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私たちの生活の中には、「科学」で説明できることが多くあります。
見慣れている身の回りの自然を改めて科学的な視点で眺めてみると新しい発見や感動を知ることができます。毎日少しずつ変わる四季の変化から、いろんなサイエンスを親子で楽しんでみませんか。
第11回目の今回は、湿度のお話です。
良く冷え込んだ秋の朝、窓ガラスや植物の葉っぱにたくさんの水滴がついていることがあります。浴室の壁にもたくさんの水滴がついて、時々天井からポタリと落ちてくることがあります。
「結露(けつろ)」と呼ばれる現象です。
空気中には多くの水蒸気が含まれていることがその原因です。
近年、日本の夏は健康に危険な暑さの猛暑日が多くなりました。天気予報を見ていると、北海道地方でも沖縄地方と同じくらいの最高気温が予想される日があります。この季節に東北地方や北海道に行くと、同じ気温でも西日本より涼しく感じます。これは空気中に含まれる水蒸気の量に違いがあるからです。
空気中の水蒸気量はどのようにして知ることが出来るでしょうか。
1:湿度(しつど)とは
大気中の水蒸気量を表すのにはいくつかの表現方法があります。「湿度(しつど)」はそのひとつで、天気予報などでよく使われている言葉です。
湿度には「絶対湿度(ぜったいしつど)」と「相対湿度(そうたいしつど)」があります。
絶対湿度は、1㎤(立法センチメートル)に含まれている水蒸気の量をg(グラム)で表したものです。建築業界などでよく利用される湿度表記です。
相対湿度とは、空気の湿り具合を百分率(%)で表したもので、私たちが一般的に「湿度」というのは相対湿度のことを指しています。天気予報で使われる「湿度」も相対湿度のことです。
湿度には「実効湿度(じっこうしつど)」という表現もあります。(※1)実効湿度とは木材に含まれている水分量をあらわしたもので、過去数日間の湿度の履歴を考慮して算出します。実効湿度が60%~65%以下になると森林火災の危険性が高まり、「乾燥注意報」が発令されます。(※2)
風が強い日にはさらに危険性が高まります。
2:飽和水蒸気量(ほうわすいじょうきりょう)
空気はある一定量の水(水蒸気)を含むことが出来ます。空気中に含まれている水蒸気の量を「水蒸気量(すいじょうきりょう)」と言います。
空気は温度(気温)によって含むことが出来る水蒸気量に違いがあります。ある温度(気温)の空気が含むことが出来る水蒸気の最大量のことを「飽和水蒸気量(ほうわすいじょうきりょう)」と言います。
飽和水蒸気量を求める計算式(※3)があるのですが、この記事では計算結果を表にまとめています。
飽和水蒸気量(g/m3)の表(0℃以上)
3:飽和水蒸気量の表を使って湿度を計算しよう
2で掲載した飽和水蒸気量の表を用いて、湿度を求めてみましょう。
実習1
気温20.5℃の時、1㎤の空気は最大17.8gの水蒸気を含むことが出来ます。今、半分の8.9gの水蒸気が含まれていたとすると、
絶対湿度は8.9gとなります。
相対湿度は、8.9g÷17.8g×100=50%
となり、相対湿度50%となります。
実習2
気温がどんどん下がって9.1℃となったと仮定しましょう。
気温9.1℃での飽和水蒸気量は8.89gです(便宜上8.9gとして話を進めます)。この時の絶対湿度は8.9g、相対湿度は100%となります。
水蒸気量が変わらずに気温だけが変化すると、相対湿度は変化しますが絶対湿度は変わらないことがわかります。
実習3
水蒸気量が変わらずに、さらに気温が下がって8.4℃になったときのことを考えてみましょう。気温8.4℃の時の飽和水蒸気量は8.50gです。つまり絶対湿度は8.5gです。
相対湿度はどうなるでしょうか。水蒸気量は8.9gでしたが、8.4℃の空気には8.5gの水蒸気しか含むことができません。多すぎる0.4gの水蒸気は空気中に水蒸気の状態でいることができず、水滴となって窓ガラスや壁につきます。
これが結露です。
空気中には8.5gの水蒸気が含まれているので、相対湿度は100%となります。
4:湿度計いろいろ
湿度を調べる道具を湿度計と言います。お店に行くと、いろんな湿度計が売られています。湿度計には湿度を測る方法によりいくつかの種類に分けることができます。(※4)
これらは相対湿度を求めることが出来ます。
①乾湿計(かんしつけい)
相対湿度は、空気の温度とその中に含まれている水蒸気の量が分かれば計算することができました。
2本の温度計があればこれらを調べることができます。
2本の温度計を並べて置き、片方を水で濡らした綿ガーゼで覆います。ぬらした綿ガーゼで巻いた温度計を「湿球(しっきゅう)温度計」といい、もう一方のふつうに置いた温度計を「乾球(かんきゅう)温度計」と言います。
湿球温度計は湿度100%の状態。つまり湿球温度計が示す値は、現在の水蒸気量が湿度100%となる温度であり、これから空気中の水蒸気量がわかります。
乾球温度計は現在の気温を示しており、これからこの気温の飽和水蒸気量が分かります。
湿球温度計と乾球温度計は異なる値を示したとき、その数値の差から相対湿度を計算することが出来ます。
乾湿湿度表という換算表があり、これを利用して二つの温度計の値から湿度を調べることができます。
②バイメタル式湿度計
真ちゅうなどの金属に湿気を吸って収縮する感湿材(紙など)を張り合わせると、湿度の変化によって伸びたり縮んだりします。ゼンマイ型にして先に針をつけておくと、湿度の変化によって針が動いて湿度を知ることができます。
③毛髪湿度計
雨の日は髪の毛の癖がひどくて困ったという経験はありませんか。
毛髪も湿度によって伸縮します。
毛髪の伸縮性を利用して湿度を測る毛髪湿度計というのがあります。気象庁で使用されていた時期もありますが、現在は美術館など特定の場所で使用されているようです。
④デジタル湿度計
感湿材の湿度が高い(水蒸気量が多い)と電気を通しやすくなる性質を利用し、電極で挟んだ感湿材の抵抗、オーム(Ω)を測定することにより湿度を測る方法です。
皆さんのお家にある湿度計はどんな種類でしょうか。測定方法によって、測定出来ない場所があったり、信頼できる数値がでるまで時間がかかったりするものもあります。それぞれに長所・短所があり、湿度計によって値に差がみられることがあります。
5:湿度計(乾湿湿度計)をつくろう
2つの温度計を使って乾湿湿度計を作り、いろんな場所の湿度を測ってみましょう。
【用意するもの】
・アルコール温度計2本
温度計によって測定誤差があるので、同じ場所でおなじ値を表示する2本を選びましょう。筆者は棒温度計を使用しましたが、市販の温度計で乾湿温度計に利用できそうなものであればどんなものでも構いません。ただし、水銀温度計は正確性が高く値も信頼性がありますが、水銀は人体に有毒であり温度計が破損した時の処理が大変なので、今回の実検では水銀温度計は推奨しません。
・ガーゼ布
包帯やケガの当て布用のものを利用すると便利です。
・水を入れる小さな容器1つ
ジャム瓶、飲料・ヨーグルトなどの使用済み容器など、水を入れて安定して設置できる小さな容器を探しましょう。
・温度計を固定するもの
高さ1mくらいの位置に二つの温度計を固定できる工夫をしましょう。筆者は譜面台にクランプを取り付けましたが、壁際のフックを利用したり、出窓のスペースを利用したりする方法があります。
【作り方】
①測定誤差の少ない温度計2つを用意します。(今回準備したアルコール棒温度計2本では1℃の誤差がありました)
②片方の温度計にガーゼを巻きます。
③小さな容器に水を入れます。
④2本の温度計を安定な場所に設置し、ガーゼの先端が水に浸るように位置を固定します。温度計は水に漬けてはいけません。
⑤安定して固定できる工夫をしましょう。
Yumi作の乾湿湿度計はスタンドに温度計をぶら下げたもので、振動や風によって温度計が揺れてしまいます。持ち運びにも不便さがあります。もっと安定して固定できる工夫をされることをおすすめします。
例えば、ひとつの板に2つの温度計と水入れを固定してしまえば、どんな場所にも簡単に持ち運べます。市販品を参考に工夫してみましょう。
6:湿度計を使って「相対湿度」を測ってみよう
乾湿湿度計を使って湿度を測ってみましょう。
①湿度を測定したい環境に乾湿湿度計を設置し、10分程度置いて目盛りを安定させます。
②乾球と湿球(先端をガーゼで湿らせた温度計)の温度を読み取ります。
乾球温度計の温度は現在の室温、湿球温度計の温度は空気中の水蒸気量が飽和水蒸気量である(つまり湿度100%)の時の温度を表しています。
③「4:湿度計」に記載した乾湿湿度表を用いて湿度を求めます。
例えば下記の写真では、
乾球温度計21℃
湿球温度計16℃
となりました。乾球と湿球の温度差は5℃なので、乾湿湿度表から計算すると湿度57%となります。
すぐ近くに置いておいたバイメタル湿度計の針は湿度56%を指しているので、ほぼ正確に測定できていることが分かります。
7:いろんな環境での「相対湿度」を調べよう
いろんな環境での相対湿度を調べてみましょう。
①部屋の相対湿度
ある冬の日、暖房器具によって部屋の湿度がどのように変化するか調べました。
測定1:
相対湿度30%
(乾球温度15℃、湿球温度8℃)
窓を閉め、ファンヒーター(暖房+加湿)30分運転
⇓
測定2:
相対湿度40%
(乾球温度19℃、湿球温度13℃)
さらに1時間運転
⇓
測定3:
相対湿度57%
(乾球温度21℃、湿球温度16℃)
快適な室内になりました!
加湿機能のみOFF、暖房は継続して1時間運転
⇓
測定4:
相対湿度46%
(乾球温度24℃、湿球温度17℃)
さらに1.5時間継続
⇓
測定5:
相対湿度41%
(乾球温度25℃、湿球温度17℃)
非常に乾燥しています。
暖房OFFして2時間放置
⇓
測定6:
相対湿度59%
(乾球温度16℃、湿球温度12℃)
日本の冬は乾燥していますが、暖房器具と加湿器を上手く使用することで快適な室内にすることができることが分かりました。
②浴室の相対湿度
浴室は湿度が高く、カビや結露が多く発生する場所と言われています。一度の入浴でどれくらい湿度が高くなるのでしょうか。十分な設置場所が確保できなかったのでデジタル湿度計を使用しました。
測定7(入浴前):
相対湿度47%(室温15.5℃)
⇓
測定8(入浴1時間後):
相対湿度96%(室温24.3℃)
床や壁の水滴をタオルでふきとりました。
⇓
測定9:
相対湿度80%(室温16.8℃)
換気扇(強)で乾燥5分
⇓
測定10:
相対湿度59%(室温16.0℃)
さらに10分乾燥
⇓
測定11:
相対湿度59%(室温15.8℃)
換気扇は20分タイマー設定により自動的に停止した。
お風呂に入ることによって、浴室の相対湿度はほぼ100%に達することが分かりました。入浴後、水気をふき取りすぐに乾燥を開始することで短時間で湿度を下げることが出来ます。
8:不快指数(ふかいしすう)
気温と相対湿度が分かれば、気象予報で耳にするいくつかの指標となる数字を計算することができます。
ここでは「不快指数」を求めてみましょう。
不快指数は別名「気温と湿度による蒸し暑さの指数」とも言われ、次の式で計算することができます。
不快指数=0.81×気温+0.01×湿度x(0.99×温度-14.3)+46.3
「不快指数早見表」というのがあるので、気温と湿度が分かれば表から調べることもできます。
不快指数により過ごしやすさを数値化することができます。
55以下「寒い」
55~60「やや寒い」
60~65「何も感じない」
65~70「快い」
70~75「暑くない」
75~80「やや暑い」
80~85「暑くて汗が出る」
85~「暑くてたまらない」
という指標になります。
例えば、
測定1:相対湿度30%(乾球温度15℃、湿球温度8℃)の時の不快指数は「58.6(肌寒い)」、
測定3:相対湿度57%(乾球温度21℃、乾球温度16℃)の時の不快指数は「67(快い)」
となり、不快指数からもお部屋が快適な環境になったことが分かります。
また、
測定8:相対湿度96%(室温24.3℃)の時の不快指数は「75.2(やや暑い)」、
測定10:相対湿度59%(室温16.0℃)の時の不快指数は「60.2(何も感じない)」
となり、浴室の蒸し暑さが解消されたことになります。
不快指数は室内と室外で異なります。室内でもお部屋によって異なります。不快指数は「暑さ」だけでなく「寒さ」に関しても数値化することができます。みなさんの住空間の不快指数を計算し、より快適に過ごせるような工夫をしてみてください。
※不快指数を高精度に計算できる便利なサイトもあります。keisanサービス
9:暑さ指数(WBGT)
近年の夏は暑くなり猛暑日が多くなりました。天気予報では熱中症アラートが出され、熱中症予防対策が呼びかけられています。「暑さ指数」(WBGT(湿球黒球温度):Wet Bulb Globe Temperature)は、熱中症を予防することを目的として1954年にアメリカで提案された指標ですが、労働環境や運動環境の指針として有効と認められています。労働環境においては、国際的にはISO7243で、国内ではJIS Z 8504「WBGT(湿球黒球温度)指数に基づく作業者の熱ストレスの評価-暑熱環境)」として規格化もされています。
暑さ指数は、乾球温度、黒球温度、輻射熱によって計算されます(※5)が、「温度」と「湿度」が分かれば調べられる表もあります。
(暑さ指数の簡易計算表:日本生気象学会日常生活における熱中症予防指針 ver.4が完成いたしました。|日本生気象学会 (seikishou.jp))
一般には、暑さ指数(WBGT指数)は環境省の「熱中症予防情報サイト」で調べることが出来ます。
https://www.wbgt.env.go.jp/wbgt_data.php?region=&prefecture=
上記サイトによると、2024年8月25日13時現在の暑さ指数は以下のようになっていました。。
札幌(北海道)では「暑さ指数25.9」(警戒)
新潟(新潟県)では「暑さ指数29.4」(厳重警戒)
東京(東京都)では「暑さ指数32.7」(危険)
大阪(大阪府)では「暑さ指数32.1」(危険)
福岡(福岡県)では「暑さ指数28.1」(厳重警戒)
那覇(沖縄県)では「暑さ指数31.6」(危険)
この日は太平洋側の地域で暑さ指数が高くなり、熱中症警戒アラートが多く出ていることがわかります。8月25日9時の天気図を見ると、日本の南の太平洋上に台風10号と熱帯低気圧があることがわかります。このうち台風10号は勢力を強めながら日本列島に接近し縦断するという予報が出ています。
太平洋沿岸の地域には台風10号に吹き込む南風の通り道となり、水分を多く含んだ高温の空気の影響で気温も湿度も高くなっています。
また、山陰地方から東北地方にかけての日本海側でも暑さ指数が高めになっているのは、南風が本州の中心にある山脈をとおり越して吹き下りた「フェーン現象」の影響があると読み解くことが出来ます。
暑さ指数が高い日は、熱中症対策を心掛け、体調を崩さないように気を付けて過ごしましょう。
***もっと知りたい方へ***
※1 実効湿度(松山地方気象台)
https://www.jma-net.go.jp/matsuyama/publication/tenko/tenko201912.pdf
※2 乾燥注意報は、地域によって基準が異なるため、お住まいの地域の基準を確認するには、気象庁のHPなどをご確認ください。
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/kijun/index.html
※3 Tetens(テテンス)の式で飽和水蒸気圧e(t)を求めた後、飽和水蒸気量a(t)を求める式で計算します。
※4 湿度計Q&A(EMPEX株式会社サイト)
https://empex.co.jp/support/thfaq/thfaq.htm
※5 暑さ指数(WBGT)湿球黒球温度とは
環境省熱中症予防情報サイトhttps://www.wbgt.env.go.jp/sp/doc_observation.phpによると、暑さ指数は、
屋外ではWBGT =0.7 × 湿球温度 + 0.2 × 黒球温度 + 0.1 × 乾球温度
屋内ではWBGT =0.7 × 湿球温度 + 0.3 × 黒球温度
で計算するのが正式な方法である。
***参考文献***
岩槻 秀明著「気象学のキホンがよ~くわかる本[第3版]」(秀和システム・三松堂印刷株式会社、2017年12月25日出版)
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