化学実験、バイオ実験のノウハウなど、毎日の実験・分析に役立つ情報をお届け。
4回にわたってお届けしているDNAクローニングのテクニック、3回目の今回はライゲーション反応を成功させるポイントをお伝えします。
この記事は、理系研究職の方のキャリア支援を行うパーソルテンプスタッフ研究開発事業本部(Chall-edge/チャレッジ)がお届けする、実験ノウハウシリーズです。
インサートとベクターのライゲーション反応
インサートDNAをベクターDNAに連結するライゲーション反応では、DNAリガーゼ(T4 DNA Ligase)の酵素活性を利用します。この反応では、前項でご紹介した「基本構造」をもつベクターのクローニングサイト内に、インサートが適切に連結されたプラスミドを得ることを期待します。しかしながら、実際に反応を行ってみると、連結されない、あるいは期待とは異なる連結産物(副生成物)が得られてしまうことも・・・。
目的のライゲーション産物をより効率良く得るために、押さえるべきポイントを実験手順に沿ってご紹介していきましょう。
*ライゲーション反応を迅速・簡便に行うことのできるキットが複数社から販売されています。本項では、ライゲーション反応に必要な、DNAリガーゼ・ATP・反応バッファが全て1液にプレミックスされたキット(Ligation high Ver.2、東洋紡)を例に解説します。
実験手順
- ベクターDNA溶液とインサートDNA溶液を適切なモル比で混合する(DNA混合液)。反応系でのDNAの総量が、100~200 ng 程度になるようにDNA混合液を調製する。
- 対照実験の試料として、インサートDNAの代わりに溶媒を加えたDNA溶液(ベクターDNA溶液+溶媒(水, TEバッファー))を手順1を参考にして調製する。これを用いて、セルフライゲーション産物の発生率を評価する。
- 手順1・2で調製したそれぞれのDNA溶液に等量(μL)のライゲーション・プレミックスを加えて、混和する。
DNA混合液(ベクター + インサート or 溶媒) 7.5 μL
ライゲーション・プレミックス(Ligation high Ver.2) 7.5 μL
合計 15.0 μL
- 16度の恒温槽で30分~2時間インキュベートする。
- 反応液のうち一部を用いて、大腸菌(コンピテントセル)の形質転換を行う [DNAクローニング 4/4で詳しく解説します]。
ライゲーション反応を成功させるポイント
インサートおよびベクターDNAの末端の構造を確認する!
5’末端にリン酸基が保持されているか?
DNAリガーゼは、ATP分解のエネルギーによって、DNA断片の5’末端のリン酸基と3’末端の水酸基の間にリン酸ジエステル結合を生成し、両者を連結します。そのため、未修飾の人工合成オリゴDNAなど、5’末端がリン酸化されていないDNA断片は、ライゲーション効率を低減させます。一方で、制限酵素反応により得られる切断断片は、5’末端にリン酸基が保持されています [DNAクローニング 2/4参照]。
平滑末端か、それとも突出末端か?
平滑末端の連結は、突出末端に比べて、反応の効率が低下します。平滑末端のライゲーション反応では、インサートDNAの存在比を大きくするなど条件の最適化が必要になります。また、平滑末端を両端にもつベクター断片や両端に同一構造の突出末端をもつベクター断片を用いたライゲーションでは、ベクターの末端同士で分子内自己連結(セルフライゲーション/自己環化)が起こり、副生成物が生じます [図3, D]。ライゲーション反応の前に、ベクターの5’末端をあらかじめホスファターゼで脱リン酸化しておくと、セルフライゲーションを抑えることができます。
反応系でのベクターとインサー卜の存在比(モル比)を最適化する
ベクター:インサート=1:1~1:10 程度が一般的です。インサー卜が少ないと、ライゲーション産物中のインサート連結産物の割合(インサート率)が低下します [図3, D]。逆に、インサート過多では、複数コピーのインサー卜が1つのベクターに直列に連結されることもあります(ダブルインサート) [図3, E]。また、インサートの断片が長くなるほど、ベクターに連結される効率が低下します。
至適温度で反応を行う
T4 DNAリガーゼを用いた一般的なライゲーション反応は、16度で行われます。リンカーやアダプターを用いる特殊なライゲーション反応では、10度前後の反応条件が推奨されることもあります。
応用編:インサートDNAの末端構造の改変
平滑末端をもつインサートの突出末端への改変
平滑末端をもつインサートDNAを突出末端をもつベクターDNAに連結する場合、リンカーDNAまたはアダプターDNAと呼ばれる人工合成オリゴヌクレオチドが用いられます。インサートの平滑末端にリンカー/アダプターを連結させ、これを突出末端を作る制限酵素で切断すること、突出末端が付加されたインサートを得ることができます。
突出末端をもつインサー卜の平滑末端への改変
インサートDNAが突出末端をもつ一方で、ベクター内に同一の突出末端を作る制限酵素部位がない場合に行います。突出末端をもつインサート断片をT4 DNAポリメラーゼで処理することで、3’末端突出部分の削り込み(エキソヌクレアーゼ反応)と5’末端突出部分への埋め込み(ポリメラーゼ反応)によって、両末端を平滑末端に改変することができます。
*次回は、大腸菌の形質転換 について解説します。
*監修
パーソルテンプスタッフ株式会社
研究開発事業本部(Chall-edge/チャレッジ)
研修講師(理学博士)
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