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明日の試験、睡眠不足、人間関係、酷暑、感染症など、私たちの生活はストレスであふれています。ストレスが蓄積した結果、疲労が発生して本来のパフォーマンスを発揮できなくなります。しかも、私たちが想像している以上に心身は疲労しやすいことが研究で分かってきました。
しかしながら、疲労に関する科学的・医学的研究はこれまで十分に行われてきませんでした。
そうした中「疲労」をターゲットとした研究を盛んに行っているのが、大阪公立大学健康科学イノベーションセンターです。今年6月の第20回日本疲労学会学術集会では「顔肌スキンケアメソッドの抗疲労効果に関する検証研究」のポスター発表を行いました。
疲労を回復できるスキンケアメソッドとは、一体どんなものなのでしょうか?
副所長の 水野 敬 特任教授に、疲労研究の概要とスキンケアが持つ疲労回復効果に関する実証研究の結果について伺いました。
疲労大国、日本
── 先生は疲労について様々なテーマでご研究されているとのことで、お伺いしたいのですが、例えば「電車で寝ている人々」が日本らしい光景としてたびたび取りあげられます。日本人は諸外国に比べて疲れているのでしょうか?
水野:日本は疲労大国といえます。日本リカバリー協会が毎年10万人(20〜79歳)の規模で行っている疲労状況の調査結果をご覧ください。
疲れている人(低頻度と高頻度の合計)を見ると、2024年では全体の約8割の人が疲れていると判明しました。高頻度だけに着目すると、2020年、いわゆるコロナ禍で43.1%と急増しています。以降は40%を割ることはなく、引き続き疲労傾向が高い状況です。
── どうしてみなさんこんなに疲れているのでしょう。疲労の原因とは何なのでしょうか。
水野:疲労とはストレスが溜まった結果です。コロナ疲れや震災疲れという表現からも分かるように、疲れはストレスの後から来ます。ストレスが生まれると、まず交感神経系を活性化させ心身がストレスに応答しますが、ストレスが長期にわたると、次第に応答しきれなくなります。その結果、慢性的な疲れとして出てくるのです。
「疲労の研究は、医学の忘れ物」
── 先生が疲労について興味を持たれたきっかけを教えてください。
水野:大学院修士までは生体工学を学び、医学部との共同研究で不登校のお子さんの脳波測定に関わりました。測定をしながら、不登校のお子さんが非常に疲れていることを知り、「どうしてこんなに疲れているのだろう」と率直に感じたのがきっかけです。
大阪市立大学(現、大阪公立大学)の渡辺恭良 教授が疲労について広く研究されていることを知り、もっと深く研究したいと思い、博士課程は渡辺先生の研究室に移りました。
── 本格的に疲労の研究をスタートされて、見えてきたことはありましたか?
水野:疲労の研究は、医学における忘れ物のように感じました。教科書を見てみると、ストレスには多くのページを割いているのに、疲労に関しては殆ど載っていません。「活動すれば疲れるのは当たり前」だと見なされ、メカニズム等の解明は非常に遅れていました。
遅滞していた疲労研究を推進するため、渡辺先生と一緒に、動物の疲労モデル開発から、慢性疲労症候群の患者さんを対象とした実態調査、そしてストレスの蓄積による体内や脳内での変化についてさまざまな研究を行ってきました。
── ストレスがかかると、体内ではどのようなことが起こっているのでしょうか。
水野:オフィスでの事務仕事をモデルにした疲労の負荷試験を行いました。すると血中の必須アミノ酸濃度*が非常に低下すると判明したのです。疲労状態では細胞が過活動状態にあり、発生した活性酸素によって傷ついた細胞を修復しようとエネルギーを使っていることがうかがえます。また、自律神経のバランスも測定したところ、負荷をかけたグループではストレスで高まる交感神経系の活動が約2〜3倍亢進(こうしん)していました。
*必須アミノ酸:体内で生合成できないアミノ酸。消費した場合、体外から摂取しなければならない。
── 大きな負荷でなくても、細胞レベルから疲労が溜まっていくのですね。疲労するとどのような機能が低下するのでしょうか。
水野:やはり自律神経機能は低下しやすい傾向にあります。また、認知機能(少し複雑な物事を判断する集中力や注意力)も低下が見られました。つまりストレスが重なって疲労すると、作業能率が有意に低下してしまいます。さらに進んで慢性疲労状態になると、抑うつ症状も出てきて心身の状況が悪化します。
── どうしたら疲労から回復できるのでしょうか。
水野:睡眠は疲労回復になによりも有効です。寝ると副交感神経系が優位になり体をメンテナンスしてくれます。自分なりの眠くなるルーティンを知っておくと入眠がスムーズになります。特にルーティンがない方は、日常に組み込めるちょっとした工夫から探してみると良いですね。たとえば、スキンケアは、慌ただしい日常から睡眠へと気持ちを切り替えるルーティンにうまくあてはまる可能性を秘めています。
── それが、スキンケアによる疲労回復効果の検証研究につながったのですね。
気持ちをスイッチするスキンケア法「Mont Makeメソッド」
コロナ禍で気づいた、孤独が生み出すストレス
── 今回の研究に使用された基礎化粧品を開発した株式会社Mont make マーケティング事業部部長の城戸亜弥さんに経緯を伺いました。
城戸:弊社が誕生した2020年は、新型コロナウイルスの感染拡大により私たちの生活が一変しました。行きたいところにいけず、会いたい人にも会えない。経験したことのない行動制限が寂しさや孤独感を浮き彫りにし、解消しがたいストレス・疲労が蓄積し続けます。そして時代のキーワードは「多様化」。悩みもひとりひとり異なり、共感を得るのは難しくなりました。
このような時代に、自分を大切に思い、励ましてくれる一番の味方は自分自身ではないかと気づきます。一番の味方である自分の心身を慈しみ、肌も心もうるおいで満たされる製品を目指し、開発をスタートしました。
その過程で、ケガをしたときに母が優しくさすってくれた幼い頃の記憶がふとよみがえり、手の温もりをスキンケアに取り入れるヒントになりました。心地よいスキンケアを通してウェルビーイングを提案する「Mont Makeメソッド」(後述)につながります。
今回、大阪公立大学健康科学イノベーションセンターの水野先生とともに、スキンケアメソッドの研究を行いました。
研究の結果、「Mont Makeメソッド」が疲れた脳をリフレッシュさせる可能性が見えてきたのです。2024年6月に開催された第20回日本疲労学会にて発表し、多くの参加者からご注目いただきました。
試験に使用した製品について
Mont makeにて開発した製品3種を使用。香料には、先行研究で自律神経系への作用が報告されているペパーミントやジャスミン等の香りを含むものを使用した。
化粧水・乳液・・・ペパーミント、ゼラニウムを主にしたハーバルフローラル調の香り
オイル状美容液・・・サンダルウッド、ジャスミン等を主体としたフローラルウッディ調の香り
*乳液とオイル状美容液は手のひらで混合して使用
Mont makeメソッド
本メソッド①〜④について、化粧水2回、乳液+オイル状美容液で1回の合計3回を1セットとし、1日2セット(朝と夜)に行います。
- 手のひらに、たっぷりの化粧料をとります
- 香りを感じながら深呼吸をします
- 化粧料をなじませます
深呼吸を続けながら、乾燥が気になりやすいほおや目もとから順番に、両方の手のひらでお肌を軽く押さえるように顔全体になじませます。目もとやあご先のくぼみ、フェイスライン、首にもやさしくなじませます。
- 息を吐きながら鎖骨へと流します
耳たぶの後ろのツボを軽く刺激し、息を吐きながら鎖骨に向かって手を動かします。
共同研究の試験概要、結果
試験の概要
被験群:香りあり製品を使用してMont makeメソッドによるスキンケアを実施するグループ
対照群:香りなし製品を使用して、Mont makeメソッドと同じ手順ながら、呼吸や温度・密着感を意識することは提示しないスキンケアを実施するグループ
・参加者がどちらの群に振り分けられたか分からない一重盲検法を採用した
・初回のテストでは、健常女性を解析対象とした(被験群13名:40.2 ± 9.6歳、対照群13名:39.2 ± 10.9歳)
・2週間後のテストでは、実施率が70%以上健常女性を解析対象とした(被験群10名:38.0 ± 9.7歳、対照群10名:38.6 ± 8.5歳)
スケジュール
評価手法
- 自律神経機能検査
- mATMT法による認知機能検査
- 自覚的VAS検査
結果
水野:まずスキンケアを1回行い、その前後でどのような変化が見られるかを確認しました。すると、被験群では副交感神経系の活動が活発になりリラックス状態が高まったことが示されました。自覚的VAS検査において「気分がスッキリ」、「心が軽い」、「緊張感がほぐれている」、「ストレスを感じない」の項目が良好改善していることからもリラックス効果が推察されます。
次に、自宅にて2週間毎日スキンケアを行った後に、再度検査を行いました。すると被験群において、mATMTを用いた認知機能検査の平均反応時間が短縮し、継続実施により注意の切り替え機能や作業意欲の向上が示唆されました。Mont makeメソッドは脳機能やパフォーマンスを向上する可能性があります。
ひとりひとりの健康のために
── Mont makeメソッドをどのように日常へ取り入れればいいのでしょうか?
水野:今回は被験者が行いやすいよう1日2回・朝晩の使用としましたが、実際は自由に使っていただけます。お仕事や授業で休憩のたびに取り入れたら、脳がリフレッシュして疲れにくくなり、効率が上がる可能性を秘めています。運転中や仕事終わりなどにも上手に取り入れるといいかもしれないですね。
── Mont makeメソッドのような、気軽に疲労を軽減できる方法をもっと知りたいです。
水野:私たち疲労研究者は、皆さんが大きな苦労なく、日常生活に組み込めるちょっとした工夫で生活の質を上げて疲労が低減するような生活習慣を探索し、科学的に検証し、提案しています。スキンケアのように、日常的な行動から得られた有用なエビデンスを世の中に訴求していくことは、研究者として非常に大切な仕事です。現在も疲労が溜まりにくいオフィスの環境や照明について研究を進めています。
── 先生の研究展望についてお聞かせください。
水野:人生100年時代、健康寿命の延伸が求められるなかで、病気の予防対策はとても大切です。慢性疲労を防ぐことで病気の発症を予防できると考えています。ウェアラブル端末が入手しやすくなった今、さまざまなデータを学習させたAIを搭載し、疲労を予測して休息を呼びかけるアプリなども構想中です。実現すれば大きな病気になる前に早期発見・早期受診でき、健康寿命の延伸と医療費の削減が両立するでしょう。さらにその先には、個別健康の最大化を見据えています。
── 「個別健康の最大化」とは何でしょうか?
水野:現在提唱している「健康に良いライフスタイル」は統計学的に見て良いと結論づけられたに過ぎず、 個々の状況を考慮したものではありません。年齢、性別、住環境、基礎体力、健康維持にかけられるお金や時間、運動強度など、個人が置かれた環境は千差万別です。
食事、運動、働く環境、睡眠時間など衣食住の全てを組み合わせ、個別に最適化したソリューションの提案が必要ではないでしょうか。例えば、スキンケアにおいてもMont Makeメソッドの考え方がさらに発展し、お一人お一人の肌やストレスレベルに最適化されたオーダーメイドの商品が誕生したら素晴らしいと思っています。
これから労働人口が減少する中で、疲労によるパフォーマンス低下は国家レベルで生産性に影響を及ぼします。WHOが提唱するように、皆さんが身体的、精神的、そして社会的に健康でいられるよう、今後も疲労研究に産学官と連携しながら取り組みます。
水野 敬(みずの けい)
大阪公立大学健康科学イノベーションセンター副所長、博士(医学)。疲労、睡眠、脳の機能と発達などを軸に、子供から大人まで幅広く対象とした疲労のメカニズム解明と疲労回復の研究を推進。産業界と連携し、医薬品、食品、飲料、生活環境空間に関する抗疲労ソリューションを多数開発。共著に『疲労と回復の科学』(日刊工業新聞社、2018年)、『おいしく食べて疲れをとる』(オフィスエル、2016年)など。
大阪公立大学 健康科学イノベーションセンター
2013年の開設以来、健康維持・先制医療への先進的取り組み(健康科学研究)に関する発信に加え、他大学・研究機関(学学連携)、企業(産学連携)、医療機関等との連携を通じた健康科学領域の新たな成果や製品・サービスの創出等を行う。毎月 第3水曜日に健康測定会を実施している(事前完全予約制)。
〒530-0011
大阪市北区大深町3-1 グランフロント大阪北館タワーC 9F
https://www.omu.ac.jp/orp/chsi/
https://www.omu.ac.jp/orp/chsi/fes/index_5.html
株式会社Mont make
ウェルビーイングを構築するための5つの要素「PERMA」(ポジティブ感情、エンゲージメント、良好な人間関係、意味、達成)の中でも特に、心がより健康になる上向きの発展とスパイラルを引き起こす「P:ポジティブ感情」を高めることを目指し、ウェルビーイングの向上に寄与する製品をお届けするために設立されたスタートアップ企業です。
〒 596-0808 大阪府岸和田市三田829-1
Tel 072-447-7757
https://montmake.jp
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