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小林隆英(通称:コーラ小林)さんは、農学部出身で、企業勤めを経てクラフトコーラブランド「イヨシコーラ」を立ち上げました。祖父の漢方技術を活かし、3年かけて独自のコーラレシピを完成させた小林さん。前回の記事では、得意なことを活かし、好きなことに挑戦するためのコツや秘訣についてお話を伺いました(前回の記事はこちら)。
今回は続編として、自社店舗での販売の枠を超え、瓶・缶の商品をリリースして国内外に販路を広げ、全国的な知名度を獲得しつつあるイヨシコーラが、供給を増やしても品質を落とさないために、クラフトマンシップと生産体制の両立をどのように維持しているのか、その挑戦と工夫についてお聞きします。
瓶や缶での提供開始。コンビニや海外でも購入できるように
── 前回取材をさせていただいた以降での新しいお取り組みやトピックについて、いくつか教えていただけますか?
小林:ここ数年でイヨシコーラは多くの新しい取り組みを行ってきました。まず、2021年にはボトル(瓶)のイヨシコーラを発売し、その後、神宮前店をオープンしました。2023年3月には缶の商品を販売し、7月にはローソンで関東地方を対象に期間限定の販売も実施しました。さらに、2024年には台湾への輸出を開始し、アメリカの日系スーパーでも取り扱いが始まりました。
── ワクワクする展開ばかりですね! 「イヨシコーラの湯」というユニークなイベントについても詳しくお聞かせいただけますか?
小林:「イヨシコーラの湯」は、コーラを作る過程で出るコーラ粕を湯船に投入して楽しむイベントです。2020年12月に、東京都杉並区の小杉湯さんが企画した「もったいない風呂」の一環として始まりました。以降、小杉湯さんで定期的に実施されているほか、廃棄物の有効活用と地域貢献を目的とするイベントとして好評をいただいたことから、2023年には30施設以上、同年8月には80施設以上、2023年12月には100施設以上の銭湯で実施されるなど展開を広げており、2024年には東京都浴場組合所属の全銭湯、および大阪府や愛知県の銭湯でも開催されました。
── お取り組みのなかでも、とりわけ「缶」のイヨシコーラが発売されたことは大きなターニングポイントだとお見受けしました。これにより通販、自販機やコンビニでの展開と、販路が一気に広がったものと思います。缶の販売のきっかけについて教えてください。もともと販路を広げることについては構想がおありだったのでしょうか? 何か具体的な転機があったのでしょうか?
小林:缶の商品の開発と、自販機やコンビニ販売への展開のきっかけは、より多くの人にイヨシコーラを広めたいという思いからです。瓶は重く、流通が難しいため、缶にすることが最適な選択だと考えました。缶を採用することで、より多くの人に手軽に楽しんでいただけるようになりました。また、コンビニでの限定販売が始まったことで、私たちのブランドが広がる大きなチャンスとなりました。
── より多くの人に広めたいという熱意が缶の採用につながったのですね。コンビニでの販売の手応え、反響や反応はいかがでしたか?
小林:コンビニでの販売開始により、多くのお客様にイヨシコーラを知って手に取ってもらえるようになりました。2022年7月のナチュラルローソンでの瓶の販売も完売に近い売れ行きでしたし、2023年3月の缶の販売では、生産が間に合わない事態になるほどでした。まさに嬉しい悲鳴といったところで、好評は大変喜ばしい反面、見方を変えれば大きな機会損失でもありましたので、生産体制に課題は残りました。
手作りの品質を保ちながら量産するため新たな製法を開発
── イヨシコーラの量産において、最大の課題は何でしたか? また、その課題を克服するための具体的な取り組みを教えてください。
小林:最大の課題は、やはり手作りの品質を維持しつつ量産することでした。具体的には、設備と製法の二つの面で大きな問題がありました。
── 設備と製法の問題ですか。それぞれ詳しく教えていただけますか?
小林:まず設備の面では、私たちの工房では大量のシロップを仕込むことができませんでした。それを高いクオリティで実現するためには、何億円もの投資が必要でした。しかし、その規模の投資を一気に行うのは難しいため、部分的に協力会社に頼むことにしました。
── それは大きな決断ですね。製法の面ではどのような問題があったのでしょうか?
小林:製法の面では、従来のやり方では少量しか生産できないため、量産に対応する必要がありました。これを解決するために、抽出技術や香りの引き出し方などを改良しました。クラフトビールやクラフトジンの製造方法からもヒントを得て、独自の技術を開発しました。
── 他の分野からも学びを得て改善を図ったのですね。協力会社との連携はどう進められたのでしょうか?
小林:協力会社とは密に連携し、品質を維持するための詳細な指示を出しました。自社で行うべきコア技術の部分はしっかりと守り、充填作業などの量産部分を協力会社に委託することで、バランスを取りました。
── それによって、クラフトマンシップを守りながら量産化を進めることができたのですね。そうはいっても量産することによって、何かトレードオフにならざるを得なかった部分はありませんでした?
小林:トレードオフにならざるを得なかった部分は価格です。協力会社に委託する工程がありますので、その分原価が上がってしまうことはやむを得ませんでした。一方で、味については犠牲にしていないと自負しています。もちろん、店舗で提供する商品と違いはありますが、必ずしもそれがマイナスに働いたわけではなく、異なるベクトルでの良さを見出しています。現在イヨシコーラでは、従来から店舗で販売していたクラフトコーラを「プレミアム」、新しく提供を始めた缶を「スタンダード」と位置付けており、それぞれのテイストの違いについても楽しんでいただけるようになったと思っています。
── プレミアムとスタンダード、それぞれの味の特徴について教えてください。
小林:店舗で提供するプレミアムは、手作りならではのコクと深みのある味わいが特徴です。一方、スタンダードは、より手軽に楽しめる缶コーラらしい、さっぱりとしたスパイシーな味わいが特徴です。どちらも異なる魅力を持っているので、シーンに合わせて楽しんでいただけると思います。
── イヨシコーラのいちファンとして、味にバリエーションが増えたことや、品質が犠牲にならなかったことはとても嬉しく思います。缶製品の製造工程についてさらにお伺いしたいのですが、手作業と機械作業はどのようなバランスですか?
小林:手作業と機械作業のバランスを割合で示すのは難しいですが、コア技術は自社で行い、それ以外の工程は協力会社に任せています。
── コア技術とは具体的には、例えばスパイスの配合などのことでしょうか?
小林:はい。いわゆる調合の部分ですね。イヨシコーラの独自のレシピを守る重要な工程です。
「好き」から生まれるエネルギーで世界を目指す
── 今後の展望として、さらなる展開や海外進出などを考えていますか? 戦略やビジョンを教えてください。
小林:そうですね。まずはアジア市場を中心に展開を広げていきたいと考えています。台湾や香港、タイなどがターゲットです。最終的には、コカ・コーラやペプシと並ぶようなブランドを目指していきたいと思っています。まずはアジア、次にアメリカでの展開を進め、世界中の人々にイヨシコーラを楽しんでもらえるようにしたいです。
── 壮大なビジョンですね。でも一歩ずつ、現実として近づいているように思います。
小林:そうですね。つい先日も「イヨシコーラの湯」のイベントで、イヨシコーラを取り扱ってくれている銭湯を回っていたのですが、小学生の女の子3人組が冷蔵庫に置かれているイヨシコーラを見て「イヨシコーラだ!」と言って、1人100円ずつ出して300円のイヨシコーラを買ってくれているのを見て、ほっこりしたというか、とても嬉しかったです。若い人だけではなく、おばあさんがイヨシコーラを買って帰るのも目にしました。やっぱりそういう光景を見ると嬉しいですし、一歩ずつイヨシコーラが皆さんの身近な存在になっていることを実感しつつあります。
── 最後に、理系の若者に向けて、クラフトマンシップ(≒研究者魂)と経営・ビジネスの両立に関してアドバイスがあれば教えてください。
小林:やりたいことと、世間の求めること、そのバランスをうまく取ることが大事だと思います。自分も一時期、どうしたら人に喜んでもらえるだろうということを考えすぎてしまった時期がありました。やっぱりどれだけ人が求めるものであっても、自分がそこまでやりたいと思えなかったり、好きじゃないなと思うことではいいアウトプットは出せません。だから、現在はバランスが大事だと思っています。
── 具体的にどうやってそのバランスを維持されているのですか?
小林:まずは情熱と熱意を持ち続けることですね。それに勝るものはないと思います。能力が10ある人がいたとして、例えば情熱が1しかなければその人の力はそのまま10ですが、情熱が70ある人の力は700になります。だから、好きなことを見つけ、それに情熱を持って取り組むことが重要です。やっぱり「好き」から生まれるエネルギーって、途轍もないものだと思っているので。そのエネルギーを活用しない手はない。まずそれが軸にあれば、そこから先、世間の求めることとのバランスはうまくコントロールすればいいし、私もそのバランスをこれからもうまく取っていきたいと思っているところです。
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<取材を終えて>
農学部出身、クラフトコーラで起業された小林さん、前回の取材時から着々と業容を拡大されており、量産という新たな課題に向き合いながらひとつひとつクリアされている様子がとてもカッコよかったです。苦労があっても自分でこだわって作るものづくりはとても楽しそうです。世界中の人に日本生まれのイヨシコーラのおいしさを知ってほしいですね。小林さん、今後ますますのご活躍を応援しております!
イヨシコーラ、小林さんの起業の経緯とコーラ愛については、こちら!
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