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細胞の免疫蛍光染色 基本編(1/2)

細胞の免疫蛍光染色 基本編(1/2)

リケラボ実験レシピシリーズ

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細胞培養は生命科学の研究を支えるもっとも大切な実験操作のひとつです。細胞を培養するときに大切なことは、その培養細胞が今どのような状態であるか、細胞の「健康状態」を把握することです。

細胞は、周囲の環境の変化や、様々な刺激やストレス(病原体の感染やがん化など)に応答して、細胞内に存在する様々なタンパク質の分子数、修飾状態、活性、細胞内での位置取り(細胞内分布)などを変化させることが知られています。これらの細胞内タンパク質の変化は、その細胞の現在の状態を示すサインであると同時に、その細胞のその後の振る舞い(細胞増殖・細胞分化・細胞運動・細胞死など)を推定するためのヒントになります。

このような細胞内タンパク質の状態、すなわち、「目的のタンパク質が細胞内のどこに、どのくらいの量で、どのような状態で存在しているか?」は、どのように調べることができるのでしょうか?

これは任意の細胞内タンパク質を、蛍光標識抗体を用いて見える化(可視化)する技術、「免疫蛍光染色(Immunofluorescence, IF)」によって明らかにすることができます。

免疫蛍光染色では、非染色細胞試料からは得られない多くの情報を得ることができます。動物細胞のほとんどは無色透明であり、その形態も時間とともに変化していきます。

また、次世代シーケンサーの発展により、1細胞からゲノム情報が得られるようになり、発現タンパク質の種類から、細胞プロファイルを推定することもできるようになりました。

このような背景によって、抗体を使った免疫染色の応用がますます発展していきました。

本稿では、固定した細胞試料に対して行う免疫蛍光染色をご紹介します。一方で、細胞を固定せず、生きたまま免疫蛍光染色を行う解析法もありますが、これについては紙幅の兼ね合いのため別稿とします。

免疫蛍光染色法とは?

免疫蛍光染色は、蛍光色素で標識した抗体を用いて、目的のタンパク質(抗原)が細胞内のどこに存在するかを顕微鏡で観察する方法です。目的タンパク質と結合する1次抗体、蛍光色素で標識された2次抗体、蛍光シグナルを検出する蛍光顕微鏡を必要とします。試料細胞内に形成された「目的タンパク質-1次抗体-2次抗体」の3者複合体を蛍光シグナルとして定量的に検出することで、目的のタンパク質が細胞内のどこに、どれだけ存在するかを目で見て、測ることができるようになります。[図]

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免疫蛍光染色における抗原抗体複合体による目的タンパク質の検出(著者作成)

ここでは、免疫蛍光染色の要点について手順に沿ってご紹介します。各ステップの意義や目的を理解しながら、全体の流れをつかみましょう。

1. 試料細胞の固定

試料細胞内の全てのタンパク質を固定し、細胞の形状や内部構造をその状態のまま保存すること。試料細胞に対して処理する固定液として、タンパク質のアミノ基を架橋結合するパラホルムアルデヒド(PFA)などが用いられる。

2. 細胞膜の透過処理

試料細胞を界面活性剤などで処理することで、細胞膜を部分的に破壊し、細胞膜透過性を得ること。透過処理を行うことで、抗体や色素分子の細胞内部への浸透が可能になる。試料細胞に対して処理する透過剤として、Triton X-100などが用いられる。

3. ブロッキング

抗体処理を行う前に、試料細胞をBSA(牛血清アルブミン)溶液などでインキュベーションすること。ブロッキング処理を行うことで、抗体が抗原タンパク質以外の他の細胞内分子と非特異的に結合してしまうことを防ぐ。

4. 1次抗体反応

目的の抗原タンパク質に特異的に結合する抗体(1次抗体)で試料細胞を処理する。試料細胞中の目的タンパク質に1次抗体が結合した複合体を形成することを目的とする。

5. 2次抗体反応

1次抗体に特異的に結合する2次抗体を用いて試料細胞を処理する。ここで蛍光色素で標識された2次抗体を使用することで、目的タンパク質と抗体の複合体を蛍光で検出することができるようになる。

6. 試料細胞の核染色

DNA結合性の蛍光色素で試料細胞を処理し、細胞核を蛍光染色する。目的タンパク質の検出に用いる2次抗体の標識蛍光と色(蛍光波長)が異なる蛍光核染色剤を用いる。

7. 試料細胞の封入

蛍光染色を終えた試料細胞をマウント剤で封入する。蛍光シグナルの退色や試料の乾燥を抑制し、試料の保存を助けます。

8. 蛍光顕微鏡による観察

蛍光顕微鏡を用いて試料細胞を観察する。蛍光顕微鏡で、試料細胞に特定の波長の光を照射して、2次抗体や核染色剤から放出される蛍光をシグナルとして検出する。目的のタンパク質が細胞内のどこに、どのくらい存在するのかを実際に見ることができる。

免疫蛍光染色法は、興味対象のタンパク質の細胞内分布を高解像度で可視化する技術であり、様々な応用法が開発されています。上記の工程は、目的タンパク質由来の蛍光シグナルを特異的に検出するうえで、いずれの免疫蛍光染色法においても不可欠なステップとなります。

*監修
パーソルテンプスタッフ株式会社
研究開発事業本部(Chall-edge/チャレッジ)
研修講師(理学博士)

この記事は、理系研究職の方のキャリア支援を行うパーソルテンプスタッフ研究開発事業本部(Chall-edge/チャレッジ)がお届けする、実験ノウハウシリーズです。

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リケラボ編集部

リケラボ編集部

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