様々な研究(研究室)の紹介や就職・進学のヒントなど、理系大学生に役立つ情報をお届け。
就職先を考える際、まず自分の専攻や研究分野と直結した企業に目を向ける人は多いだろう。しかし視野を広げてみると、理系の学びを活かせるフィールドは意外な業種に見つかることも多い。江崎グリコ株式会社も、そんな可能性を秘めた企業のひとつ。今回は【前編】として、採用担当の村脇舞さんと、基礎研究に携わる池原遼平さんのお話をお届けする。江崎グリコでは今、どんな人財を求めているのだろうか。研究開発の現場で感じるやりがいとは…?(※所属などはすべて掲載当時の情報です。)
食品を通じて「健康」を支える
——まず、江崎グリコがどのような事業理念を持っているのか教えてください。
村脇:私たちは、毎日食べていただくことによって生活が豊かになる「日常必需食品」を提供したいと考えています。そして、その根底には「皆様の健康を支えていきたい」という強い思いがあります。
健康への想いは創業時から続いており、弊社の始まりは創業者の「食品を通じて国民の体位向上に貢献したい」という信念でした。最初に生まれた商品の名前も『栄養菓子グリコ』でした。栄養、健康には並々ならぬこだわりをもっています。
——企業のパーパスも「すこやかな毎日、ゆたかな人生」となっていますね。
村脇:お菓子を含む食品を通し、いかに人々の健康に寄与するかという取り組みにおいて、弊社はトップランナーであり続けたいと日々努力を重ねています。
2023年には、「Glicoすこやかな食生活プロジェクト」をスタートさせました。コミュニティサイト「with Glico」を主な活動プラットフォームとして、カラダにうれしい素材のチカラや食事法をお伝えするセミナー、会員参加型の食生活改善プログラムといった企画を実践しています。
——健康への思いに共感できる人が求める人財像でしょうか?
村脇:そうですね。実際、弊社の社員の中には、興味の入口はお菓子であっても、弊社を知っていく中で「健康を支える」という理念に共感して志望したという方が多い印象です。
お客様の健康に貢献するというと、製薬業界や医療業界を思い浮かべる人は多いと思います。健康状態をマイナスからゼロにすることが製薬・医療業界であるとするならば、弊社はマイナスになることを防ぐ「未病・予防(病気になる前に予防すること)」という領域にアプローチしていきたいと考えております。
そのためには、お客様の健康に寄与する商品を開発するだけでなく、その商品をできるだけ毎日食べていただくようにすることが必要です。
「お客様の日々の食事に欠かせない商品を売る食品企業として、真の意味でお客様の健康を支え、ゆたかな毎日の実現に貢献する」これこそが、弊社が現在取り組んでいる大きなチャレンジです。このチャレンジに一緒に取り組んでいただける方に、是非ご応募いただきたいと考えております。
健康を支える食品づくりにはデータが欠かせない
——就活において、この分野を専攻していると評価されやすい、逆にこの専攻は違う…といったことはありますか?
村脇:弊社が進めている「健康」に着目した研究に近しいことをされてこられた方は、入社後、業務にギャップを感じることが少ないかもしれません。
現在は農学部出身の社員が多いのですが、食品メーカーだから農学系の人に絞っているとか、研究分野が違うから選考の土俵に上げないといったことはありません。弊社では入社後の研修制度が充実していますので、入社後に活躍いただけるポテンシャルを感じられる方であれば、学生時代の専攻分野を必ずしも限定していません。
——一般的にはイメージしにくいけれど、こんな人財も活躍できるのか!という意外な専門性などはありますか?
村脇:弊社では今後、データや指標に基づいた研究をさらに推し進めていきたいと考えています。「なんとなく健康にいい」のではなく、明確な数字やエビデンスに裏付けされた商品開発を目指すということです。また、様々な情報やデータから、生活者の意識・行動を分析し、生活者への理解を深めることによって、日々の健康に貢献できる価値ある食品を提供できると考えています。そのため、データの分析や可視化を行うデータアナリティクス、機械学習を取り入れるデータサイエンスを学んできたという方を積極的に採用したいと考えています。
理系の研究分野ではよく、実験の部分を「ウェット」、コンピュータなどによる分析を「ドライ」と言いますよね。食品メーカーの研究・開発職はウェット系の実験が業務の大半を占めているイメージが一般的かもしれませんが、データを活用し新たな知見を得て、それを商品開発に活かしていくというドライ系の仕事も今後ますます重要になってくると思います。
基礎研究のシーズを活かした商品開発
——ここからは、実際に江崎グリコで基礎研究をされている池原さんにお伺いします。はじめに、社内での基礎研究部門の成り立ちについて教えてください。
池原:私は「基礎研究統括」という部門の中の「基礎研究室」に所属しています。他にも「応用研究室」「研究業務室」があり、研究職で採用された新卒社員はたいてい、基礎研究室か応用研究室のどちらかに配属されます。
——具体的にどのような研究をするのですか?
池原:弊社では、健康事業の拡大に向けて、注力5領域を定めています。1)発育・栄養の最適化、2)成長の支援、3)運動能力の強化、4)脳機能の向上、5)ヘルシーエイジングです。
私はその中で、「運動能力の強化」と「ヘルシーエイジング」に関わっています。たとえば、アスリートの運動能力を高める食品素材にはどのようなものがあるのか。年齢を重ねても元気でいられる食品素材とは…。そんな研究を日々続けています。
——商品開発の基盤となる基礎研究があって、その研究成果が商品開発に活かされるわけですね。
池原:基本的に、我々の基礎研究は商品開発を前提としたものです。社内で新しい研究テーマを提案するときは、研究で知見が得られた場合に、それをどのような商品の開発に活かすのか、お客様のどのような健康課題を解決できるのかといった内容のプレゼンが求められます。
——一方で、アカデミックな側面もあるのでしょうか?
池原:基礎研究ですので、科学の発展に寄与する、といった側面もあります。商品化できなかった研究でも、社会に還元できた方がよい研究に関しては、学会や論文で発表する場合もあります。
私が関わっている「運動能力の強化」の研究でいうと、たとえば「睡眠による休息」に着目したりもしています。そういった独自性を追求すると、新しい発見も多くなりますね。
学生時代の専攻とは違う分野でも活躍できる!
——池原さんは学生時代、どんな研究をされていたのですか?
池原:私は化学専攻で、その中でも物理寄りの放射線に関する研究をしていました。東日本大震災による福島原発事故の数年後だったこともあり、放射線の自然環境や人体への影響を評価するといった内容です。
——江崎グリコの事業内容からは少し離れているように思いますが、なぜ江崎グリコに?
池原:確かに、かなり分野が違いますよね。私が身に付けたような放射線の研究スキルは放射線を扱っている企業間、いわゆるBtoBで役立つものです。しかし、私はよりお客様に近いBtoCで研究したいと思っていました。そして、BtoC企業の中で、受けてみたいと思った企業のひとつが弊社でした。
BtoC企業に興味が湧いたきっかけは、大学時代にゲームを作るサークルに入っていたことです。自分たちが作ったゲームを一般の方にも楽しんでもらう機会があったのですが、すごく喜んでもらえたのがうれしくて。その経験から、一般消費者との接点があるBtoCのほうがやりがいを明確に感じられるのかなと思うようになりました。
※BtoB:企業向けの事業
BtoC:コンシューマー(一般消費者向け)の事業
——先ほど村脇さんがおっしゃったように、学びの専門性が江崎グリコの事業内容と合致しているかはそこまで問われないのですね。
池原:理系の大学は細かく専門性が分かれているので、大学での研究をそのまま就職先でも続けられることはめったにないと思います。特に弊社は、多様な人財を採用しようという傾向が強い企業です。我々の健康への理念に賛同いただけたなら、専門分野にこだわらず是非仲間になっていただきたいですね。
専攻分野は何であれ、何か目標があってそれを達成するために仮説を立て、実験を組み、結果から何らかの結論を導くという研究の一連の流れをきちんとやってこられた方は、論理的思考力が身についているので、異なる分野でも活躍できると思います。
数年後の世界のために研究を進める面白さ
——今、入社6年目ということですが、基礎研究職にどのようなやりがいを感じておられますか。
池原:弊社の基礎研究は、会社の理念に合致していたら、自分がやりたいテーマを自分で設定することができます。自分からどんどん提案して、ゴーサインが出たらそれを研究していく形ですね。学生時代は与えられたテーマをこなす形が多いと思いますので、ここは学生の研究とは大きく違う点です。
自分なりのテーマを設定し会社に提案する過程では、科学的な根拠はもちろん、マーケティング的なセンスも求められますし、法律的なこともクリアしている必要もあります。最初の数年はなかなか形にならなかったのですが、去年、初めて自分の提案が通りました!その時はとても嬉しかったです!
提案が通ってからは、共同研究先を自分で探し、大学の先生と折衝したりもしています。外部との協力関係の構築なども、仕事の一環として楽しみながら取り組んでいます。
——その研究成果が商品に反映されるまでには、さらに長い時間がかかるのですね。
池原:はいその通りで、一歩ずつ、少しずつ時間をかけています。自分の提案したテーマが基礎研究としてGOが出ても、次に応用研究、技術開発というフェーズがあります。基礎研究から始まり、商品として形になるまでには早くても数年程度必要です。つまり「数年後の世界」を想定し、そこにどんなニーズがあるのかを想像しながらテーマを考え、決める必要があります。そこが難しくも面白いところです。
——最後に、江崎グリコの基礎研究職に関心を持った理系学生の方へのメッセージをお願いします。
池原:基礎研究職は、自分たちがやろうとしている研究の価値を一般の人にわかりやすく伝える力が求められます。社内でも、テーマを通そうとするときに科学やマーケティングの専門用語を使うとなかなか理解してもらえません。難しいことも論理的に、わかりやすく伝える力を持っている人が活躍できると思います。
そのためにも学生時代は、視野を広げ、異なる価値観に触れる機会をできるだけ増やしていただくとよいと思います。海外旅行、留学、サークル活動、ラボでリーダーを務める、SNSで自分をアピールするスキルを磨く…このような経験は、入社後に活かせる思考力を養うことができます。学生のうちだからこそできる経験をたくさん積んで、自分の可能性を広げてください。皆様と一緒に働ける日を楽しみにしています。
【後編】に続く
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