様々な研究(研究室)の紹介や就職・進学のヒントなど、理系大学生に役立つ情報をお届け。
こんにちは。サインキャリアデザイン研究所の篠原です。フリーランスのキャリアコンサルタント(国家資格)として学生向けのキャリア支援を行っており、理系大学を含む複数の大学でキャリア科目・就職支援講師として活動しています。人材業界でも17年間、企業の新卒採用支援や自社の採用業務、新入社員の教育担当などを行っていましたので、採用企業が新入社員に求めているもの、新入社員が会社に求めているもの両方を知っていることを強みとしています。
ある理系大学では長年にわたって、多くの学生の皆さんの就職活動における迷い、悩み、頑張りに触れてきました。また企業の方たちと協力して理系向け就職セミナーや、技術職社員の方たちとの座談会などの運営経験もあります。そうした活動を通じて実感してきたのは、就職活動という場そのものが、学生さんそれぞれの気付きや見直し、成長のステージになり、いかにそこから逃げずに向き合っていくことが大切であるかということです。
このシリーズでは、そんなこれまでの実際の先輩たちの就職活動における成功や失敗の事例も多く取り上げながら、よりリアルに理系の就職活動の進め方をイメージしていただける記事を発信できればと考えています。
第6回目の今回は、技術面接のコツをお届けします!
技術職・研究職の応募者に限定した面接があるみたいです。そこではどんなことが聞かれるのでしょうか?またその面接に向けて準備しておいた方がいいことがあれば教えてください。
技術面接とは?
主に理系の技術職や研究職の採用に際し、大学・大学院での専攻や研究に関する質問を中心とした面接を指します。従来は大学院生に対して行うものが中心でしたが、近年は学部卒での技術職・研究職採用も増えており、学部生に対しても多く行われています。そのため、技術面接で聞かれることは幅広く、卒業研究や大学院での研究内容だけなく、大学入学以来学んできた専門課程全般に関する質問もされると考えておいた方が良いでしょう。また、技術面接は必ずしも通常の面接とは別に切り離して行われるものだけでなく、自己PRやガクチカなども聞かれる通常の面接においても、学んできた専門分野について質問されることも多くあります。そこで今回はそのような場面も含め、学んできた専門性、技術、取り組んでいる研究について聞かれた際の受け答えについてポイントを解説していきます。
技術面接の面接官の多くは技術系社員
技術面接では主に自分が志望する職種や分野に携わる技術系社員の方が面接官を務めることが多くなります。人事部の採用担当者が同席して行うことも多いですが、質問はその技術系社員からすることが多いです。そのため、技術面接では人柄はもちろん、応募者の研究内容やこれまで学んできたことが自社に活かせそうか、という可能性を見ています。また面接の進め方も、事前に研究概要書を提出させ、その内容に沿って質問を進めていくケースや、パワーポイントなどでまとめた資料をプレゼンした後で質問するケースなどもあります。
人事部の採用担当者にも分かりやすい表現を
面接では技術面接という区別をせずに、総合的な面接の中で大学・大学院での専攻や研究について質問を行っていくケースも多々あります。その場合、技術的な知識を持たない人事部の採用担当の方がそのまま面接官を務めることも多くあります。その際には文系の人にとって分かりやすい言葉で説明することが大切で、なるべく専門用語を避ける、あるいは専門用語を使う場合にもその内容を分かりやすく解説することを心がけましょう。「この研究は〇〇に例えるとこのようなものだといえます」など、少しでも誰でもがイメージしやすいものに置き換えて説明できればいいですね。
念頭に置きたいのは「応用」という視点
取り組んでいる研究については、その内容がそのまま応募企業での研究・開発にピタリと当てはまるケースは中々多くないといえます。とはいえ、研究がそのままその企業には活かせなさそうだという理由で、応募を諦めてしまうことも避けてください。大切なのはその研究がその企業であればどのように「応用できるか」という視点です。例えば以前、金属と接合させる新たな樹脂の研究に取り組んでいた学生が自動車の車体メーカーを志望した際、今後の自動車のEV化において追究されている軽量化に応用できるという説明を行いました。このように自分自身がその企業での事業や開発分野について入念な企業研究を行い、その企業のその職種であればどのように応用できるかを、自分自身で説明できるよう準備を進めていきたいですね。
研究の応用視点において大切な、社会・業界動向の理解
技術職の中でも、研究・開発職についてはその企業の「これから」を担うものになります。したがって、いま現在既に導入されている技術や開発されているものに対して自分もそれができるというだけでは物足りないといえるでしょう。そこで大切になるのが、その企業の担う分野の今後の動向や必要とされることを知り、その企業の研究・開発では何をすべきなのかを自分自身でも考えていくことです。前述の自動車の車体メーカーに応募した学生も、今後、自動車がEV化されていく中で航続距離を延ばすためには車体の軽量化が必要であるということを知り、自分の研究がどのように応用できるかを考えていったという経緯があります。このように志望する企業については、ただその企業の優れている点や魅力を知るだけではなく、今後の社会や業界の動きをしっかりと研究し、課題を見つけ、やるべきことは何か?自分はそこに対して何ができるかを整理していきたいですね。
学部での取り組みも整理しよう
学部卒における技術職での就職は、従来、メーカーであれば生産技術や品質管理、ゼネコンであれば施工管理など生産現場寄りの職種が多くを占めていましたが、近年は研究・開発、あるいは設計などについても入社時から配属されうるケースも増えてきました。これは大学院への進学率が近年低下していること、人口減少化による若手技術者の減少が進んでいること、自社での育成体制の強化などが背景にあります。もちろん、応募企業の個別の状況は、大学の卒業生の就職実績や説明会、インターンなどを通じて調べる必要がありますが、可能性があることが分かれば自信を持って準備を進めていけるのではないでしょうか。就職活動の時期には、ゼミでの卒業研究は着手前ということも多く、研究実績という点でのアピールはあまりできません。そこで、卒業研究については目的や背景、研究の応用を中心に、これから1年間進めていく研究に期待を持ってもらうことをイメージして伝えることが大切です。また、卒業研究以外の各科目で身に付けてきた応募企業に活かせることの整理も同時に進めていきたいですね。例えば情報系であれば、これまで学部の中で習得してきたプログラミング言語や、ネットワーク、センシング、画像・音声処理などの知識で、何がその企業に活かせるかを考えていくということです。
技術面接に向けた研究内容・研究概要書のまとめ方
技術面接はESへの記入内容や、別紙にて先に提出した研究内容・研究概要書に基づいて質問が行われます。別紙で提出する際にはA4サイズ1〜2枚で整理するものが多く、他にも前述のようにパワーポイント数枚で作成し、面接当日にそれを使ってプレゼンするような流れのものもあります。その研究内容・研究概要書ではどのようなことを書いていけばいいか?お勧めしたい項目と構成を以下に整理してみました。
➀研究テーマ
まずは一言で研究テーマを書きます。大学所定の履歴書によっては指導教員名まで明記する書式のものもあります。その教員がその研究分野で著名な方であるケースもあり、書くか、書かないかはそれぞれの判断で良いかと思います。
➁研究概要(背景と目的)
多くの研究は何らかの課題に対してその解決や進歩など「これから」を探るものになります。そのため、その研究にはどのような課題や背景があるのか、そして何を目指すための研究であるのかという目的を紹介します。自分自身が持つ問題意識を示す場でもあり、企業側も応募者の関心の方向性や価値観などを知る部分になっていきます。技術面接における理系学生のよくある悩みとして、長年、ゼミで行われている継続研究などの場合に、自分では研究の背景や目的をよく分かっていないということがあります。そんな場合でも、引き継いだ以上は自分自身の研究だという当事者意識を持ち、しっかりと背景や目的を理解した上で主体的に研究を進めていきたいところです。
③研究の応用
その研究で目指す成果(あるいは得られた成果)は、何に応用できるのかということを説明します。その際、あまりにも専門的なものについては、実社会に実装された場合の例を挙げると伝わりやすいと思います。例えば「この新たな画像処理技術は、高齢化社会に向けて必要性が高まるといわれるオンライン診療での、患者さんの顔色や患部の詳細な確認などへの応用が可能になります」など、企業側がよりイメージしやすい表現を心がけるといったことです。もちろん、ここでは応募企業ごとにその企業ではどのように応用できるかを考え、1社ごとに適した表現を考えていくことも力の見せどころになると思います。
④研究の進め方
具体的にどのような方法で研究を進めているのか(研究着手前の場合には進め方の計画)を説明します。ここでは単に取り組んだ内容だけでなく、研究過程で自分が考えたことや、より良い結果を得るために工夫したことなどを積極的に示していくことが大切です。企業は研究結果以上に「研究の中でどんな工夫やどんな学びを得たか」という過程を重視しており、この説明を通じて応募者が実際に仕事の場で発揮してくれるであろう課題解決能力などのポテンシャルを見ているといえます。
➄現状(結果)と今後の課題・展望
今現在、研究はどこまで進んでいるのかを示した上で、現状の課題と今後の進め方について説明します。中にはゼミなどで継続的に研究していることを先輩から引き継ぎ、自身もまた後輩に引き継ぐものもあるかと思いますが、その際も自分自身は何をゴールに掲げ、どこまで進める予定なのかを示すことも大切です。また研究着手前の場合には、前述の研究の進め方の計画までの説明で問題ないと思います。
技術面接での質問例
最後に、技術面接で聞かれる質問例を学部生・大学院生に分けてご紹介します。これまでにご紹介したポイントを押さえた上で、自分が応募企業の面接でどのように回答するかを考える際に活かせてもらえたら幸いです。
学部生の場合
①この大学でこの学科を選んだきっかけは何ですか?
②大学でのこの学科の科目や勉強内容の特徴はありますか?
③この学科で力を入れて取り組んだこと(または得意科目)は何ですか?
④この学科でのグループ実習(または課題解決型学習)の経験はありますか?
⑤グループはどんな役割を担うことが多いですか?
⑥どんなゼミに所属していますか?
⑦そのゼミを選んだ理由は?
⑧卒業研究は何を予定されていますか?
⑨その研究の背景や目的は何ですか?
⑩その研究は何に活かせる(応用できる)研究だといえますか?
⑪その研究はどのように進めていく予定ですか?
⑫その研究や大学での専攻のどのような点が当社で活かせそうですか?
大学院生の場合
①大学院への進学理由は何ですか?
②大学院でのいまの研究科・専攻を選んだ理由は何ですか?
③大学院での研究内容について教えてください。
④その研究の背景や目的は何ですか?
⑤その研究は何に活かせる(応用できる)研究だといえますか?
⑥研究はどのように進めていますか?
⑦研究上の課題や苦労されていることは何ですか?
⑧研究上の課題に対してどんな解決策を取られていますか?
⑨研究上、特に工夫されていることは何ですか?
⑩その研究は現在、どのような段階ですか?
⑪今後の計画はありますか?
⑫その研究のどのような点が当社で活かせそうですか?
⑬学会発表の経験はありますか?
⑭学会発表ではどこまでの成果を発表されたのですか?
⑮学会発表ではどのようなフィードバックや感想がありましたか?
まとめ
今回は技術面接にフォーカスして、考えるポイントやコツについてお伝えしました。技術面接においても、「相手のため」という意識を持ち、聞く側の立場に立ったコミュニケーションがポイントとなることは、一般的な面接と同様です。
研究実績がまだ無い、研究を直接生かすことが難しそう、といったことに対して不必要にネガティブにならず、「研究の過程」や「応用」の視点を生かして前向きな回答を準備してもらえたらと思います。頑張ってください!
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