各企業の研究者・技術者が受賞されています。
日本女性技術者フォーラム(JWEF)奨励賞
まとめ
以上、女性研究者を支援する制度や助成金・賞をまとめました。 日本の女性研究者を取り巻く環境にはまだまだ課題が山積していますが、こうした制度や賞を利用して一人でも多くの女性が研究を続けられることを願います。
今回は女性研究者にフォーカスを絞った記事を作成しましたが、リケラボでは、性別・年齢・国籍に関係なく研究者が安心して研究にまい進できる未来を願って、これからも情報を発信していきます。
(上記すべて参照:2023-9-20)
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