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理系の職種紹介vol.3 食品表示管理(商品情報管理)の仕事 ロッテ株式会社 | リケラボ

理系の職種紹介vol.3 食品表示管理(商品情報管理)の仕事

株式会社ロッテ 中央研究所

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理系の仕事といっても職種は?仕事内容は?求人募集を見ても、いまひとつ仕事内容のイメージがわかないことってありませんか? 理系の“仕事内容”にフォーカスを当て、実際にその仕事で活躍している先輩に詳しい内容を教えていただく「リケラボ 理系の職種紹介」シリーズ。

第3回目のテーマは『食品表示』の仕事です。

私たちが日々口にする加工食品には、必ずパッケージに原材料や栄養成分などその食品に関する情報が記載されていますよね。これを食品表示といい、私たちが自分に合った食品を選び、安全安心な食生活を送るための大切な情報です。食品を提供する事業者は、食品に適切な表示をすること、消費者に対して表示内容を適切に説明していくことが法令で義務付けられています。そこで今回は、食品業界に携わるなら絶対に知っておきたい食品表示の仕事について、お菓子メーカーの株式会社ロッテ様に教えていただきました!

インタビューに応えてくださったのはロッテ中央研究所品質管理課の佐藤沙織さん(2008年入社)。ロッテ入社後、キャンディ、チョコや焼き菓子の商品開発を約5年間担当し、現在はその経験を活かし食品表示の仕事で活躍されています。

それでは早速、佐藤さんに食品表示の仕事のナカミとやりがい、必要なスキルや心構えについて教えていただきましょう!(※所属などはすべて掲載当時の情報です。)

お話しを伺ったロッテ中央研究所品質管理課の佐藤沙織さん

食品表示は情報が詰まったお客様とのコミュニケーションツール

法令や業界ルールにのっとって、お客様に必要な情報を届ける

食品表示とは、食品表示法によって食品事業者に義務づけられている「お客様にとって必要な製品情報」です。原材料や添加物、産地など、記載すべき情報は法令によって細かく定められています。そのほかに公正競争規約といって業界で定めている表示のルールがあります。例えば、チョコレートでしたら、チョコレート成分のカカオ分やココアバターが何パーセント以上ならチョコレートで、それ以下ならチョコレートとは言えないという決まりがあります。

また食品表示は「消費者との懸け橋」ともいわれています。お客様は表示内容を見てご自身に合うかどうか、食品を選ぶ際の参考にしたり、含まれている栄養成分や原材料を知ることでその食品を安心して召し上がることができます。そのため、表示すべき項目や基準は必要に応じて改定されます。例えば、2023年にくるみが特定原材料に規定されて表示義務の対象となりました。くるみによってアレルギーを起こす方が増えているからです。また、すべての加工食品への原料原産地の表示も最近義務付けられたものです。このように、食品表示はお客様に必要な情報を届ける大切なコミュニケーションツールとして、常に見直され改善されてゆくものです。

ロッテにおいては、製品の食品表示については品質管理課が管理しており、私の所属する中央研究所の品質管理課は、中央研究所で開発される商品の品質について責任を持つ部署となっています。

ロッテ中央研究所

ガム・キャンディ研究部、チョコ・焼き菓子研究部、アイス研究部といったカテゴリー別に各研究員が商品開発を行っている。品質管理課では、中央研究所で開発した新商品の表示のほか、既存製品の法改正対応、顧客からの表示や品質に対する問い合わせの対応などを行っている。

品質保証と品質管理の違い

製造業においては、製品は何であれ自社製品の品質を保つため、品質管理や品質保証という部署を設けています。よく品質管理と品質保証の違いについて聞かれるのですが、ロッテの場合は、一つ一つの製品の品質に責任を持つのが品質管理、それに対し、研究開発や原材料の仕入れから製造、マーケティング、お客様への対応までものづくりに携わる全ての部署の活動を管理するのが品質保証で、全体の統括、会社全体の体制作りをしています。

ロッテ中央研究所における食品表示の仕事

食品表示の仕事① 企画段階での表示相談

研究員の表示相談に対応する

新商品のコンセプトや原材料の配合は研究員が決め、試作していきます。既存製品に関しても、より美味しくなるように配合を変えるなどリニューアルを行っています。これら商品開発の企画段階で、コンセプトの根拠やパッケージに記載する訴求(PRポイント)が妥当かどうかについて、研究員からの相談に対応することは私たちの重要な仕事の1つです。これを「表示相談」といいます。

お菓子は種類ごとに業界団体があり、業界ルールにのっとったものを作らないといけません。このルールを公正競争規約といいます。例えばチョコレートは全国チョコレート業公正取引協議会により、チョコレート生地が全重量の60%以上なら「チョコレート」、それ以下なら「チョコレート菓子」と表示するというように、細かな基準が定められています。開発しようとしている製品がこのルールに適合しているかどうか、相談を受け、基準に照らし合わせながら確認していきます。

もうひとつ例を挙げるとしたら、“バターたっぷり”をうたった商品を作りたい場合が分かりやすいかもしれません。開発部から「これから作ろうとしている新製品はバターの含有量8%なのですが、“たっぷり”という表現は使えますか」といった相談が寄せられます。実際には“バターたっぷり”と言いたいなら10%以上含まれている必要がありますが、単に「できません」と答えることはしません。私たちは研究員が作りたいものの意図を汲み、法令や業界ルールを確認した上で、どういう表現なら可能か提案をします。もし“たっぷり”と書ける基準を満たさない場合は、使用している分量(具体的にバター量8%)など具体的数値を記載することで、伝えたいこと(バターがたくさん入っていること)が伝わることも多いです。栄養成分の訴求であれば、分析の部署にサンプル分析を依頼し、その結果をもらって判断することもあります。

表示相談については繊細な言葉選びがモノを言います。「贅沢に使用しました」だと実際に原料をふんだんに使っていないと使えません。ですが、「贅沢な味わい」ならどうでしょう?これなら美味しさ全体にかかるので可能かもしれません。そんな風にルールを踏まえた上で、根拠を探して表現を提案することもしています。

試作やサンプル段階でのチェック

また、試作品の段階では規格通りにできても、工場の大きな機械で実際に作ってみると、試作品とは異なった仕上がりになることが多々あります。含有量が基準を下回った場合、試作品の段階で作ったキャッチコピーが使えなくなることも。逆に想定よりも原材料を多く配合できた場合は、「これだったら“バターたっぷり”と表示してもよさそうですね」と再度表現を見直すこととなります。このように実際に製品が形になるまでのそれぞれの段階で製品を評価して適切な表示となるよう確認を行います。

また、お菓子の実際の見た目とパッケージのイメージを一致させることも重要なチェックポイントです。包装を開けて中身を取り出したとき、イメージにギャップがあるとお客様をがっかりさせてしまいます。試作品の色味やサイズ感をチェックし、パッケージの表現とギャップがある場合は表示について修正のアドバイスをすることもあります。このように、製品の中身だけではなく、パッケージの視覚的な印象を含めてトータルに商品を見て、コンセプトに合った商品になるよう品質を管理しています。

食品表示の仕事②パッケージの表示の確認

流通前に一括表示に間違いがないかを確認する

食品表示の仕事において、最も重要で仕事の約半分の割合を占めるのが、「表示の確認」です。食品のパッケージの裏面や側面には、名称(チョコレートなど)、原材料名、内容量、賞味期限などが書かれた「一括表示」があります。ほかにも、アレルギー物質の表示、栄養成分表示も掲載されています。これらに間違いがあると、食品表示法違反となってしまいます。

食品表示は、原材料第1位のものはどこの産地で、何がどれくらい含まれているのか、どんな添加物が入っていて、何に使われているのかなど、表示すべき内容だけでなく、表示する順序も決まっています。それらの情報は製品ごとにデータベースで管理しています。社内の手順としては、まず開発担当の研究員が産地や原材料、配合量など必要な項目をすべてデータベースに入力し、私たち品質管理課がその内容を確認していきます。原材料の表示の順番も法令で定められているので、全てが規定通りに表示されるように情報を整えていきます。この情報がもとになりパッケージのデザインや版下まで組み立てられるので、ひとつのミスも許されません。

表示の中でもとりわけ添加物には注意が必要です。添加物の表示は使用目的によって表示方法が異なるので、同じ添加物でもAという商品では酸味料と表示するがBという商品では膨張剤と表示するというように、使用目的によってケースバイケースの対応が必要なため、ミスが起こりやすい注意ポイントです。万が一記載すべきものが抜けていると全体の表示順序がガラッと変わり見直しが必要になります。確認作業は万全を期すために3名体制で行い、一次確認ではここを、二次確認ではここを、と視点を変えてチェックしてミスを防いでいます。私は複数種のお菓子を担当していますが、チョコレートとアイスクリームなど、カテゴリーが変わると見るべきポイントも変わるので、複数種の商品を並行して確認するときは、いつも以上に注意深く見るようにしています。ミスをしないのが当たり前の仕事なので、緊張感があります。経験を積んでくると、記載に誤りがある際には「何かがひっかかる」という違和感が不思議と働くようになります。誤りを未然に防ぐ上で、そうした感覚を磨くためには、知識と経験の蓄積が非常に大切だなと感じます。時間を取ってじっくりと確認をすることもミスを起こさない重要な要素なので、表示確認の時間は必ずしっかりと確保するよう、スケジューリングを心がけています。

食品表示の仕事③発売後の対応

安心してお菓子を食べていただくための確認や情報提供

発売後お客様から成分や原材料など品質に関するお問い合わせをいただいた際には、品質管理課で対応します。

例えば商品の原材料の中には、アレルゲンになり得るものもあります。そのため、時にはお客様から、パッケージに記載した情報のさらに詳細―例えばアレルギーたんぱく質量や微量元素について、もっと詳細な情報を得たいというお問い合わせをいただく事があります。そういった場合は、原料の配合情報をデータベースで再確認したり、必要に応じて微量成分の分析を専門部署に依頼し、その結果を一般のお客様にはお客様相談室の担当者を通じて、流通(コンビニやスーパーなどの企業様)には営業の担当者を通じて回答したりします。

食品表示の大切さをあらためて認識するのはこういうときですね。何度も確認した上で開発し、発売していますが、健康に不安のある方にとっては、命綱ともいえる情報です。食品表示はお客さまとの架け橋としてなくてはならないものであり、作られたあとも私たちの仕事は続きます。

食品表示の仕事④法令やルールの改正への対応

法律に対応したスケジュール管理やシステム整備

新商品は年間200品以上、毎月新商品を発売しており、特に秋冬はチョコレートなどを多く発売しています。その反対に、時間ができたときは法改正対応等の資料の整理やルール作りを行い、変更するときはどういうスケジュールで対応するかなどを関係部署に周知するなど、先を見据えた動きに力を注ぎます。法令が変わり表示すべき項目が増えたり、変更になると、使っているデータベースもそれに合わせて改修が必要になるので、そのための提案や依頼もしていきます。

食品表示担当者必携の「規約解説書」は、カテゴリー別に複数冊にわたり、1ページ単位でも大変な情報量です。これらを熟知しミスなくこなすことが消費者に安全安心をお届けすることになります。

食品表示のプロとして心がけていること

第三者視点での判断やアドバイスには研究員とのコミュニケーションも重要

私自身が業務上一番大切にしていることは、研究員との信頼関係です。開発時の表示相談の際、「こういう表示はできません」「この言い方は使えません」と否定するだけでは、研究員もどう改善したらいいのかわからず、行き詰まってしまいますよね。お客様に喜んでいただけるいい商品を送り出したいのは私も同じ気持ちです。ですので「代わりにこういう表示ならどうですか」「こういう表現だったら使えます」というように、建設的な意見を出し、研究員が作りたい商品を形にできるような提案をするよう心がけています。最終的な文言はマーケティング部門で判断することになるのですが、そのヒントとなるような、言葉や言い回しの提案を意識しています。

私たちの仕事はミスがないことが前提で、厳格なルールにのっとって表示を行うことでお客様に信頼をいただいています。そこを押さえたうえで、ルールにはまらないものを否定して終わるのではなく、どうすれば基準をクリアできるのか、基準内でどのようなポジティブな訴求ができるのか、製品をよい方向に持っていけるように、研究員と連携して一緒にいい製品を開発するという意識で仕事をしていけるようになれば、やりがいもさらに大きくなるように思います。商品が店頭に並んでお客様が手に取ってくださっているのを見るのが一番やりがいを感じるときで、苦労が吹き飛ぶ瞬間ですね。

求められるスキルや意識

ミスなく正しい食品表示を作るために、常に情報をアップデート

表示のルールや法令は時代とともに変わります。食品表示法は2015年に施行されてから、2020年に完全に切り替わり、栄養成分表示の義務付けや、アレルギ―表示の変更など、表示のルールが変わりました。もしわれわれの不注意で表示違反や問題があって商品を回収しなければならないとなると、会社に損失を与えてしまいますし、そしてなによりも、お客様は表示を頼りに商品を買ってくださっていますので、その信頼を裏切ることになってしまいます。そうならないように、業務には細心の注意を払っています。食品表示を作るのは、とても責任の大きな仕事なんです。

個人的なスキル面でも常にアップデートを意識しています。ちょうど今も新しい資格取得に挑んでいるところです。食品表示法に関する「食品表示検定」をクリアし、現在「食品安全検定」に挑戦しています。食品表示検定は初級・中級・上級とあります。食品業界を目指している方は、まず初級から挑戦してみるのもいいかもしれません。

どんな勉強をしておくべきか、この業界を目指す人へ

理系の専攻分野には左右されないが、表示を作るには開発の経験が活きる

私は元々食品に興味があり、大学院でも食品関連の研究をしました。食品科学や食品工学、微生物、物理、化学など、幅広く勉強してきたことが今に生きています。大学院では魚のアレルギーについて調べていましたが、今はアレルギーを持つ方が増えてきており、開発する上でも注意すべき項目なので、そうした知識もかなり役立っています。

ロッテでは現在のところ、食品表示の担当は商品開発経験者がほとんどです。表示を作ったり確認する際、商品の配合を読み解いたり、物性を確認したり、アイスならば冷凍学の知見が必要だったりと、開発側の知識を持ち合わせていないと対応が難しいところがあります。そのため、開発をある程度経験し、その後品質管理を担当する方が確かに理に適っているかなと思います。

出身学部については、私のように食品関連出身の人もいれば、農学や理工出身者までさまざまです。食を通じてお客様に幸せと安全を届けることに興味がある人であれば、専攻はあまり気にする必要はないと思います。

品質管理は法令に従って食品表示を作り、お客さまに情報を提供し、また的確な表現で商品をアピールできているかなど、商品の品質やイメージを担保する責任があります。お菓子の小さなパッケージには、膨大な情報が詰まっている…そんな部分を面白いと思ってもらえるなら、ぜひこの世界を目指してもらいたいと思います。

リケラボ編集部より

「食品表示はお客さまとの架け橋」

佐藤さんの言葉が印象に残りました。

表示のルールを定めた規約解説書を見せていただきましたが、何冊もあり、それぞれがかなりの厚みでした。それら細かい表示のルールを熟知し、消費者に正しい情報を届ける。そんなプロフェッショナルな仕事ぶりが浮かび上がります。バター8%と10%の数パーセントの違いにこだわる、わずかな差が食品の品質に大きな影響を与えるからこそ、細かく基準が定められているのですね。常にミスが許されない神経を使う仕事ではありますが、経験を積むほど知見がたまり、食品業界のプロとして長く活躍できる職種だと思いました。デスクワークでもあるので、在宅ワークや時短勤務で家庭とのバランスを取りやすい職種でもあるそうです。商品の質やイメージを守り、消費者に信頼を得ていくために不可欠な食品表示の仕事、機会があればぜひチャレンジしてみてください。

快く取材にご協力くださったロッテ様、佐藤さん、貴重なお話を誠にありがとうございました。

リケラボ編集部

リケラボ編集部

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