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スタートアップ支援から街づくりまで研究を強力にバックアップする三井リンクラボのサイエンスコンシェルジュとは│ リケラボ

日本のライフサイエンスを世界へ!
スタートアップ支援から街づくりまで、研究を強力にバックアップするサイエンスコンシェルジュとは

― 三井不動産 三井リンクラボ ―

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ライフサイエンス研究のイノベーションを推進する三井不動産の三井リンクラボ。前回の記事では、製薬企業、スタートアップ、大学、医療機関、VCなど様々なステークホルダーを巻き込みながら強固なライフサイエンスコミュニティの構築を目指す三井不動産の活動を紹介しました。

今回は第二弾として、三井不動産のサイエンスコンシェルジュとして活躍する3名のサイエンティストの方々に焦点を当て、その活動内容に迫ります。

お三方ともそれぞれ名だたる製薬会社で長年研究を行ってきた経験豊富なサイエンティスト。現在は三井不動産に所属し、貸しラボ入居者のサポートやコミュニティづくりに奔走しておられます。どのような想いで今のお仕事をされているのか、やりがいなど、製薬研究者のセカンドキャリアとしても大変興味深いお話をたくさん伺うことができました。(※所属などはすべて掲載当時の情報です。)

大手製薬会社出身。経験豊富な3名のサイエンスコンシェルジュ

── 豊富なレンタルラボを提供されている三井リンクラボさんですが、皆様は入居者のお困りごとを気軽に相談できるサイエンスコンシェルジュという位置づけで活動されておられます。どういったお仕事なのでしょうか。

野村:サイエンスコンシェルジュは入居者様の研究を支援するためのあらゆる相談をお受けするサービスです。実験の相談や、先端機器の使い方といった日常的なことから、研究内容に関する助言、共同研究先を探すお手伝い、臨床検体の入手先の相談、さらには、知財や資金調達、事業戦略、薬事面でのご相談など幅広い内容に対応させていただいています。

海外から進出される企業だけでなく、国内からも転居されてこられる方がいらっしゃるので、住宅の相談や行政手続きの通訳サポートも行います。

野村俊之さん。柏の葉エリアのマネジメントを担当。武田薬品にて創薬研究に従事(薬効薬理、細胞分子生物学)。ボストン・サンディエゴとの共同プロジェクトへの参画やDana-Farber Cancer InstituteにてVisiting Scientistとして従事するなど、海外でも活躍の場を広げた。湘南アイパークに立ち上げ準備期間から関与し、開所後運用ルール・オペレーションを統括。入居企業に寄り添い課題解決のソリューションを提案。

── 入居者からはどういった相談が多いのでしょうか?

竹内 比較的多いのは紹介のご希望ですね。某大学の先生にコンサルティングをお願いしたいとか、ある分野の有識者の先生の名前を知りたい、あるいは製薬会社と共同研究をしたいけれど、どこの部署にアプローチをするのが一番いいのかといったことです。

── 自分たちの持つシーズや技術をどのように事業化して社会実装につなげるのかというところのサポートですね。

竹内 長年製薬会社の研究部門に勤務し、プロジェクトを起こして他部署や外部との共同研究リードなどの経験をしてきたことが役に立っています。

── コンシェルジュとして日頃心がけていらっしゃることは何ですか。

竹内 常に最新のサイエンス情報をフォローすることですね。会員様向けのメルマガではその月に読んで一番刺さった論文の紹介をして、自分自身もとても楽しんでやっています。入居者のみなさんがどのような研究をされているかということはもちろん、どのような方がいて、何を求めているかというようなこともできる限り聞く時間を取って、それをイベントなどの企画運営にも反映しています。

竹内雅博さん。新木場・葛西エリアをメインに柏の葉もサポート。アステラス製薬(旧山之内製薬)で、のべ5 年間の米国(サンフランシスコ、ニューヨーク、ケンブリッジ)勤務を含め26年間創薬研究に従事。外部提携を含む創薬パイプライン構築、、がんユニット長としてグローバル研究戦略の立案を経験。そのほか、国内バイオテックなどのサイエンスアドバイザーや、科学技術振興機構(JST)の「さきがけ」評価委員なども経験。

── リンクラボさんでは、毎月、魅力的なイベントを数多く開催されていますがこれらの企画運営もサイエンスコンシェルジュの役割なのですね。

林 ライフサイエンス研究を形にするにはオープンイノベーションが必要不可欠で、そのためにはコミュニティの形成がとても大切だと考えています。我々が「場」づくりを重要と考えているのはそのためです。様々な交流イベントを通じて入居者同士が「つながる」ことができるというのがシェアラボのメリットの一つです。私はLINK-J(※)を兼任していますが、スタートアップ同士が交流できるMeetUpなどを開催して、そこをきっかけに新しい協業先と出会えたという連絡を受けるとやりがいを感じます。

林幾雄さん。2024年竣工予定の大阪中之島の施設を担当予定。博士号取得後、USメルク社へ就職。その後、日米の製薬企業およびCROで研究開発や事業開発、オープンイノベーション推進などの職務を歴任。2020年にUCサンディエゴMBA取得。現在は三井不動産とLINK-Jの両方に所属し、ライフサイエンスイベントや起業家育成プログラム、テナントとの関係構築などに携わる。

LINK-J:…正式名称は一般社団法人ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン。三井不動産とアカデミアが、ライフサイエンス業界のコミュニティ構築やオープンイノベーション促進等のために設立した団体。2016年設立。特別会員数は2023年6月現在企業・団体・個人を含め661、年間1000件近くのイベントを開催している。

間に立って仲介することで、研究が加速していくのがやりがい

── コンシェルジュとして成果や手応えを感じた事例があったら教えてください。

野村 柏の葉エリアで取り組んでいるプロジェクトのひとつに、コンソーシアムを作って再生医療に取り組んでいる案件があります(柏の葉再生医療プラットフォーム)。日本を代表する先端医療施設に近接しているため入居企業様と医療機関やアカデミアが一丸となって再生医療を加速させようとしています。治療に使う細胞の製造技術を持っている入居者様の認知向上のためのイベントを開催したり、学会やセミナー出展のサポートをしたり、少しずつ取組の周知が進み、再生細胞医薬品開発のサポート体制が進んでいる。リンクラボがアカデミア・医療機関・産業界をつなぐ役割を担い、地域密着型オープンイノベーションの拠点として徐々に形になってきている実感がありますね。

先端研究拠点が集まる柏の葉キャンパス地区。今回の取材は三井リンクラボ柏の葉1の施設内で行われた。<出典>https://www.mitsui-linklab.jp/location/kashiwanoha1/

「三井リンクラボ柏の葉1」内の共通機器室。入居者からの相談に応じてサイエンスコンシェルジュが機器の操作方法についてもサポートしてくれる。

竹内 私は製薬会社が研究助成金を出すピッチコンテストのきっかけを作れたことでしょうか。入居者様から「何かやりたいんだけど」というざっくりした相談を受けたところからスタートし、企画骨子を一緒に作ってコンテスト開催に至ることができたことは印象深く残っています。そのほかにもテナント様どうしの結びつきが深まるよう、交流イベントは特に力を入れています。先日は葛西で、第一三共様にご出席いただいて、新木場や柏の葉のテナント様にも広くお声がけしての、拠点横断型の交流会も開催しました。

── 各地のラボをつなげて情報共有ができるスケールメリットは大きいですね。企画立案からサポートいただけるのも心強いです。

 特にスタートアップの場合、入居者さん自身、何を必要としているかが明確ではないことも多いので、コンシェルジュが積極的に関わり、ニーズをつかまえに行って仕掛けることは大事だなと思います。交流を通じた会話のなかで「これは良いですね」「これがあったらいいね」と多くの意見交換を得て研究が磨かれていくところはよく目にしますね。

野村 いろいろなバックグラウンドの人間がネタを持ち寄って議論すると新しい価値観に触れ、新たな気付きを得る。イノベーションはそういったところから起こるので異文化交流は非常に大切です。ですが研究者は実験に没頭しているとどうしても交流が後回しになりがち。仕掛けを作らないとなかなかイノベーションが起こらない。研究者はサイエンスの話題が大好きですから、興味深いテーマ設定をすればラボから出てきてくれます。イベントは研究者が気軽に交流ができるように設計していて、そういった仕掛けを我々が次々と生み出すことでイノベーションを加速させたいと考えているのです。

リンクラボ柏の葉にてリケラボ編集部撮影。実験室はガラス張りで視認性を高め安全面に配慮された設計。実験室と実験室の間にはオープンなスペースがあり、違うラボの研究者同士が気軽に交流できるようにデザインされている。

最先端のライフサイエンス研究を日本から世界へ!

── オープンイノベーションということが言われて久しいですが、一方で日本ではなかなかイノベーションが起きにくいということもよく言われます。皆様から見て何がネックになっているとお感じになりますか。

野村 日本人特有のマインドセットが少なからず影響しているように思います。日本人は減点主義というのでしょうか、重箱の隅をつつくような駄目出しが多く、それが成長の足かせとなっているように思います。失敗を責めない風潮になれば、ヒト・もの・金といったリソースをもっともっとチャレンジングな案件に活用できます。成功確率が高そうなものばかりに投資を集中させるのではなく、リスクをとって次の芽を見つけて伸ばしていくことが必要だと思います。

 メンタリティの話はたしかにありますね。でも日本人にイノベーションのポテンシャルがないかというと全くそんなことはなくて。研究の中身や実力は素晴らしいと感じることが多く、海外に全く引けを取っていない。現在ライフサイエンスの分野で先端を行っている国といえばやはりアメリカで、たしかに資金力の面で差を感じることはありますが、芽が出る、出ないはちょっとした環境の違いだけだと思います。海外だと著名な先生とも気軽に話せる環境があります。とてもフレンドリーですしコミュニティが発達していてそういう場を提供している、つまり環境やきっかけが大事だということです。LINK-Jは日本で最大のライフサイエンスコミュニティです。そこに人やお金が集まり研究が加速する、そういう環境やきっかけ作りをやっていきたいと考えています。

竹内 アメリカにはたしかに学ぶべきところが多いですが、すべてをアメリカにならう必要もないんですよね。日本には日本の強みがあるので、日本式のコミュニティづくりを模索して、日本に合った勝ち筋をみつけることが重要だと考えています。

── 皆さまがこれからサイエンスコンシェルジュの仕事を通じて実現したいこと、描く業界の未来像などを教えてください。

野村 アメリカのボストンや西海岸に負けないくらいのバイオクラスタを日本で作って、そこからベンチャーがどんどん育って、世界で輝く創薬や研究開発力を持った企業が生まれていくというのがやはり夢ですね。バイオクラスタは1つの施設だけでできるものではなく、アカデミアや街の住人まで巻き込んで作られるものです。ですから、研究設備だけでなく、衣食住がしっかりと備わり、楽しめる場所があって、ここで暮らしながら仕事をしたいと思える街であることが大切です。街に魅力があれば優秀な人が集まってきます。柏の葉には、英国の名門パブリック・スクールであるラグビー校の日本校ができましたが、そんなふうに環境が息づいていけば、海外からも人が集まってくれるようになるでしょう。そうすれば新しい製品や治療オプションが開発され、更に人が集まるようになる。そんな好循環をまずはこの柏の葉から実現したいと思っています。

柏の葉では「アカデミアの英知がそのまま社会実装される街。」「住むだけで健康になる街」をコンセプトに街づくりが進められている。写真は、市民も利用できるコミュニティスペース。蔵書がずらりと並ぶ。居酒屋の常連客にはトップクラスの研究者も多く、街全体がアカデミックな雰囲気に包まれている。

竹内 新木場は羽田空港にも都心にも近く、グローバル展開する企業や多角的な視点から利便性を求める国内企業に魅力的な場所だと思います。2024年中に3つ目のラボ棟が完成します。新木場1・2・3そして葛西を通じて、新木場・葛西エリアに世界中から多分野の研究機関が集まる研究都市になってほしいと思ってます。ライフサイエンス分野だけでなく多分野にまたがる新たなサイエンスコミュニティを作ることに貢献したいですね。日本企業の研究レベルは国際的にも高いので、異分野間を含めて協業等で新しい価値を生み出す活動を少しでもご支援できればと思っております。

 コミュニティ形成や海外のバイオクラスタとの連携といったところで、今仕込んでいるプラットフォームを通じて、日本から海外にどんどん出ていけるスタートアップが増えていくといいなと思っています。日本のスタートアップを欧州・イギリスを中心に売り込んでいくことも積極的に行っていきます。ここ30年、我々の世代は日本が世界に対してプレゼンスを失っていくのを目の当たりにしてきました。でもここからの巻き返しは十分に可能だと考えています。ライフサイエンス分野で日本が世界で存在感を示せるよう、残りの人生を使って取り組んでいきたいと考えています。

三井リンクラボ
https://www.mitsui-linklab.jp

掲載写真:リケラボ編集部撮影

リケラボ編集部より

三井リンクラボでは経験豊富なサイエンティストがライフサイエンス領域でのイノベーションを推進する重要な役割を担われていました。アメリカでもイノベーション担当は一流のサイエンティストであることが多いとのこと、お三方の活動内容を聞いているとその理由も頷けます。どれも研究者としての確固たる実績があるからこそ提供できることばかり。こうした心強い存在がいてこそ、日本のライフサイエンス研究が世界規模で花開く未来も近いと感じることができました。野村さん、竹内さん、林さん、貴重なお話を誠にありがとうございました。

リケラボ編集部

リケラボ編集部

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