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研究者の「ひらめき」を創造するイノベーティブなラボをつくり、日本のサイエンスを盛り上げる│ リケラボ

研究者の「ひらめき」を創造するイノベーティブなラボをつくり、日本のサイエンスを盛り上げる

プラナス株式会社 一級建築事務所/オリエンタル技研工業株式会社

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近年の研究施設が、驚くほど洗練され、デザイン性の高いくつろぎやすい空間や、斬新なデザイン、アートを感じるものが増えてきていることにお気づきの読者は多いことだろう。

過去にリケラボが取材させていただいた筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)など、先進的な研究機関も洗練された建築やアートな内装が印象的だ。

上記をはじめ、様々な企業や研究機関において、研究者がワクワクしながら新たなイノベーションに挑戦できる環境を創り出しているのが、研究・開発施設や設備の設計やデザインを行うプラナス株式会社と設備の製造や施設のエンジニアリングを行うオリエンタル技研工業株式会社だ。

両社を経営する林正剛代表取締役/CEO兼クリエイティブディレクターに、なぜラボ環境にこのような大変革を起こしているのかを聞いた。

驚くほどスタイリッシュなショールームを持つ実験施設メーカー

東京神田にあるショールーム「X/S(イクシーズ)」にお邪魔した。アロマの香りがすがすがしい素敵なカフェといった雰囲気の空間に、斬新な実験台が並んでいる。

近未来的なワクワクする実験台「エモーション」。スプツニ子!さんが立っていそうだ。
リケラボ編集部撮影

木目調の実験台。
リケラボ編集部撮影

美しいフォルムの安全キャビネット。
リケラボ編集部撮影

デザイン性の高い実験設備にただただ感心。フロア内にはバーカウンターもある。一般的な実験室のイメージからは想像もできない雰囲気だ。

日本のラボにはデザインが必要だ

林正剛 代表取締役社長/CEO
リケラボ編集部撮影

── どうして実験設備をこのように洗練されたものにしようと思われたのですか?

林:私は、10代の頃からバンド活動と絵画に夢中になり、アーティストになりたいと思っていました。人の心をポジティブにしたい、アートならそれができる、と考えていたのです。アートの要素を持つ仕事として広告に惹かれていき、アメリカの美術大学でデザインを学んだ後帰国し、広告の仕事をしていました。

オリエンタル技研工業は、研究・開発施設や設備をつくるエンジニアリング企業として、1978年に私の父が創業しました。あるタイミングで父に呼ばれて入社し、日本の研究環境の現実を知ることになりました。

── 研究業界や研究現場に触れて、どのように感じたのでしょうか?

林:当時(2000年頃)、日本は優秀な研究者を世界中から集めようとしていました。にもかかわらず研究・開発の現場を訪ねると、ラボはきつい・汚い・危険の“3K”が当たり前で、臭い・暗いを加えた“5K”だと揶揄されることもあり、こんな職場に優秀な人材が集まるのかと疑問に思いました。このままでは日本の科学技術は衰退してしまう、とも。同時に、デザインが貢献できる余地が大いにあると感じました。

そんな時、アメリカから帰国された東京大学の先生から、「古いラボをリノベーションしてほしい」という依頼を受けたのです。人が心地よく過ごすラボ、をイメージして木質感のある欧米風のラボをつくったところたいへん喜んでいただき、ラボの設計やデザインに興味が湧き出しました。

── アート・広告業界出身ならではの視点で研究環境を見られ、いろいろとやれることがあるとお感じになったのですね。

林:はい。それで、建築を学んだり、ノーベル賞を輩出するラボとはどんなものなのかを調査したりしました。さらにある大学の先生から、アメリカの建築家、ケン・コーンバーグ氏を紹介していただいたことが大きなきっかけになります。氏が設計したラボを見学し衝撃を受けました。建築空間で研究者同士のコラボレーションを促したり、ラボの外で人と出会うきっかけをつくったり、活気のないところに活気を生み出したりしているのです。

過去に調査したラボで印象に残っているハワードヒューズメディカル研究所のお話もしましょう。

カフェのエスプレッソマシーンに年間150万円をかけています。カフェが心地の良い場所であることで研究者がやってきて、そのうち顔見知りになり交流が生まれる。そのなかからコラボレーションが生まれ画期的な研究が生まれる。

このように、アメリカではイノベーティブな研究を行うために、研究空間は非常に重要な要素であり、お金をかける価値のあるものだという認識が定着しています。

素晴らしい研究成果を発表している海外の研究機関を訪れて感じたことは、私生活(LIFE)と仕事(WORK)の「境界線」がいい意味で曖昧だということです。廊下にはサーフボードがあり、ちょっと海へ出てリフレッシュしたり、愛犬と出社したり、またバーカウンターでコーヒー片手に研究談義から他愛もない話までできる。そのような環境で、研究者やスタッフたちはイキイキと仕事に取り組んでいる。

日本の研究環境との違いを痛感した私は、数年間コーンバーグ氏に師事し、建築を学びました。コーンバーグ日本事務所を設立、後に研究施設の設計を行う設計事務所プラナスを設立し、アメリカで学んだイノベーションを生む研究環境づくりを日本でも実践しようと仕事を始めました。

オリエンタル技研のプッシュプル型排気フード「ピアノ」。ピアノを演奏するごとくエレガントに実験してほしいという思いが込められた遊び心あふれるプロダクト。まさにLIFEとWORKの境界線を曖昧にした製品。
リケラボ編集部撮影

── 現在は、プラナスとオリエンタル技研工業の両社の代表をされていますね?

林:2020年に父が病に倒れ、私がオリエンタル技研工業を継ぐことになりました。それを機に会社のあり方を見直し、「ひらめきの瞬間をつくる。」をパーパスに掲げました。実験台をつくって販売するだけではなく、実験台の向こうにある研究者の「ひらめき」をつくる会社にしようということでやっています。

人間に残されるのは「妄想する」こと

── 研究者のひらめきの瞬間をつくるために大事にしていることは何ですか?

林:失敗を許容する文化を醸成することですね。これからの時代、新しいモノやコトを創造しようとするとき、IoTがビッグデータを収集し、それをAIが処理し、ロボットが実行するというフローに沿って行われるようになります。すでになっているとも言えるでしょう。

そんな社会で、人間に残されている仕事は何だと思いますか? 妄想することです。妄想からひらめきが生まれ、そこから創造のフローが始まるのです。失敗が許容されない環境では、妄想を起点としたチャレンジはしにくい。恐れることなく自由に、楽しく研究・開発に打ち込むことができ、イノベーションが起こる場所には、失敗を許容する文化があります。我々のつくる「場」は、そういった文化を作り、その中で人が育つということをテーマにしています。

── 場によって文化や人は変わりますか?

林:よい例として、ひとつ、某化学会社様の食堂をご紹介します。いわゆる社員食堂なのですが壁中をフェイクグリーンで覆い、虎やライオンを描き、まるでジャングルのような場所にしました。社長から「うちの研究員は草食系が多く、未知の領域に果敢に攻め込もうとしない。攻める研究員を育てたい」との依頼だったため「ならば、ジャングルで肉を食べましょう!」と冗談っぽく言ったら、「ぜひ提案してほしい」となり実現しました。

── 食堂がジャングルに!

林:人は何かに集中している時にふと別の緩いことをすると脳がアイドリング状態になり、これまでの記憶や気づきがばっとつながって、ひらめくことがあります。アメリカの心理学者、ジェローム・シンガーが研究するPCD(positive constructive daydreaming)です。仕事で集中した後にジャングルの食堂に入ると、脳がポジティブな妄想を促す状態になるという効果を狙いました。

── 社内の雰囲気が大きく変わりそうですね。

林:そうですね、しばらくして訪ねたところ、研究員の方々の顔つきが、とても生き生きとしていて、嬉しかったです。

画像提供/プラナス株式会社

ロジックにもとづいた設計で、「ひらめきの瞬間」をつくる

── ほかにも事例があれば教えてください。

林:アイスキャンデーの「ガリガリ君」で知られる赤城乳業さんの埼玉県深谷市にある本社ビルは弊社の代表的な仕事の一つです。

場所はJR深谷駅前。地元の子どもたちの通学路沿いに立つこともあり、ガリガリ君らしく、道行く人たちに元気を与えるようなカラフルな外観を提案しました。また、赤城乳業さんはこの地で氷屋として始まった会社なので、氷の形を模した窓を壁に散りばめました。

画像提供:プラナス株式会社

林:中は、色と木を多用しています。NASA(アメリカ航空宇宙局)が行っている創造性テストで、人間が最も妄想や創造力が優れている年齢は5歳だという結果が出ていて、30代になると創造力はかなり落ちます。だったら、5歳の頃の環境に身を置けば創造力がアップするのではないかと考え、子どもの遊戯室のようなカラフルなオフィスやラボを提案しました。カラフルな空間はブレインストーミングが増えるとされていて、色々アイディアが出る空間です。

もう一つ多用しているのは木、あるいは木目です。白い壁に覆われ、白色蛍光灯で照らされた空間に長くいると偏頭痛が起きることがあります。また、光過敏症になって不眠症になってしまうという研究結果もあります。それに対して、木質空間で過ごした夜は深い睡眠につくことができるというデータが、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構長の柳沢正史先生から発表されています。白は光の反射率が90パーセントで、ほぼ鏡。そこに白色蛍光灯をつけると眩しくないわけがない。だから、木を多用するのです。ただ、木質100パーセントの空間だと逆にミスを起こすという論文もあるので、目視率で4550パーセントになるような木質空間をつくるよう心がけています。

画像提供:プラナス株式会社

── ロジックにもとづいてデザインや設計を行っているのですね!

林:はい。師であるコーンバーグ氏のやり方でもあり、私自身がグラフィックデザインの仕事出身だということもあります。特に広告は人の心の動きを捉えることが重要で、そのために行動心理学を活用していましたから、ロジックにもとづく考え方が癖になっています。

それに、オファーをくださるクライアントは、イノベーションを生み出したいと望む方ばかりです。私たちはそのための「特効薬」を提示しなければなりません。ロジックにもとづいたデザインや設計でなければクライアントは納得されないし、納得されなければ薬として作用しません。

バーベキューも研究も手ぶらで

── 2024年4月、茨城県つくば市にレンタルラボ「X/S(イクシーズ)Worksite」をオープンされました。どのような施設なのですか?

林:X/S(イクシーズ)Worksiteは学術都市つくばにつくったインキュベーション施設です。公園のように多様な人が集まり、交流し、つながりが生まれるような場を目指しました。キャッチフレーズは、「手ぶらでScience、ときどきBBQ」。

会員はレンタルラボやシェアラボが利用でき、場所や設備を自ら用意せずとも快適な環境で研究をおこなうことができます。また、共通機器室のドラフトチャンバー、純水製造装置、オートクレーブなどの汎用的な機器の使用も可能です。

画像提供:オリエンタル技研工業株式会社

快適なラボと設備を使い、研究に集中できる。
画像提供:オリエンタル技研工業株式会社

── バーベキューテラスもあるのですか!

林:組織や分野を超えたコミュニケーションが生まれる工夫です。BBQは人と人が気軽につながることができる。大学、公的機関、スタートアップから大手企業まで様々なプレイヤーが結びつき、新たな価値が生まれる場所になるでしょう。

バーベキューテラスのほかにも、組織や分野を超えたコミュニケーションを促す工夫を随所にちりばめています。

コワーキングプラザ“Tangerine”
画像提供:オリエンタル技研工業

企業展示エリア“Ramble On”
画像提供:オリエンタル技研工業

── ラボの居心地が良すぎると、家に帰らなくなりそうです(笑)。

林:海外のラボのように、サイエンスとライフを思いっきり楽しむ場となっています。また、単に空間を提供するだけでなく、これまでにご支援した様々な研究機関や企業、VCとの強力なネットワークを活かして、事業成長や社会実装についてのご支援も可能です。私たちが培ってきた環境構築のノウハウをすべて集約し、「場づくり、文化づくり、人づくり」を体現しました。

科学技術をエンタメのように親しみやすく

── 最後に、「ひらめきの瞬間」をつくり続けることで、どんな社会になることを期待されていますか?

林:科学・技術が日本の文化になることを願っています。実験台「エモーション」を外に向かって展示しているのも、道ゆく人に科学をより身近に感じてもらい、ひいては、科学・技術がエンターテイメントのように親しみやすいものになっていけばという想いからです。

先日この神田のショールーム「X/S(イクシーズ)」で「研究者大喜利」というイベントを開催しました。「未来の理想の研究環境とそこで必要なツールを今の技術でつくれるか?」というお題で楽しくディスカッションする場に、研究者だけでなく、小・中学生も参加してくれたりしています。そんな風に科学を親しみやすいものにして、誰でも参加して、ワクワクする時間を過ごしてほしいと思っています。これも場づくり、文化づくりです。科学技術を多くの人が気軽に楽しめる社会になり、それによって日本の科学技術が発展していくことが私の願いです。

リケラボ編集部撮影

「X/S(イクシーズ)」では、チョコレートやコーヒーにアロマ、オーガニックコットンで作ったオリジナルラボウェアも販売されている。どれも「ひらめき」を生むためのプロダクトだ。
リケラボ編集部撮影



プラナス株式会社 一級建築士事務所

1990年設立。研究所やオフィスなどの「イノベーション」に特化した日本唯一の建築設計事務所として、研究所・研究施設、イノベーションセンター、リサーチセンターの設計・構築をトータルに手掛ける。デザインの領域は建築に限らずイノベーションカルチャー創りとして、研究ウェア、グラフィック、家具、ムービー、イベントなど研究者のココロを動かすことをテーマに幅広く取り組んでいる。
https://planus.co.jp/

オリエンタル技研工業株式会社

1978年設立。研究施設・設備の総合エンジニアリング、ラボを含めた企業空間の総合プロデュースなどをおこなう。研究者同士、スタッフ間の交流や新たな気づきを生み、イノベーションカルチャーの創出を促す場作りを提案している。
https://www.orientalgiken.co.jp/

リケラボ編集部

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