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ミクロの世界の美しさをとらえる科学映画
顕微鏡下でしか見ることのできない微細な細胞レベルの生態を撮影した科学映画は、教材や医薬品のプロモーションなどに活用されてきました。皆さんも、学校やテレビの科学番組などで一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
特に近年4K、8Kなど超高精細な映像技術が生まれ、少し前までは想像もできないような緻密で鮮明な映像が見られるようになってきています。
百聞は一見にしかず! まずはこちらをぜひ見てみてください。
この動画は、ニワトリの受精卵の発生の様子を顕微鏡と高性能8Kカメラで撮影したものです。細胞が分裂する様子や、できたばかりの心臓の動きや血管を流れる血液など、からだの中の組織や細胞が次々と変化していく様子は、どれも美しく神秘的で、一度目にするとつい引き込まれてしまいますよね。
こうした、生きたままの細胞や組織を撮影した科学映画は戦前から制作されはじめ、1950年代以降さらに盛んに作られるようになったのだそうです。特に日本の技術は素晴らしく、何度も国際的に表彰され評価されています。
科学的にも芸術的にも価値の高いこれらの映像を永久的に残そうと、デジタル化も進められていて、NPO法人「科学映像館」ホームページでは、これまでに撮影された数多くの科学映画を無料で見ることができます。
科学映像館
http://www.kagakueizo.org/
大ベテランの培養技術が科学映画を支える!
それにしても、これらの科学映画はどのように撮影されているのしょうか?生きたままの生体内にどうやってカメラを…、顕微鏡越しにどうやって?…と興味は尽きません。
そこで科学映画を長年撮影されている株式会社ヨネ・プロダクションにお邪魔し、科学映画の世界についてお話を伺ってきました。
ヨネ・プロダクションは、日本における科学映画の第一人者であり、科学映画を確立したといってもよい天才カメラマン小林米作さんが設立した映像会社です。顕微鏡下での結核菌と白血球の闘いをとらえて世界を驚かせた「ミクロの世界」は1958年ベネチア記録映画祭グランプリほか国内外の映画祭で10以上の最高賞を受賞。以来、「生命の謎」や「生命の神秘」を表現した数々の映像は世界中で評価されるだけでなく、生命科学の進歩に大きな貢献をしてきています。
今回は、代表取締役の藤枝愛優美さんと、研究部の淺香時夫さんにお話を伺いました。
ヨネ・プロダクションでは、どんな作品を作られているのですか?
藤枝さん:当社では、自主制作作品というよりも、製薬会社や食品会社の学術資料が多いです。当社のホームページには脳、神経、呼吸器、循環器、骨、免疫など、多岐にわたる細胞や組織、病原体の生きた姿がストックされた映像ライブラリーがあり、その映像を教育や医学番組にご活用いただくこともあります。
ヨネ・プロダクションが、1967年に株式会社ヤクルトと制作した作品。シロタ株が悪い細菌を抑え、体の健康を守る姿がとらえられています。
映像を作るときは、どのような工程で制作が進められていくのでしょうか?
藤枝さん:企画書と構成案を書いて、予算を決めて、演出を決めて、撮影をして、ナレーションや音楽を入れて…と、基本的な流れは通常の映画制作とも似ています。特徴的なのは、生命科学に精通した企画演出ができることと、顕微鏡下で撮影を行うこと。それから生物試料を培養する施設も、撮影する施設も、会社の中に揃っているということ。社内には、制作部、演出部、撮影部、そして生物試料を作製する研究部があり、役割分担をして制作が進められていきます。美しい映像を取るためには、前処理や器具の洗浄も非常に大切。大勢の人の力の結晶なんですよ。
藤枝さん:ある変化の一部始終を収めるために、何時間もかけて、ときには一晩中かけて撮影をすることもあります。映画フィルムは被写体の動きを1秒24コマの画像に撮影し、映写も1秒24コマでスクリーンに再現する。もし1時間かかる細胞分裂を1分で見ようとすれば、2.5秒に1コマビデオの場合は1秒30コマの画像となります。これは微速度撮影といって科学映画に特徴的な撮影技術で、膨大なフィルムの長さになります。一コマ一コマに撮る人の気持ちが入っていないといい映像は撮れません。
生きたままの細胞や組織はとても繊細ですよね。取り扱いが難しそうです。
藤枝さん:映像に残すために美しく、見えやすく、ちょうどいい状態に組織や細胞を培養するには、とても高度な技術が必要です。当社ではこの道の大ベテランである淺香さんが生物試料を担当してくださっています。
適した生物試料を作ることが、精細な映像に残すための大切な要素のひとつなのですね。
藤枝さん:通常のラボでの研究では、腸や血管といった身体の中のさまざまな組織が生きて動いている姿はこんなにきれいには見えません。菌や血液など様々なノイズが入っているのが普通です。でも、それをなんとかうまく培養して、撮影時にはマウスを麻酔でうまく寝かせて、きれいに見せるようにしています。淺香さんの、生物試料を扱う技術は本当にすごいもので、例えばマウスの撮影では、6時間もの長い時間を生物を生かした状態で撮影できるほどの技術があり、これらは誰にも真似できないほどのレベルと言ってもいいと思います。これらの技術は学校では教わらないものなので、経験の中で工夫を重ねて、完成させてこられたもの。淺香さんならではのテクニックがとても重要になっているんです。
撮影技術の進歩とともに科学映画の世界もどんどん高精細になっていく(これまでとらえきれていなかったものも見える)だけに、撮影の成否を分けるのは生物試料を作る熟練の職人技だということですね!
サンプルの取り扱い一つで実験がうまくいったりいかなかったりするのと似ている気がして、とてもよくわかる気がします…!コンタミも怖いし…。
というわけで、記事の後編では、半世紀にわたって、美しい生物試料づくりに人生をささげてこられた淺香さんのインタビューをお届けします。
医学部解剖学研究室で助手をしていたという淺香さんが科学映画の世界に飛び込んだ経緯や、生命の神秘の奥深さ、そして若い世代へのメッセージを聞かせていただきました。この方のおかげで、科学映画が発展し、美しい映像を見ることが可能となったといっても過言ではなく、科学映画の基礎を築いてこられた方です。とにかくリスペクトしかありません。後編もどうぞお楽しみに!
■株式会社ヨネ・プロダクション
http://www.yoneproduction.jp/index.html
■ヨネ・プロダクション 映像ライブラリー
http://www.yoneproduction.jp/warehouse.html
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