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エビデンスに基づいた価値ある商品をお客さまに届ける!進化を続けるヤクルトの商品開発の仕事| リケラボ

エビデンスに基づいた価値ある商品をお客さまに届ける!進化を続けるヤクルトの商品開発の仕事

理系のキャリア図鑑vol.29 株式会社ヤクルト本社 中田雅也さん

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多種多様な理系社会人のインタビューを通じ、やりがいと誇りを持てるはたらき方を探る「理系のキャリア図鑑」シリーズ。今回は乳酸菌飲料でおなじみの株式会社ヤクルト本社様を取材させていただきました。

「ヤクルト」といえば、誕生から90年近く経つ、多くの人に親しまれている乳酸菌飲料。最近はストレス緩和や睡眠の質の向上の機能をもった「Yakult(ヤクルト)1000」「Y1000」の大ヒットが記憶に新しいですよね。

ヤクルトの商品開発の仕事はどのように進められているのか? はたらいている商品開発の方々は、どのような人達なのか?ヤクルト本社の開発の社員さんにお話を伺うことができました!

株式会社ヤクルト本社

創始者の代田稔博士は、腸を健康にすることが、健康と長生きにつながる「健腸長寿」という考えのもと、数多くの微生物を研究。「ヤクルト」は代田稔博士が強化培養に成功した乳酸菌 シロタ株(L.カゼイYIT9029)を元に、1935年に乳酸菌飲料として誕生。1955年にはヤクルト本社が設立され、現在では乳酸菌飲料以外にも多様な食品、医薬品、化粧品など幅広い事業を手掛ける。東京都国立市にはヤクルト中央研究所があり、「予防医学」「健腸長寿」「誰もが手に入れられる価格」という“代田イズム”を継承した研究開発を行っている。
https://www.yakult.co.jp/

画像提供:株式会社ヤクルト本社

<お話を聞いた人>
開発部開発一課 中田雅也さん(入社13年目)

大学入学後、動植物の生態や生理学に関する基礎分野について学んだ後、乳酸菌の生理機能に関する研究を行う。ヤクルト本社に入社後は、ヤクルト類やソフール類といった乳製品から、タフマン類、「搾りたてにんじん」などの清涼飲料に加え、「ヤクルト麵許皆伝」(即席めん)などの幅広い分野でブランド担当を務めてきた。(※所属などはすべて掲載当時の情報です。)

1935年の誕生から現在まで、進化を続ける“ヤクルト”

―「ヤクルト」といえば、「乳酸菌 シロタ株」ですが、改めて良さを教えてください。

「乳酸菌 シロタ株」(L.カゼイYIT9029)は1930年、後にヤクルトの創始者となる代田 稔(1899-1982)によって強化培養された乳酸菌です。

生きたまま腸にとどき、よい菌を増やし悪い菌を減らす、つまり腸内環境を良くしてくれます。菌だけでなく有害物質を減らすこともわかっています。

代田博士の唱えた「病気にかかってから治すのではなく、かからないための予防が大切」という予防医学の考えは当時では先進的なものでした。

―いろんな種類があるんですね!

ヤクルトシリーズは現在8種類を発売しています(20233月時点)。すべて代田博士の予防医学の考えを大切に、商品を開発してきました。

画像提供:株式会社ヤクルト本社

―これらの違いは何でしょうか?

含まれている乳酸菌の数や機能性成分、栄養素等、商品毎にターゲットとなるお客さまに適した商品特長を持たせています。どの商品も、ヤクルトの本質である「腸を科学する」という姿勢は忘れず、普遍的なエビデンスを追求しながら環境の変化、社会の変化に合わせた商品を開発することを意識しています。

―エビデンスを重視されているからこそ、「科学するヤクルト」なのですね。

「乳酸菌 シロタ株」の良さは、なんといっても長年の研究によって得られた多くのエビデンスを有していることです。科学の進歩に伴って「乳酸菌 シロタ株」の新たな有用性も見つかりつつあります。当社の商品の提供価値は多岐にわたり、それぞれの商品に特色があるので、ご自身のニーズに一番合った商品を選んでいただきたいと思っています。

乳酸菌を増やすのはラクじゃない!長年の研究と技術があって商品が形になる

―「Yakult1000」「Y1000」が爆発的なヒットとなったのは、多くの人がその効果を体感したからだと思いますが、開発の狙いなど教えてください。

Yakult1000」「Y1000」は1ml中に「乳酸菌 シロタ株」が10億個と、ヤクルト史上最高密度の「乳酸菌 シロタ株」が含まれています。これらの商品は機能性表示食品で、一時的な精神的ストレスがかかる状況での「ストレス緩和」「睡眠の質の向上」の機能を持っていることから、大変多くの方にご好評いただいています。

―どのような点にご苦労されましたか?

実は、乳酸菌の数を高密度に保つことは技術的にすごく難しいのです。

もう少し正確に言うと、乳酸菌を増やし、高密度に保ちながらお客さまに毎日おいしく飲んでいただける風味に仕上げることは非常に難しいのです。

―どういうことでしょうか?

乳酸菌は乳酸という酸を出す微生物ですので、乳酸菌が増えると生成される乳酸の量も多くなってしまいます。そして酸が多くなりすぎると、pHが下がりすぎて乳酸菌が死んでしまったり、風味にも悪影響を及ぼしてしまいます。

―酸を出すということは、酸っぱくなるということですか。

そのとおりです。菌数を増やし、生きたまま菌を維持することも難しいのですが、味作りについても難易度が高くなります。私たちは、当社の商品を毎日おいしく飲んでいただきたいので、菌数を増やしながらいかにおいしさを維持するか、という点が最大の難関でした。

画像提供:株式会社ヤクルト本社

―商品開発の面白さと難しさが凝縮されたようなお話ですね。

乳酸菌ならではの難しさはほかにもあります。たとえば賞味期限の延長です。「ヤクルト400」を例にすると、この商品はここ数年で賞味期限が17日から21日に伸びています。「ヤクルト400」は80ml中に400億個の乳酸菌が入っているのですが、賞味期限を4日伸ばすということは、その期間に商品の中の乳酸菌が出す乳酸の量もその分増えるため、風味を損なわずに仕上げることは簡単なことではありません。私たちの長年の研究や日常の生産の中で得られたデータなどを組み合わせ、研究を重ねた結果、達成できたものになります。

―乳酸菌を知り尽くしたヤクルトさんだからこその知見や技術によって実現した商品ということですね!

はい。当社は長年、乳酸菌の研究に取り組んできましたので、その成果が商品に繋がっているのだと考えています。それでも、微生物の世界にはまだまだ分からないことがたくさんあります。お客さまの健やかな生活に貢献できるような商品を、これからも開発していきたいですね。

商品開発の仕事は、思ったよりも幅広い

―中田さんのお仕事の内容や、これまでのキャリアについても聞かせてください。

大学の専攻分野にたまたま微生物分解がありました。研究室に所属するまでは微生物の有用性をあまり信じていなかったのですが、乳酸菌を研究されている先生のラボに配属となり、そこで初めて微生物に触れて面白みを感じたのが今の会社に就職したいと思ったきっかけです。先生や先輩方の「乳酸菌のチカラで多くの人の健康に寄与したい」という情熱に共感し、大学院でも乳酸菌の生理機能に関する研究を続けました。就職に際しては更なる研究ができる研究職か、基礎研究を生かした商品を開発することでよりお客さまに近いところで仕事ができる開発職で悩みましたが、最終的にはお客さまの近くで仕事ができる開発職を志望しました。縁あってヤクルト本社に入社することができ、今も乳酸菌に携わることができていることは本当にありがたいことだと感じています。

―研究職と開発職の仕事の違いについて教えてください。

研究職は、乳酸菌の有用性や解明などのいわゆる基礎研究を行います。当社では中央研究所がその役割を担っており、「乳酸菌 シロタ株」のほかにもさまざまな微生物の研究をしています。「乳酸菌 シロタ株」についても、科学の進歩に伴って日々新しい発見があるんですよ。前述のとおり、「Yakult1000」「Y1000」も基礎研究で得た知見を商品として具体化したのです。

一方、開発の仕事というのは、基礎研究で得られた知見・データの中から、商品化できそうなタネ(シーズ)を探し、実際の商品へと具現化させるのが役割です。そのため、研究部門、品質管理部門、工場、販売部門、広告部門などのさまざまな関係部署と連携して商品化を推進していくことが主要な役割と考えていただいた方がわかりやすいかもしれないですね。また、風味や機能等の商品設計、商品の容器選定やパッケージデザインの検討、生産工場での製造技術の確立に至るまで、まさに商品化の企画から生産開始までの仕事に携わらせていただいております。そして商品開発は発売後も続きます。発売後のお客さまの声を聴き、その商品がお客さまが求めていたものなのか、さらに多くのお客さまに手に取ってもらうためにはどのような改良をすべきなのかなど、未来に向けた情報の収集と改良を繰り返していきます。

―「ヤクルト」以外にはどんな商品に携わっていますか?

乳製品では「ソフール」(ヨーグルト)、清涼飲料ではタフマン類(栄養ドリンク)、そして即席麺なども担当しています。当社には「乳酸菌 シロタ株」以外にも当社独自の菌を使った商品がありますが、乳酸菌を使わない食品も幅広く手掛けており、日々新しいことにチャレンジすることができています。最近は国内商品だけでなく、海外向けの新商品開発を担当することもありますね。

画像提供:株式会社ヤクルト本社

―これまで開発された中で特に印象に残っている商品は何ですか。

多くの商品に携わってきたのでどれも印象深いですが……個別の商品というよりは、スケールアップテストと呼ばれる工程は困難も多く、印象に残ることが多いですね。

―スケールアップの工程とは何でしょうか?

商品開発というのは、まず、ラボスケールでの少量試作を繰り返し行い、これだという配合を見つけます。これだというのが決まったら、次のステップとして、実際に製品を生産する工場における製品製造を見越した検討を進め、実生産工場における工場スケールのテストを実施します。このスケールを上げたテストをスケールアップテストと呼んでいます。

ラボスケールでの検証を工場スケールに上げると、製造工程上の問題やラボで表現が出来た味が再現できない、製品の規格が管理値の中に入らないなど、さまざまな問題が発生するので、一筋縄ではいきません。ですが、ここをクリアしないとお客さまに商品をお届けすることができないので、私たちが商品化の中で重視する工程の一つであり、記憶に残る工程でもあるのかもしれないですね。

―ラボで完璧!と思える試作品ができても、工場でうまく作ることはまた別ということですね。

例えば、工場スケールだとタンクも大きくなるため、タンク内での成分の均一性を保つことは難しくなります。そこで、タンク内の攪拌などを考えるのですが、単純に速度を早くすると液が泡立ち、次工程に液を送る際に問題となります。これはあくまで一例ですが、一つ一つの工程は必ずつながっているため、部分最適ではなく全体最適を考え、効率的な製造工程とする必要があります。そこで、実際の現場で働いていて、製造に詳しい工場の方と協議・検討を重ね、最適化を図っていくのですが、そこは一体感を感じられる、やりがいのある業務だと感じています。

新規で開発を進めていた包装資材が工場の設備との相性が悪く、商品の発売ギリギリまで調整を繰り返した経験もあります。このときも大勢の人に協力してもらって何とか発売に間に合わせましたが、かなりヒヤヒヤした思い出もあります。

―容器のことまでかかわるとはイメージしていませんでした!

当社には包装資材や生産設備などを専門に研究する部署があるのですが、どのような包装資材が望ましいのか、より効率的に生産するためには生産設備をどのように改良するべきか、などを考えるための会議にも我々は参加し、一緒になって考えます。最近は環境問題が取りざたされる中、包装資材を軽量化することでプラスチック樹脂の使用量削減が可能な包装資材の開発等にも取り組んでおり、商品パッケージや容器形態も含めて時代に合った商品を作り続けたいですね。

―微生物の知識だけでないのですね…大変だけどその分やりがいも大きそうです。

商品開発に終わりはなく、トライアンドエラーを繰り返す仕事と言えるかもしれません。新たに生じた課題の解決には過去の知見やデータが有効であることも多々あります。そのため、商品開発に関わった諸先輩方の努力の蓄積をもとに、我々が集めた情報や実際に経験したことを整理し、さらに厚みを増していく。そして、その知見を組織全体で共有することで、組織力と技術力の向上を図ってきたこと。それが当社の強さだと思います。

商品の良さを知ってもらえたら、開発者冥利に尽きる

―今後作ってみたい理想の商品はありますか?

具体的ではないのですが、当社のコーポレートスローガン「人も地球も健康に」に基づき、これまで以上に多くのお客さまの健康のために何ができるのかを考え、それを具現化していきたいです。

―ヤクルトのこんな部分を知って欲しいというところはありますか。

開発者として一番に知っていただきたいのは、やはり商品の良さと開発ストーリーですね。高品質な商品をお届けするのは我々の使命ですが、その商品の開発には失敗を含めたさまざまなストーリーが隠されているので、それを知っていただくことでより商品に愛着を持っていただけると嬉しいですね。また、技術というものは一朝一夕で確立できるものではありません。「ヤクルト」誕生から90年近く、私たちは研究を重ね、こだわり抜いた商品を世に送りだしています。だからこそ、このような味、品質の商品をお届けしているんだ、ということを多くの方に知っていただき、「ヤクルト」ブランドをはじめとする当社商品のファンになっていただけると開発者冥利に尽きます。

画像提供:株式会社ヤクルト本社

―開発職は人気の職種です。開発職として大切なことは何でしょうか。

当社の開発職に限ったお話になるかもしれませんが、これまでお話ししてきた通り、開発の過程ではさまざまな課題に直面し、関係部署と連携しながら解決を図り業務を推進することが求められます。マニュアルはないので、常に暗中模索です。だから多くの学生さんが思い浮かべているイメージとは少しギャップがあるかもしれません。私自身、入社前に思い描いていた仕事内容との違いに戸惑ったこともありましたが、「思っていたことと違うから辞めてしまう」のではなく、まずはやってみてその職種の本質を理解できたときに、はじめてその面白みに気づく、という経験をさせていただきました。やってみなければわからない事は多々ありますよね。

―本質を理解するとは、どのようなことですか。

私の経験上、若いうちは仕事も情報も与えられる、インプットされることが多いと思います。与えられたインプットをそのまま捉えるだけだとピンとこないこともあるかもしれませんが、少し物事の見方を変えてみると物事の本質が見えてくることがあります。また、「なぜその人はこう言っているんだろう」「こういう事なのかな」と想像しながら仕事にあたると、立場毎に物事の見え方が違うことに気づくことができ、全社最適=本質が理解できてくるようになり、次に何をすべきかがわかってきます。それを繰り返していくうちに、次の段階として「自分はこうしたい」という意思を持ち、仕事の中で自己表現ができるようになる。そして成功を繰り返すことで上司からの信頼を得られる。すると、自分が出来る仕事の範囲が広がり、いよいよ自分のやりたいことができるようになる。私はそういう経験をさせていただき、成長できました。物事を表面的に見るだけでなく、踏み込んで本質を知ることで、面白みや新しい気づきに出会えると思います。入社後数年以内で、やりたい仕事がなかなかできない、早く自分のやりたいことをやらせてもらいたい、と悩んでいる若い方に少しでも参考になれば嬉しいです。

―入社してしばらくはやりたいことが任せてもらえないジレンマを感じる人が多いですが、そこを乗り越えるには、まず教えてもらったことの本質を理解することが大切ということですね。子供のころから慣れ親しんでいる「ヤクルト」が、こんなにも情熱をもって科学的に開発されてきたことに感動しました。ありがとうございました!

仕事で一番うれしいときは、自分が担当した商品が工場で初めてパッケージになって流れてくるのを見る時!!
画像提供:株式会社ヤクルト本社

リケラボ編集部

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