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こんにちは! リケラボで「その研究、私も理解したい!!文系女子が最先端の理系研究室に突撃取材」シリーズを担当している笹沼です。
みなさんは、『INCUBATOR(インキュベータ)』というお店をご存知ですか? こちらは、元研究者の野村卓史さんが店主を務める“サイエンスバー”。お酒やお料理、そして店内にちりばめられたこだわりの品たちが「理系ゴコロをくすぐる」そして「お酒や料理もこだわり抜かれていておいしい」と、人気を集めています。いったいどんな場所なのか気になる! これは行くしかない! ということで、先日お店にお邪魔してきました!
お店に入った瞬間目に飛び込んでくる白衣や実験器具
お店があるのは、新宿区荒木町。四谷三丁目駅(東京メトロ丸ノ内線)からすぐの場所です。曙橋駅(都営新宿線)や四ツ谷駅(JR中央線)からも歩けます。
お店に入ると、理系の人にはなじみ深いアイテムがお店のいたるところに置かれているのが目に飛び込んできました。
店主の野村さんは、学生時代に発生生物学を専門に学び、なかでも血管の形成に関わる遺伝子について調べていたのだとか。大学院を出て、実験機器を扱う企業に一度は就職したものの、しばらく働いてから「やっぱり研究がしたい」と、大学の研究員になりました。研究員になってからは、学生時代に学んだ血管に関する知識も活かしながら、脳卒中の新しい治療法について研究されたり、血栓を検出する機械の開発に携わられたりしたそうです。
その後、どうしてバーを始めることになったのか……など、気になることをいろいろと聞かせてもらう前に、まずはお酒とおつまみを注文させてもらうことにしました。
DNAのエタノール沈殿を活用したカクテル!?
まずは、お店の情報をリサーチしたときから気になっていたオリジナルカクテルの『DNA』を注文。こちらはDNAのエタノール沈殿を活用し、イチゴのDNAを肉眼で観察することができるサイエンティフィックな要素が満載のショートカクテルです。
メートルグラスに注がれているのは、イチゴの果肉がたっぷり入った濃厚ジュースと、ラム酒。イチゴジュースの上にラム酒が注がれ、2層になっています。その境界面から気泡にからまりながらふわふわと浮いてくるのが、ラムのアルコールと反応したイチゴのDNAです。
軽く揺することで反応が早まり、どんどんDNAが浮かび上がってきます。DNAのエタノール沈殿にはとても強いアルコールが必要なので、使われているラム酒のアルコール度数は75度。ラムのなかでもものすごく強いものだそうです。そのため、「しっかりと混ぜて召し上がってください」と、野村さん。「よく、『DNAだけを味わうことなんてないから、すくって食べてみたい』というお客さまもいるのですが、75度のラムの味ですよ。先にネタバレしておきます(笑)」と教えてくれました。
でも、やっぱりDNAの食感を味わってみたい! と思い、すくってひとくち食べてみました。イチゴをすりつぶしたような舌触りだけど、なんだかふわっとしてぷるっとしている……。不思議な食感でした。これがイチゴのDNA……。
しっかり混ぜてから改めて味わうと、イチゴのさわやかな酸味とラム酒の香りが合わさって、とてもジューシー! 果肉のつぶつぶ感やイチゴの甘みもありながら、強めのラム酒で味が引き締まっているので、しっかりと大人のお酒の味がします。余計な甘さがないので、どんなお料理やおつまみと合わせてもおいしくいただけそう。
イチゴが材料に選ばれた理由は、カクテルにしたときのおいしさと、DNAを得やすいというポイントからなのだそう。ほかにもいろいろな素材で試作を重ねたうえで選ばれました。
お店オリジナルのカクテルは、すべて野村さん考案のもの。素材を組み合わせて、イメージ通りのものになるよう、そして味もおいしくなるように試行錯誤を重ねる過程は、「研究で工夫するのと似ている」そうです。
アルコールランプでお好みの温度に
続いて注文させてもらったのが、アルコールランプで熱するお燗のセット。好みの温度になったら、おちょこ代わりのビーカーに注いでいただきます。
一般的に、お燗は50℃ほどで提供されることが多いそうですが、こちらでは自分で温度を細かく調整することが可能。温めながら段階的に味わうことで、「48℃くらいが好きかも……」など、自分にとってのベストな温かさを探ることもできます。
そして、一緒におつまみとして出してもらったのが、エイヒレの炙りセット。
大きな一枚のエイヒレを、ハサミでカットして……
アルコールランプで炙っていただきます!
ひとくちずつ、炙りたてを味わえるのがうれしいですね。
取り皿やお箸の代わりに使われているのは、シャーレとピンセット。すべて、研究の現場で実際に使用される“本物”でプロ向けのもの。「ちゃんとした本物に触れてもらいたい」という野村さんの想いが詰まっています。店内に置かれている顕微鏡などの機器は、お客さんが使用することもできます。
実験器具でお酒や食事を楽しむことの面白さについて野村さんと話していると、「研究の現場では仕事道具として使ってきた実験器具なので、それで飲み食いすることにある種の背徳感みたいなものもありますね」という言葉が。たしかに、普段は堂々とできないようなことだからこそ、楽しさが膨れ上がるような面もある気がします……!
実験器具は飲み比べにもぴったり
続いて、お店イチ押し・ワイン8種の飲み比べセットも注文。赤白4種類ずつのワインをテイスティングできます。
ワインは、ソムリエの資格を持つ野村さんが厳選した、こだわりのものたち。ワインを少しずつ飲み比べられるお店はなかなかないので、ワイン好きの方にぜひ試していただきたいです。
試験管に注がれたワインを見比べると、色の違いも感じられて面白い! 試験管やビーカーは、見た目や香り、そして味を比べるのにぴったりですね。
INCUBATORには、今回ご紹介した以外にもたくさんの種類のお酒やお料理があります。ビジュアルのインパクトやサイエンティフィックな面白さだけでなく、味のクオリティも高いものにすることは野村さんが大切にするこだわりポイント。ワインやカクテル、日本酒にそれぞれ合うよう選び抜かれたおつまみや、オリジナル配合のスパイスでつくられる特製の無水カレーなど、おいしいものばかり。ぜひお店で味わってみてください。
サイエンスを架け橋に、自然と交流が生まれるバー
最後に、野村さんがお店を立ち上げた経緯や、お客さんとの関わりについて伺ったお話をお届けします。
バーをやろうと考えたのは、いつごろだったのですか?
開業の9ヵ月前くらいですかね。
かなり急ピッチで開店されたのですね! 9ヶ月前ということは、研究員をされていたころですよね。どうしてお店を開こう、という考えに至ったのでしょう?
僕がいた研究チームにはいろいろな分野の研究者が集まっていて、仕事終わりに飲みに行ったりすると、自分の知らない分野の話を聞けて面白かったんです。すごく盛り上がることもあったし、せっかくだからお客さまを呼んで、たくさんの人と面白がったほうが楽しいだろうな、ということを考えていました。それで、バーを始める前に、サイエンスカフェ(研究者や一般市民が集まり、科学について気軽に語り合う場)でトークイベントの主宰をしていたんです。サイエンスカフェがいい感じに盛り上がっていくうちに、今度はさらに気軽に楽しめるような場所を、自分の箱として持てたらいいな、と思い、バーを開くことになりました。
ご自身で積極的にサイエンスのすそ野を広げる活動をされていて、すごいです……! お店では、野村さんご自身もお客さんとサイエンストークをされたりするんですか?
つい先日も、僕が研究していた専門分野についてお客さまとお話する機会がありましたし、スタッフもお客さまとサイエンストークで盛り上がっています。うちのアルバイトスタッフは、みんな理系の学部生や大学院生。現在は、薬学、昆虫、有機化学、計算化学、生物物理といった分野のスタッフがいます。
お客さん同士で交流が生まれることもありますか?
たびたびありますよ。面白いなあと思うのが、違う分野の人同士が居合わせたときに、一人の話を、もう一人が別の視点で解説してくれたりすること。たとえば、鳥類の研究を専門とするお客さまが、鳥が滑空するときの翼の仕組みについて話していると、隣にいた流体物理学専門のお客さまが、「ここに渦ができて、陰圧になるから……」と、解説してくれる。周りの人も、「へぇ?」って、みんな聞き入っちゃうんです。自然とトークショーが始まっているような感じですね。お店には、科学に関する気になることやわからないことを書き込めるノートも置いています。お客さま同士で、質問・回答をどんどんノートに書いてもらっているんです。
こんなふうに、いろいろな形でコミュニケーションが生まれることを楽しんでいたら、開業からあっという間に4年経ちました。お客さまには本当に感謝しています。これからも、文理も専門分野も問わず、いろいろな方に来ていただけたらうれしいです。
サイエンスを架け橋に自然と交流が生まれるバー、素敵です! おいしいお酒もお料理も、普段とはひと味違った実験室気分も満喫できて、今日はとても楽しかったです。ありがとうございました!
▼店舗情報
science bar INCUBATOR
東京都新宿区荒木町7番地 新駒ビル1階
TEL:03-5925-8832
営業時間:18:00~翌2:00(定休日:日曜・月曜・祝日)
Facebookページ
https://www.facebook.com/incubator.sc/
☆お店では、定期的にトークイベントなども開催されています。イベントの開催情報はFacebookページでご確認ください。
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