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就活で活かせるガクチカ、自己PR力を高めるコミュニケーション キャリアコンサルタント 堀江貴久子さん│リケラボ

就活で活かせるガクチカ、自己PR力を高めるコミュニケーション キャリアコンサルタント 堀江貴久子さん

「日常に取り入れるだけ!行動スイッチ5」

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はじめに

新卒一括採用は2021年卒以降、経団連による就職活動ルールが廃止され、前倒しかつ多様化の傾向にあります。近年、理系学生が活用する学校推薦だけでなく逆オファーにおいても、面接での人物像のチェックは重要なポイントとなり、初対面時の対話においてコミュニケーション能力が問われます。

私はこれまで、化学メーカーでの勤務や総合大学にて20年間、延べ10,000人以上の学生の進学・就職支援を行ってきました。多くの学生が抱く悩みなどに寄り添ってきた経験を活かして、少しでも心理学の観点から皆さんの役に立つアドバイスができればと思います。

では、本題に入っていきましょう。

皆さんは、学生生活の中でコミュニケーションの課題を感じたことがあるでしょうか?それはどのようなシーンでしょうか?理系学生の皆さまでしたら、特に研究や発表を行う過程で教授との会話やコミュニケーションの難しさを感じたことがある人も多くいるのではないでしょうか。一方で、理系職に就職する上ではそれほどコミュニケーションは必要ないと考えている方もいらっしゃるでしょう。また、大学入試の面接を経験された方の中には、その時の経験やノウハウを就活で活用すれば良いのでは、と思う方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、大学入試と就職の採用はまったく別物と思ってください。

1選考次までは順調だけど、次の選考や最終選考を通過できない」「学校推薦だから安心していたら合意に至らなかった」と悩む学生も少なくありません。社会人として求められているコミュニケーションスキルは、生まれ持った性格で決まるものではありません。磨けば磨くほど、より効果を発揮します。これからご紹介するちょっとした工夫や考えを皆さんの学生生活に取り入れて、就活にも役立つコミュニケーションスキルを磨いてみましょう。

行動スイッチ1 まずは意識チェンジのスイッチをONにする

人とのコミュニケーションの場面は、目を引くような研究発表の場などではなく、まずは身近な場面を頭に浮かべてみてください。誰かに何か些細なことでも相談したり、意見を求めたりするなど、小さくても良いので「交流」することからはじめましょう。大人数との関わりでなくても大丈夫です。何よりも、実際に経験することが大事です。疑問に思ったことを口にしてみる。人の意見に耳を傾ける。そんな小さなことの積み重ねが、コミュニケーションになります。

まずは、自身の研究進捗など、なければYouTubeやネットニュースでも構わないので、気になったことを「メモ」に書き留めて、それについて誰かと話してみましょう。頷くこともコミュニケーションの1つです。恐れないで、まずは自分から話しかけることを意識してみてください。

行動スイッチ2 「繋がり」を俯瞰で見てみる

理系の職場はどのような働き方があるでしょうか。
業種によって異なりますが、おおまかにものづくりを例にすると、研究職・開発職・特許部・生産技術部・試作部・品質管理・生産管理・評価委員など、部署や職種は多岐にわたります。それらの仕事をする上で、学部や大学院で学んだことや、その専門性を一人きりで活かすことはありません。研究職に就いたとしても、そこから工場・調達・営業など常に関わり合いながら、共に仕事を進めていくことになります。公的な職場でもなお、民間の企業や有識者、住民など様々な人と関わることが多くあります。

このように社会に出るといろいろな経歴や趣味、思考の人たちが1つの仕事を遂行するために関わります。そのため、自分だけがわかる略語や専門的すぎる用語ばかりを使った会話では、物事が円滑に進むことは滅多にありません。少し視野を拡げ、誰もがわかる言葉選びや例え話などを踏まえながら、話すことを意識するとコミュニケーションを円滑にすることに繋がります。

また、すべてのセクションが重要で、どれかが1つ欠けたとしても業務が滞ってしまいます。自身の業務の大切さは念頭に置きつつも、他者を尊重する気持ちを忘れてはいけません。

1つのプロダクトに携わるさまざまな部署や仕事
(リケラボ編集部作成)

行動スイッチ3 失敗や挫折を前向きに捉える

2022年の科学技術研究調査報告によると、日本の研究者は約90万人いるそうです。
その中で挫折などなく、順調な研究を成し遂げている研究者は何人いるでしょうか?

成果を見込んだ研究でもなかなか思い通りにいかなかった経験はないでしょうか?キャリア相談をしていると、先輩から引き継いだ研究や成果が伴わない研究では、何もアピールできることがないと考え、「ガクチカになるような研究や経験はありません」と諦めてしまう学生をよく目にします。

しかし、理系の世界において、課題や挫折から得る偶然の発見が、実は重要な役割を果たしていたということがよくあります。

質量分析のための「ソフトレーザー脱離イオン化法」※を開発し、2002年にノーベル化学賞を受賞した島津製作所の田中耕一氏が好例です。田中氏はタンパク質を溶かす有機溶媒として通常アセトンなどを使用するところ、誤ってグリセリンを使ってしまいました。すぐに間違いだと気付きましたが、それを捨ててしまうのではなく、失敗した試料を使って実験を続けようと考えました。さらに実験結果を早く知るため、レーザーを連続照射して熱心に観察したことで、ノーベル賞につながる新現象を発見することができたのです。まさに、田中氏の著書のタイトルどおり「生涯最高の失敗」です。

※ソフトレーザー脱離イオン化法:タンパク質などの質量の大きな生体高分子を壊すことなくイオン化し、精密に質量を分析できる手法。病気の早期発見や新薬開発などに活用されている。

科学の大発見においては、しばしばこうした幸運な偶然があったと語られることが多く、セレンディピティ(偶然から新たな発見や幸運をつかむ)と言われます。田中氏の「失敗と思われる出来事からも学び、活かそうとする心の姿勢」が、画期的な発見をもたらしたのですね。

就活においても、挫折や失敗を恐れず、そこから学び、活かすことで幸運を招くという考えを取り入れてみませんか。

一見、挫折は恥ずかしいものと考えてしまいがちですが、周りはそのように感じません。
むしろ、失敗や挫折から学び、次につなげる姿勢は、好感をもって受け止められることが多いです。
是非、挫折や失敗経験を注意深く観察し、言語化してみてください、そして、誰かに話してみください。これは、社会に出てからも役立つ真のコミュニケーションスキルを養うためにとても有効です。

挫折や失敗は次の経験に活かせるチャンスであり、偶然の出会いを招く幸運なきっかけ。
そう捉えて、前向きに進んでいかれることを願っています。

行動スイッチ4 因数分解で共通項を見つける

キャリア(人生)において約8割が予期しない出来事や偶然の出会いによって決まると言われます。そのために、日常の雑談の中からヒントを探す練習をしてみましょう。

まずは身近な人に、小さな共通項を見つけるために、質問してみましょう。例えば「アニメ」の話をする中で、「絵・コンテンツ・キャラクター設定・ジャンル・推し」等、何が好きなのか「因数分解」しながら話を聞いてみてください。そこから、「声のトーンが上がる・饒舌になる・繰り返し出る」等、ワードから自分も興味のある事柄をピックアップして、相手を知りましょう。そして、相手に話し返してみる。人と人とのコミュニケーションにおいて、言語情報はたったの7%しかありません。自分の話したいことを一方的に話しても相手には、ほとんどの情報は残りません。一方で、共通点がある話は印象に残りやすい「類似度の知覚」があると言われます。相手の話を幾つかの類(ブロック)に分けて、共通点をみつけ、雑談してみてください。

無理せず、自分に合ったコミュニケーションスタイルを見つけてみましょう。

行動スイッチ5 興味の幅を少し広げてみる~守破離の世界~

雑談することで、偶然の出会いなんてないと思うかもしれません。

しかし、私は学生の進学・就職支援を行ってきた中で素晴らしい「偶然の出会い」を幾度となく見てきました。

私が担当した人で、海外の自然を豊かにしたいと希望し、微細藻類の研究を行っていた学生さんがいました。彼女は、微細藻類は環境問題に寄与する生物として研究に打ち込んでいて、周囲も本人も当然、公的な研究機関や環境分野に勤めるものだと思っていましたが、うまくいかず、大学院に進みました。学期はじめのある日、健康診断で看護師との雑談から、腸内環境の話に発展したそうです。その雑談から「微細藻類が人体の健康にも寄与できるのでは」とヒントを得て、今でこそ周知されている腸内フローラを健康食品として取り入れ研究したいと考え、食品メーカーに就職しました。

また、物理の学生さんで、数日の休みごとにガクチカを求めてボランティアに参加した人の例もお伝えします。ボランティアで訪れた発展途上国で、橋や学校の組み立ての面白さにはまり、少ない人手や地盤の悪い場所でも建築が可能になるよう、物理で学んだ知識を応用し機械設計の仕事に就いた人もいます。

他にも、情報理工の学生さんは研究が忙しく、アルバイトが定期的にできなかったため、イベント会社で単発の派遣アルバイトに行った際のこと、イベントスケジューリングや派遣配置、収益比率の非効率に気づき、自らシステムを組む提案。それらを受け入れてもらった経験から、これまで全く視野に入れていなかったクオンツやアクチュアリーに興味を持ち、就職先として保険や金融を視野に入れるきっかけとなりました。

いろいろな「出会い」や「経験」がその後のキャリアを築くプラスとなることがあります。しかしそれは突然降ってくるものではありません。彼らは学んできたことを基盤に人と関わり、視野を広げたからこそ仕事に結びつけたのです。

茶道や武道の世界では「守破離(しゅはり)」というものかあります。修行のプロセスを3段階で表したものです。守は「基本や型を身につける段階」、破は「既存の型を破り発展させる段階」、離は「基本や応用から離れ、独創的かつ個性を発揮する段階」を指します。

自分が身につけてきたものと、今まで知らない世界とのかけ算が起こると、面白いことが生まれるものです。

雑談を例に挙げましたが、コロナ渦によって発達した、オンライン留学や他大学・他領域の単位互換が可能なコンソーシアムなどなど、研究で忙しい学生生活でも「興味の幅を少し広げる」ことができる手段はたくさんあります。

ミーティングの様子
画像:Adobe Stock

最後に

「ガクチカや自己PRのために」ということを意識すると、視野を狭めてしまうこともあります。ガクチカ、自己PRを意識せず、失敗を恐れず、コミュニケーションしていくことが、オリジナリティな経験の積み重ねになると思います。日頃からコミュニケーションのスイッチを入れてみてはいかがでしょうか。失敗があったとしても、それを自分だけの特別なエピソードにできますように。みなさんを応援しています。

堀江貴久子

堀江貴久子

キャリアコンサルタント/産業カウンセラー
新卒で化学メーカーに就職。営業、研究補助を経て退職。その後、国立大学・私立大学のキャリアセンターにて学生支援を20年務める。現在は、ダイバーシティ推進室にてコーディネーター職を務める傍ら、省庁でのキャリアガイダンスやSDGsファシリテーターを行い、心理大学院で学んだキャリアについてのノウハウを伝えている。

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