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今回は、日本最大級の公的研究機関、国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」)へお邪魔しました。「国立」の名の通り、とても巨大な組織です。産総研に7つある研究推進組織のうち、計量標準総合センター(NMIJ:National Metrology Institute of Japan)で研究員として働く、木津良祐さん(入所5年目)にご登場いただきました!
(※所属などはすべて掲載当時の情報です。)
産総研
正式名称は国立研究開発法人 産業技術総合研究所。経済産業省が所管する、日本最大級の公的研究機関であり、日本の産業や社会に役立つ技術の創出と実用化、革新的な技術シーズを事業化するための橋渡しとしての役割を担っている。7つの研究推進組織(5研究領域・2総合センター)があり、約2300名の研究者が在籍。茨城県つくば市を中心に全国に11ある拠点で研究開発を行っている。
https://www.aist.go.jp/
日本の「国家計量標準」を構築する研究所
1メートルや1キログラムといった単位は世界で統一され、共有されている単位です。これらの計量単位は1875年に締結されたメートル条約に端を発し、現在は、長さ『メートル(m)』・質量『キログラム(kg)』・時間『秒(s)』・電流『アンペア(A)』・熱力学温度『ケルビン(K)』・物質量『モル(mol)』・光度『カンデラ(cd)』の7つの基本単位を基礎として構築された、SIと呼ばれる国際単位系によってその定義が明確に定められています。
これにより、モノづくりや商取引が国家間でもスムーズに行うことが可能となっています。いわば、単位はあらゆる産業の根幹であると言えます。もし、国ごとに単位がバラバラだったり、同じ単位の計測結果が国によって異なっているようなことがあると、貿易に大きな支障をきたしてしまいます。そこで、単位の定義を明確に定めるだけでなく、量を測定する際の基準となる値(計量標準)を定め、各国において計量標準を厳密に管理しているのです。
また、科学の発展、計測技術の向上とともに単位の定義も新しくなっていきます。そのため、単位の定義改定に合わせて、計測・分析・解析手法や計測機器・分析装置の高度化、特定計量器の基準器検査や型式承認試験などの試験検査・承認、新しい技術に基づく計量器の規格策定などが必要となるので、計量標準に関連した技術の研究開発が終わることはありません。
NMIJは、日本における計測技術の研究開発と、「国家計量標準」の整備・維持・供給をミッションとしている日本で唯一の機関です。2019年5月にはSIの7つの基本単位のうち、4つの基本単位(質量・電流・熱力学温度・物質量)の定義が変わりましたが、NMIJはこの定義改定においても、大きな役割を果たしました。
https://unit.aist.go.jp/nmij/info/redefinition/
木津さんはそんな中、ナノスケール標準という、ナノメートルレベルの長さの計測技術開発において、計量の基礎となる「ものさし」づくりに奮闘しています。
就職か博士課程か、迷いの中で見つけた修士から研究者という道
私は大学院の修士卒で産総研の国家計量標準の開発と維持・供給を行う計量標準総合センターに入所し、現在研究者として5年目を迎えました。
十代の頃から研究者やエンジニアという存在に憧れがありました。「新しいことや誰も知らないことを見つけるのは面白そう」、そんな純粋な思いからでした。大学では電気電子工学を学び、学部4年以降は半導体の研究に従事しました。でも、大学では研究職についての現実も知ることになりました。まず、博士号を取得するまでの期間、経済的な基盤が整っていない状態で研究活動を行わなければならない現実。また、博士号を取得した後、大学・研究機関等に採用される場合は任期が設定されていることがある現実。そして、任期中に充分な成果を出せなかった場合の将来設計をどうするか等々、厳しい現実が見えてきたのです。そんな現実が見えてきてから、博士課程に進むべきか、就職するべきか迷うようになりました。さらに修士課程の1年で就活が始まると、同期はどんどん企業への就職を決めていきます。さすがに焦りが募り、まずは就活をやってから考えてみよう、そんな方向で動き出すことにしたのです。しかし、最初の採用試験は失敗!次はどうしようか…そんなことを考えていたときに、大学で開催された就職セミナーで出会ったのが産総研です。
産総研が修士を研究職として採用していることを知らずノーマークだったので、本当に驚きました。でも当時は、産総研の中でも修士卒を研究職に採用していたのは計量標準総合センターだけだったのです。計量は未知の世界で、大学での研究分野とも異なります。しかし産業界で必要とされる計測技術の開発や、計量標準を整備していくというミッションの説明を聞くうちに、純粋に楽しそうだと思うようになりました。これまでの経験を活かせる部分も少なからずあるとわかり、チャレンジすることにしたんです。そして採用試験を突破し、晴れて産総研への入所を果たすことができたのです。
原子間力顕微鏡を使った三次元ナノスケール標準の研究開発に挑む
私が所属しているのは、工学計測標準研究部門の中のナノスケール標準研究グループです。このグループは7つのSI基本単位の中でもメートルに関連し、ナノメートル(1 nm = 1×10 -9 m「1 mmの100万分の1」)オーダーの微小な長さを保証するためのナノスケール標準の整備に向けて、ナノ構造の寸法・形状をメートルの定義に従って正確に計測する技術の研究開発を担っています。
現在あるナノスケール標準で代表的なものは、ナノメートル単位で周期的に線が並んでいる、いわば「ものさし」のような一次元的なものです。それ以外にも、高さの標準、粗さの標準など、測定対象に応じた多くの標準があります。私は、原子間力顕微鏡(AFM: Atomic Force Microscope)を用いて、半導体上に加工されたラインパターンの線幅や三次元形状に関する標準の研究開発に挑んでいます。
AFMによる形状計測の原理は、三次元的に動かせる走査装置に鋭い針を取り付けて、針先と計測したいモノの表面の距離を一定に保つように走査装置を制御しながらなぞる、というものです。この針先がどう動いたのか、針先の変位を計測することで、なぞった試料形状がわかるという訳です。
私たちが開発しているAFMが一般的なAFMより優れているのは、レーザー干渉計という技術を利用してメートルの定義(光の速さ)に基づいて変位を正確に計測している点です。加えて、高精度な三次元計測のための様々な要素技術を開発して組み込んでいます。これらの技術により三次元ナノ構造の正確な形状計測が可能になりました。
この技術の応用先ですが、これによって得られたナノスケール標準は、さまざまな顕微鏡のスケール(縮尺)校正に使えます。半導体デバイスの製造では、半導体ウエハ上に作製するナノ構造の形状を電子顕微鏡で確認する必要がありますが、我々のナノスケール標準を元に電子顕微鏡自体のスケールを校正すれば、寸法計測の正確さが担保されます。正確な計測によって半導体デバイス検査技術の信頼性が高まれば不良品も減り、製造の歩留まりの向上に寄与できると考えています。私が担当している三次元ナノ構造の形状計測技術に関しては、現在基礎的な計測方法やデータ解析手法が確立できたので、今後はナノスケール標準の整備のために一層の高精度化のための改良を進める段階へ入っています。同時に、産業界の計測ニーズへの対応や他の基礎研究への利用も積極的に進めたいです。
私は前任者からこの計測装置を引き継ぎ、制御システムやデータ処理プログラムの改良を続けながら研究を行っています。この装置は世界最高レベルの正確さと精密さでナノ構造の形状計測ができるという優れたものですが、まったく新しいものなのですべてが手作りです。そのため改良するにも機械設計から電気回路、制御システム、データ処理プログラムの構築まで、多くのことを自分たちで行わなければならず、さまざまな技術を習得する必要がありました。また、研究テーマの設定から実験、解析、論文発表、および、それらのための先行研究調査や基礎学問の勉強、論文執筆スキルの習得と、やるべきことは山のようにあります。入所した当初はハードルが高いものもありましたが、上司や先輩研究員にアドバイスを受けながら勉強し、次第に知識や技術も身についてきていることを実感しています。
産総研の修士型採用なら、若手のうちからじっくり研究に打ち込める
産総研の「修士型採用」は、その名の通り、修士卒でも研究者になることができます。また、定年制なので、落ち着いて研究に取り組めることは大きな魅力だと思います。私は入所の際、「10年間は計量・計測に関する基礎的・専門的なことをしっかり学んでください」と言われ『とても懐の広いところだなあ』と感激しました。若手に経験を積ませ、じっくり育てていこうとしてくれるのは本当にありがたいです。最初は研究テーマが変わったという戸惑いや不安が少なからずありましたが、こうした環境だったので、学びながら研究に打ち込むことができました。おかげでさまざまな論文を読み、新しいことを知り、技術を習得することができました。すべてにおいて時間を有意義に使うことができて、何をやっても楽しいと感じられる日々を送っています。
計量標準や計測の分野は、これからも進化する研究分野であることと、じっくり研究に取り組むことが出来る点が魅力です。また、新しいものが次々に生まれてくる中でも、長期的視点から本当に求められているものは何なのかを見極め、テーマを選ぶことが重要となる研究分野であると実感しています。私は今の段階では多くを学ぶ立場ですが、いずれは自分が主体となって新しい装置開発や重要な計測技術を生み出していくために、これからも努力したいと思っています。
産総研では、「コアタイムのないフレックスタイム制」や「裁量労働制」の活用により柔軟に勤務することが可能なので、修士で採用された後、うまく時間を使って博士号を取得している方もたくさんいます。私も現在のテーマについて一連の仕事をまとめる目処がついたら、社会人学生として大学へ入学して博士号の取得を目指そうと思います。
就活生へのメッセージ
就活は人生を大きく左右するものです。就活の時期が近づいてきても、就活のことはよくわからないし少し面倒だと感じて出遅れてしまう人も少なくないと思いますが、ここで全力を尽くさないと自分の将来にとって不利益になると思います。また、大学で学んできた専門分野から大きく変わってしまい不安に感じる場面もあるかもしれませんが、専門分野に近いところに限定せず、いろいろな情報を集めていろいろな選択肢を考えてみてください。私の場合は、「もし分野を変えることになっても一から勉強すれば身につくし、新しいことを学ぶのは楽しいだろう。」と前向きにイメージして決断したことが、うまくいったのだと思います。そして、研究室の教授や同期の友人などと十分相談しながら自分に合った方法を考え、万全の準備で就活に挑むことをおすすめします。
編集部より
「産総研に出会えたのは運が良かった」とおっしゃる木津さんですが、お話を伺うと真摯に研究に取り組み、また知らない分野について知るのは何でも面白いという、前向きな姿勢が印象的でした。研究室で装置の説明をしてくれる木津さんの顔はとても生き生きとしていて、日々の研究や業務を心から楽しんでこなしている様子が伝わりました。
産総研では、修士、博士のどちらも研究職に採用しています。修士は、定年制の修士型採用のみ年1回の募集となりますが、博士は、テニュアトアック型任期付採用、年俸制任期付採用、プロジェクト型任期付採用、定年制のパーマネント型採用の4タイプがあり、春と秋の年2回募集しているので、産総研ホームページの採用情報のページを小まめにチェックすることをおすすめします。
木津さんが入所した当時、修士型採用は計量標準総合センターだけでしたが、2020年度採用においては計量標準総合センターの他3つの領域でも募集を行いました。産総研は、修士型採用についてもっと認知度を向上させたいということでしたが、皆さんが就活するうえでは、こうした情報を自らキャッチすることも大切だと感じました。
アンテナを広く張ることで、思いがけないチャンスや、面白くてやりがいのある仕事に出会える可能性が格段に高まります。研究が忙しくなかなか時間が取れないかもしれませんが、後悔しないよう、就職に関する情報収集もしっかりと行って下さいね!
リケラボは、これからも理系の学生さんの就活の参考になる情報を発信していきます!
産総研では【研究職(修士)】5daysインターンシップ<計量標準>の
エントリー受付を開始しています!!
世界最高精度の計測技術開発を体感し、
あなたの未来に“研究者”という選択肢を増やしませんか?
「研究職5daysインターンシップ」
開催日時:8/26(月)~8/30(金)
会場:産総研つくばセンター(茨城県つくば市)
応募〆切:7/7(日)23:59 〆切
インターンシップの概要やコース内容の詳細の確認、またご応募は以下URLより行えます。
https://www.aist.go.jp/aist_j/humanres/02kenkyu/index.html
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