様々な研究(研究室)の紹介や就職・進学のヒントなど、理系大学生・大学院生に役立つ情報をお届け。
大学院に進むか、就活をして就職を目指すか、進路を考えはじめた大学生向けに、現役大学院生のリアルな体験談や大学院生活をリレー形式でヒアリングしていくコーナーです。どのような夢があり大学院進学を決めたのか、どんな研究生活を送っているのか、ちょっと覗いてみましょう。
第三回目は、東京エ業大学 生命理工学院の博士後期課程学生である田平彩乃さんです。(※所属などはすべて掲載当時の情報です。)
ご自身のプロフィールを教えてください。
──DNAやRNAからなる核酸医薬に関する研究をしています。
東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の博士後期課程に在籍しています(2024年4月時点)。修士課程、学士課程も東京工業大学 生命理工学院に所属しており、そのまま進学しました。
現在は核酸医薬に関する研究をしています。核酸とは生物の遺伝情報を記録したり、遺伝情報を伝えたりするDNAやRNAのことで、これらを医薬品として使うのが核酸医薬です。ヒトのタンパク質はDNAからRNAへと転写された遺伝情報をもとに作られますが、このタンパク質が正常に作られないと疾患になることがあります。核酸医薬はDNAやRNAからなる医薬品で、その塩基配列によって、正常でない遺伝子に選択的に結合し、そこから異常なタンパク質が作られないようにします。実際に行う実験は、有機化学系の合成実験やさまざまな酵素反応、分析、計算など多岐にわたります。
理系を目指した(大学時代の学部を選んだ)きっかけは?
──小さな分子の動きに興味があったから。
家族・親戚に医療関係者が多く、薬や薬の本が小さい頃から身近にありました。そのため薬を飲むときにはその薬が何に効くのか、よく調べたり聞いたりしていました。このような背景から薬の体内での働きに興味を持ち、薬が効くときには体内で何が起きているんだろうという疑問から、体内のさまざまな分子の動きが気になるようになっていきました。
また、もともと生物がとても好きで、生物のなかのいろんな仕組みに興味を持っていました。例えば、遺伝子の発現(遺伝子からタンパク質を作ること)はどのように制御されているのか、などです。特に動物、ヒトの中の小さな分子の動きをとても知りたいと思っていました。そのため小さな分子の研究に強い東京工業大学 生命理工学院を選びました。
将来の夢は?
──現在では治せない疾患を、核酸によって治せるようにすること。
将来の夢は核酸の研究を続け、核酸によって今治せない疾患を治せるようにすることです。大学で研究するか、企業で研究するかはまだ決めていませんが、核酸の研究に携わっていたいです。
現在のラボに入った経緯・理由を教えてください。
──幅広い核酸研究をしていた東工大を選択。
現在の研究室を選んだきっかけは大学学部時代に出会った友人との会話です。1年生の終わりごろに合成生物学の国際大会(iGEM)に参加する、iGEM Tokyo Techというサークルで出会った友人と話している中で核酸医薬の存在を知り、それまでに聞いたことのない医薬品にとてもワクワクしました。そしてその研究をしてみたいと思いました。運よく東工大には核酸の研究室が多く、幅広い核酸研究をしていたため、そのまま東工大で院進し研究することを選びました。また、学部で研究室に配属されるので、大学院でもそのまま同じところでもっと深く研究していきたかったのもあります。
大学院生活について具体的に教えてください。ある1日のタイムスケジュールなど。
──実験に時間を費やすことが多い。事前準備は必須です。
朝は9時半に登校し、夜は予定に合わせて帰ります。早い時は16時とかの時もありますが、基本的には20時くらいまでいます。学校に来たらずっと実験し、その合間に調べ物をしたりスライドなどを作成したりします。夜は明日の実験の準備をしたり、先生とその日のデータのディスカッションをしたりして、次の日がスムーズにスタートできるようにしています。有機実験はずっと動いていることが多く、立ち回って作業しています。酵素を使う実験は待ち時間が多いですが、事前準備がたくさん必要で、前日から計画をきっちり立てておきます。
学部と大学院で生活が大きく変わったと思うことは?
──大学の授業のありがたさを痛感。今は、自主的に動くことが重要に。
学部にはたくさんあった授業がかなり減り、座っていたら教えてもらえるという機会は圧倒的に減りました。大学院に入ってから、そのような授業の時間がいかに大切で貴重な時間であったかがよくわかりました。今は実験が中心の生活ですので、実験の合間などに論文を読むことで学びの時間を得ています。
また、学部時代はどれだけ授業が多くても週15コマ程度で夏休み、春休みもありたくさんバイトしたり遊んだり部活したりできましたが、大学院では土日くらいしかバイトする暇がなく、休みは減りました。
楽しいこと、また苦労していることは?(想像していたこととのギャップ等)
過去の自分にアドバイスするとしたら?
──研究では、有機化学、物理学、数学などあらゆる知識が必要。
楽しいことは実験です。実験して、新しいことがわかった時がとても楽しいです。また、有機合成実験で作った自分の化合物を酵素実験に使うときなどは一番ワクワクします。苦労していることは、思うような結果にならなかった場合になぜそうなったかが、なかなか思いつけないことです。これは経験や知識の浅さに由来すると思うのですが、こういう時に座っているだけでは教わることはできないので、自ら知識を得ていく姿勢の大切さに気付かされます。
過去の自分にアドバイスするとしたら、「大学の勉強はどれもきっちりやっておくべき」です。
私は分子生物学が得意で、分子生物学系の勉強は自主的にもたくさん勉強していました。勉強というつもりもなく、好きなだけ教科書を読んで知識を得ていました。一方、有機化学に関してはテストである程度、点をとれれば良いかなくらいの勉強しかしていませんでした。
しかし研究室に入ってみるとそこは有機化学の世界で、たくさん有機化学の知識をつける必要がありました。さらに有機化学以外にも、学部の頃に避けて通ってきた物理学や数学なども研究上必要になり、学部の頃にすべて履修しておけばよかったと思いました。また、分子生物学の知識も酵素実験をする上で活きており、あらゆる学問の知識が必要であることを体感しました。学部時代には得意な科目、苦手な科目、人それぞれあると思いますが、研究ではどの知識も重要です。幅広い知識で、あらゆる視点から考えられる人こそが研究をより深めていけます。そのため大学学部時代は先生から教われる貴重な機会なので、それを活かしてたくさん学ぶべきだとアドバイスしたいです。
大学院受験のためにやった取り組みとは?
──過去問を解いておくことが、学部の授業の復習になった。
学部の授業で良い成績を取ることと、口頭試問のみだとしても一応過去問は一通り解いておくことをしました。過去問は大切です。解いてみてわかりましたが、学部の期末テストくらいの難易度の問題がたくさん出てきており、過去問を解くことが学部の授業の復習にもなりました。
学業以外の活動(バイト・サークル・趣味など)をしていますか?
──バイトなどで体を動かすことで気分転換。
バイトに関しては、現在週1〜2日、土日に昼から夜までスーパーで働いています。スーパーでのバイトではさまざまなお客様に出会うことができ、とても楽しいです。また、広いスーパーを行ったり来たりして体を動かすこともでき、とても良い気分転換になります。部活やサークルは、学部時代に水泳部と、iGEM Tokyo Techという合成生物学のサークルに入っていました。水泳部は今でも年に数回集まっており、この集まりを楽しみに研究を頑張っています。趣味は水泳で、たまに市民プールで泳いでいます。
尊敬する科学者はいますか?また、その理由は?
──前提に囚われなかったコペルニクス。
コペルニクスです。コペルニクスは、当時受け入れられていた、地球が止まっていて太陽や星の方が動いているのだという説(天動説)に対し、地球の方が動いているのだという地動説を唱えた科学者です。広く信じられていたそれまでの天動説では自身の観察と合わないことから地動説に辿り着き、長年の考察を経て提唱に至った点がとても尊敬する理由です。私もコペルニクスのように、広く信じられていることでも考えなしに信じ込まず、さまざまな可能性を考えながらよく検討して考えるようにしていきたいと思います。
おすすめの研究グッズや愛用品、本などを教えてください。
──身を守ってくれる白衣は、実験時の相棒。
おすすめの研究グッズは横スクロールマウスです。使ってみるとハマってしまいます。スライド作成や横に広げたエクセルで作業するとき、イラストレーターで絵を描くときなど、いろんな時に役立ちます。
愛用品は白衣です。有機化学実験は危ないので、試薬の付着や服の燃焼を防ぐために必ず白衣を着て行います。この間、学部4年生から修士2年生まできていた白衣をみたらとても汚れていてこれらの試薬から身を守ってくれていたのだなと思いました。
これからの抱負を教えてください。
──核酸の全部を知りたい。3年間で多くのことを学びたい。
私はこの度博士課程に進学しましたので、3年間また研究を頑張っていきたいです。博士課程では、留学したり、たくさん学会に出たりして国内外いろんな人との交流を深めたいなと思っています。また、核酸の全部を知りたいです。今どこまでできているのか、何が課題なのか、医薬品としてどんな性質があったらいいかなど、3年間でなるべく多くのことを学んだり考えたりしたいです。卒業後の進路は決めていませんが、核酸医薬の研究を深め、世界の難病を救えるような技術開発に携わっていきたいと思っております。
大学生へのメッセージがあればお願いします。
──迷って迷って、決めたらその環境で頑張って。
進学するか就職するかとても悩むと思いますが、いろんな人生を考えて設計することは今しかできない経験です。まだ博士課程に入ったばっかりですが、今のところこれまでの進学の選択はよかったなと私は思っています。それは研究に打ち込む中でさまざまなスキルを得られたり、いろんな素敵な方々に出会えたりしたからです。また、知的好奇心を思う存分に満たし(満たされませんが。一つ知ると次を知りたくなる永遠のスパイラルです)、自分で新たな知見を得ていくこの研究プロセスの楽しさを知ることができたからです。
就職/進学だけでなく、人によっては、早期卒業なども迷うかもしれません。私も学部を1年スキップするか迷ったのですが、結局しませんでした。早期卒業せずにゆっくり学生時代を過ごし、遊んだり研究の基礎を築いたり学会に参加したりと、落ち着いていろんな経験ができたので後悔はありません。
人生いろいろ迷うこともあるかもしれませんが、一度決まったら後悔しないようにその中でできるだけたくさんの経験をするように頑張ってください。それは社会人になるにしても進学するにしても、早期卒業などをするにしても同じです。後悔しない選択をするというより、選択したらそれが後悔にならないように動く方が結果的に楽しい人生につながるかなと思ってこれまで生きてきました。本記事が読者の方々の進路選択の参考になったら幸いです。
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リケラボ編集部より
以上、田平さんの大学院ライフ、今後の展望などをお伺いしました。核酸のすべてを知りたい、という意気込みに感銘を受けました。核酸医薬の更なる進化につながる研究、今後の進展が楽しみです。また物理や数学も敬遠せずに取り組むことの大切さ、本当に説得力がありました。大学院では自主性が求められる点も、院進を検討中の学部生にはとても重要なポイントです。進学してしまってから、しまった!とならないためにも、主体的に研究するとはどういうことか?を一人ひとりよくイメージしていただくとよいと思います。
田平さん、タメになる貴重なお話をありがとうございました!