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「常に意識しているのは、ユポだから可能な新機能商材の開発」 帯電しやすい特性を活かして生まれたギター用センサー。 理系のキャリア図鑑vol.10 株式会社ユポ・コーポレーション | リケラボ

「常に意識しているのは、ユポだから可能な新機能商材の開発」 帯電しやすい特性を活かして生まれたギター用センサー。

理系のキャリア図鑑vol.10 株式会社ユポ・コーポレーション

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世の中には私たちが想像している以上に多様な“理系のシゴト”があり、さまざまな人材が活躍しています。理系のキャリア図鑑は、理系の道で活躍する先輩たちにお話を伺いながら、理系の仕事の幅広さを伝え、就職のヒントを探っていくシリーズです。

今回お邪魔したのは、株式会社ユポ・コーポレーション。選挙時に投票用紙の書き味が話題になるのでご存知の方も多いかもしれませんが、この「ユポ」と呼ばれる合成紙を製造・販売している会社です。一般的に紙といえば印刷したりものを書いたりといった用途が想像されますが、この合成紙ユポをなんとセンサーに使ったエレクトリックアコースティックギターが、2019年4月に発表されました。紙とセンサーのどこに関連性があるのか気になるところであり、またユポ自体にも興味深い点がたくさんあります。そこで、今回はセンサー用ユポの開発に携わった商品開発本部の飯田誠一郎さん、開発研究所の小池弘さん、菅俣祐太郎さん、またこれからこの商品のマーケティングを担う商品開発本部の加藤竜太さんに同席いただき、開発の背景や技術、社内での研究開発体制や各々のこれまでなどについて伺いながら、ユポ・コーポレーションについてのキャリア研究をしてみたいと思います。(※所属などはすべて掲載当時の情報です。)

(写真左から 菅俣さん、小池さん、飯田さん、加藤さん)

株式会社ユポ・コーポレーション
1969年に王子製紙株式会社(現王子ホールディングス株式会社)と三菱油化株式会社(現三菱ケミカル株式会社)の折半出資により誕生し、2019年に創業50周年を迎えた合成紙メーカー。社名のユポは三菱油化の「YU」と、王子製紙の「O」をPaperの「P」で結びつけたもので、社名であり、ブランド名。ポリプロピレン樹脂から作る合成紙のトップブランドとして製品開発と用途開発を行っている。アメリカの現地法人をはじめ、ヨーロッパ、中国、インド、タイにも販売拠点を持ち、グローバルマーケットでの存在感も大きい。
http://japan.yupo.com/

木材パルプを使用しないユポは、紙とフィルムの良さを併せ持つ機能性の高い合成紙

しっとりした手触りのユポ。紙とはいいつつ、ノートやコピー用紙などの一般的な紙とはかなり違っています。原材料はポリプロピレンと無機充填材、そして少量の添加剤のみ。これにミクロボイドと呼ばれる多数の孔を発生させながらフィルム法合成紙という手法で成形されたものが合成紙ユポです。水に強くて破れにくく、油や薬品にも強く、軽くて表面はなめらか。印刷の美しさや筆記特性も高いなど、紙とフィルムの良さを併せ持った機能性の高さが特徴です。あまり見たことがないかも?と思うかもしれませんが、耐候性が必要なポスターやショーウインドウディスプレイをはじめ、シャンプー容器等のラベルや水濡れしても大丈夫なレストランのメニュー、イベントや医療機関で使われるリストバンドといった、広告から日用品、文房具や各種パッケージまで、ごく身近なものに多数使われています。しかも独自のテクノロジーによってさまざまな特性を持たせることができ、和紙風やメタリック、透明のものなどもあり、すべてを含めると数百種類というほどバリエーションが豊かです。

合成紙は高度経済成長時代(1960年代)に、木材に代わって紙の原料となる画期的な新素材として開発が進められました。オイルショックの波にさらされて他社が撤退するなか、ユポ・コーポレーションはこの合成紙・ユポを50年に渡って作り続け、トップブランドへと押し上げてきたのです。現在では世界70カ国以上で使われ、グローバルなビジネスを展開しています。

新たな商材を増やしたいという想いで圧電素子機能を持つ新規用途を見出す

ユポはもともと、ラベルやポスターといった印刷物用として開発され発展・普及してきました。しかし、ユポならではの特性を生かした新規用途の製品を生み出すことが研究開発員だけでなく会社としての重要なテーマでした。その一つとして、新規開発に挑み続けた研究者たちが長い年月をかけて開発したのが、圧電素子になるユポです。一般財団法人小林理学研究所(以下小林理学研究所)とヤマハ株式会社(以下ヤマハ)との共同開発によってこれを用いたコンタクトセンサーが完成し、新しいアコースティックギター用ピックアップシステム「Atmosfeel」に採用されました。ヤマハによれば、このセンサーは高音までスムーズな特性を持ち、耳障りな音がなく自然な音を実現したとのことです。「Atmosfeel」はヤマハ製のエレクトリックアコースティックギターの中でも「FG/FSレッドレーベル」と呼ばれる名機に初めて搭載されました。

飯田:当社の主力は主に印刷用のフィルムですが、ポリプロピレンだけが持つ機能を追求した新しい製品を作ろうという意気込みを常に持っています。 2007年頃に小林理学研究所から帯電しやすいポリプロピレンの性質を活かしてみてはとアイディアをいただき、静電吸着という特徴に着目して研究を進めていきました。

商品開発本部の飯田誠一郎さん

小池:ユポは元々静電気が起きやすく、会社設立後50年間、いかに帯電を抑制するかをテーマに開発を進めてきました。紙なのにホコリがつきやすいというのでは駄目ですから。しかし、帯電しやすいのなら逆にそれを活かせばいいのでは、というのは新しい着眼点でしたよね。

飯田:まさに逆転の発想とはこのことです。そこから5年ほどかけて2012年頃に糊を使わず静電気で壁やガラスにくっ付く「ユポ静電吸着」が生まれます。これは改良が進んで今は店舗のディスプレイなどでの利用が広がっています。小林理学研究所には開発当初から物理解析などを行ってもらっていますが、もっと高機能なものができるのではという話に発展していきました。そこで、ユポにある孔、ミクロボイドに電気を溜める圧電特性の高い、センサー材料としてのユポの開発が始まります。2013年からはヤマハが共同開発パートナーとして参加されました。

ユポ・コーポレーションが開発した「ユポ静電吸着」

小池:新しいユポではどんな形のボイドを開ければ効率的に電気がボイドに溜まり、センサーとしての機能が果たせるのかといったことを小林理学研究所と一緒に研究し、ヤマハにもヒアリングしながら、求められた特性をいかに出すかを探りました。主力製品の作業を行う傍ら試作を提出して先方の評価を待つという、地道な作業の繰り返しです。一通り完成して材料として提出したあとは、随時物性確認をするといったことを行っていました。センサーや楽器の作り込み自体は小林理学研究所とヤマハの2社で行われました。

開発研究所の小池弘さん

飯田:このセンサーに使われているユポは、ミクロボイドの形状と配置を最適化し、特殊な帯電行程を経ることで電気が溜まります。振動を与えると表層のミクロボイドが変形し、電気信号が発生して音となりますが、ユポがとても薄くて柔らかいので、集音感度の高いセンサーを作ることができています。ユポだからこそ、ヤマハが求めていた音の“空気感”が再現できるのだと思います。耐久性も抜群です。このセンサーはヤマハのエレクトリックアコースティックギターの復刻モデル4種に使われていますが、名品の復刻に使われているということは、良いものを開発できた証だと思っています。

開発には足掛け12年ほどかかりましたが、苦労したのはスケールアップの部分。ラボの小スケールレベルでは比較的初期に目処はつきましたが、工場での試作になると材料配合や成形の条件など、品質コントロールに苦労しました。ただ、一通り完成したあとは大きな問題もなかったので良かったです。

実際にギターの内部に使用されているユポの振動の様子を測定する実験。

菅俣:私の入社時期がちょうど当社での開発の終盤に入った頃でした。大学院では有機合成が専門でしたので、電気についてわからないことも多かったのですが、基礎を含めて電気物性などについて教わり、新しい開発に携われたのはいい経験でした。

飯田:このユポは、当社の本道ではないところでの新規用途を見つけることができた、意味のある開発です。それを菅俣さんのような若手が経験してくれたのは良かったし、形になるまで10年以上かかりましたが、こういうことをやらせてくれる土壌がある会社だと学生さんにも知っていただきたいですね。

小池:開発者としてはユポが紙という概念を脱ぎ捨て、機能を主役にした新しいステージに行きたいという想いを持っています。簡単なことではありませんが、エレクトリックギターのセンサーで実現できたのはすばらしい成果で、またユポがハイエンドなものであると証明できたと思います。やってきた甲斐があったし、可能性を示すことができてうれしかったですね。

飯田:これからは私や加藤ら、商品開発本部の面々がこれを世の中の多くの皆さんに受け入れていただくことで、最終的にやり遂げた、という達成感を得たいと思います。

さまざまなチャレンジをしながら経験を積み、新規開発やキャリアアップが可能な環境がある

最後に、みなさんのこれまでの経験などもお聞きしつつ、ユポ・コーポレーションでのキャリアの築き方や、目指すところについても伺ってみました。

菅俣:私は学生時代に有機合成を学んでいたので、電気物性など入社して学ぶことばかりでした。入社時の研修のまとめでは「こんなユポを作りたい」、と書いたところ「印刷の枠を壊すものを作れ」と言われたことが印象に残っています。今回のユポ開発に少し関わって、新しい道を開く場面を見られたのは貴重な経験でした。学生時代とは違ってテーマを複数持ちつつ、期限がある中で製品に落とし込んでいかないといけないのは大変ですが、入社6年目を迎えてできることが増えていっています。印刷・非印刷用で両方のテーマを持っていますが、結果を出せるようにがんばります。

開発研究所の菅俣祐太郎さん

小池:私は高専の工業化学専攻で、開発を希望して三菱油化からユポ・コーポレーションへと移りました。ありがたいことに新しいことばかりにトライさせてもらってきています。飯田さんが研究所にいたときはそれこそ、家族以上に長い時間を一緒に過ごしたし、議論しながら開発に挑んできました。何でも言い合いながら作っていける環境は良いと思います。ユポ開発は試作をするにしてもスケールが大きく、実験室に収まらない仕事ですが、負けず嫌いの後輩に出てきて欲しいですね。

飯田:誰とでも気軽に議論ができることこそ、ものづくりを大きく前進させるので、それができる会社であることは誇りです。多くの学生のみなさんにユポ・コーポレーションの自由さや、面白いと思えることにチャレンジできる会社だと知っていただきたいですね。私自身は触媒化学の専攻ですが、三菱油化へ入社して吸水ポリマー研究を行い、世界市場を見られる製品に携わりたくてユポ・コーポレーションへ来ました。研究所に10年いる間はずっと新規開発に挑み、現在は本社のマーケティング部門にいます。新しいものばかりに関わっている珍しいケースですが、いろんな経験をできたことは大きいです。

加藤:私は有機合成を学んでいましたが、入社してからは生産管理、カスタマーサポート、商品開発本部と、さまざまな部門を経験してきました。新しいことを経験したいというタイミングで異動させてもらえてきましたし、今の部署では商品開発や見本市などで海外に足を運ぶなど、グローバルに活躍したいと思っていた希望も叶っています。いいキャリアパスを描ける会社だなと感じています。

商品開発本部の加藤竜太さん

飯田:研究者としてキャリアを積む人もいるし、加藤さんのように希望があればいろんな部署で経験を重ねながら、海外も含めた広いフィールドで働く人もいる。多様な選択ができる会社だと思います。私自身も研究10年、商品開発を11年と年月を重ねてきました。まだまだユポを多くの人に知ってもらいたいので、もっと身近に知られる商材を提供できるよう、これからもみんなでチャレンジを続けたいと思います。

<就活生へのメッセージ>

菅俣 祐太郎さん
学生時代には企業がどんな研究をしているのか、イメージすることはなかなか難しいことです。私自身は最終製品を見たときの直感を信じ、ユポ・コーポレーションのことを「面白そう」と感じたことで入社を決めました。こうした直感は入社してからの熱意にも関係すると思うので、大事にしてください。就職先を選ぶ際には自分が専攻していないところにも目を向けて、感覚も大事に選んで欲しいと思います。

加藤 竜太さん
ユポ・コーポレーションはいろんなキャリアを経験できる場です。私は学生時代にオーストラリアでのワーキングホリデーも1年経験し、研究にこだわらずグローバルに活躍したいと思っていました。この会社は若手でも海外へのチャレンジが可能だと知り、希望に沿っていると思い選択しました。自分のやりたいことを探し、さらにチャレンジできる環境があるのかどうかも考えて就職先を選ぶことをおすすめします。

小池 弘さん
研究を行う上で、直感というものを誰しも感じることがあると思います。何かしらの違和感があれば放置せずによく整理してみることを大事にしてください。それを見逃すと何年か積み重ねたあとに後悔する可能性が高いし、直感についてよく考えてみる習慣があれば、かならずどこかで活きてきます。研究でも、就活でも「何故そう思ったのか」という自分の感覚を大事に考えてみることで、後悔しない結果がついてくると思います。

飯田 誠一郎さん
学生のみなさんには視野を広く持っていて欲しいなと思います。少し広げるだけでも自分を活かせるところが見つかるはずです。また、企業を選ぶ際には人を見てください。何人かの人に会えばきっと社風はわかりますから、人を大切に思ってくれる企業を見極められるといいですね。規模ではなく、一緒に働きたいとか、人を大事にしてくれる会社だと感じられれば間違いないですし、ユポ・コーポレーションはそういう会社であると思っているので、ぜひみなさんの視野に入れてもらえたらと思います。

<編集部より>

ユポ・コーポレーションは合成紙のトップブランドとして既存製品の機能を高め、また改良を重ねているだけではなく、新しい商材としての可能性を追求し、さまざまなチャレンジをしていることが取材からわかりました。ギター用センサーの件は反響が大きかったそうですが、新規開発は若手の研究者にも刺激になるだけに、今後の進展や広がりに注目したいところです。これまでにはなかったさまざまな分野での開発はほかにも進んでいる様子で、どのようなものが生まれてくるのか楽しみです。

今回は鹿島コンビナート内にある工場にお邪魔し、製造工程も見学させていただきました。会社の成り立ちや行程の説明はわかりやすく、また商品についても丁寧に解説いただき、社員のみなさんが製品や会社にとても誇りを持っていること、また、トップブランドの地位に甘んじず、新しいモノづくりに一丸となってチャレンジしている情熱が印象的でした。会社選びでは「この人たちと一緒に働きたい!と思えるかどうかが非常に大事」という飯田さんのメッセージに込められた意味を、編集部もしっかり体感できました。企業やOB訪問をされる際にはこうした部分を意識して、ぜひ良い出会いにつなげてください。

工場見学中に見つけた、ジャンボロールと呼ばれるユポの巻き取り工程

リケラボ編集部

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