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コーヒー粕からセルロースナノファイバー生成! 修士1年で筆頭著者 横国大ROUTEプログラム | リケラボ

コーヒー粕からセルロースナノファイバーの生成に成功! 修士1年で筆頭著者!横国大ROUTEプログラム生の研究力の伸ばし方

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研究と一言でいっても、課題設定、実験、データ解釈、ポスター作成、学会発表、論文執筆…と研究者に求められる能力はとても多岐にわたっていて、バランスよくスキルを上げていかなければなりませんが、今のやり方で大丈夫なのかな・・・と不安に思っている研究者志望の方も少なくないですよね。

今回、修士課程1年で国際的なジャーナルにFirst authorとして論文を発表した横浜国立大学の金井さんと指導教官の川村先生にお話を聞く機会をいただきました。横国大の理工学部では、学部1~3年生の早いうちから研究室に入り研究が始められるROUTE(Research Opportunities for UndergraduaTEs)というプログラムがあります。金井さんはこのプログラム生として精力的に研究に取り組み、上記のような快挙を成し遂げました。

その成果は、コーヒー粕からセルロースナノファイバーを生成することに成功したという、とても興味深い内容。セルロースナノファイバーといえば、軽量かつ高い強度で植物由来でもあり、環境付加価値の高い材料として注目されているナノ素材です。

論文発表に至るまでの過程、どうすれば研究者としての能力を高められるか?など、気になるお話をたくさん聞くことができました!

コーヒー粕からセルロースナノファイバーの生成に成功

通常は木材パルプから作られるセルロースナノファイバーを、使用済みのコーヒー粕から取り出すことに成功されたとのことですが、まず研究の背景と概要について教えていただけますか。

金井:川村准教授と私たちの研究グループは、コーヒー抽出後に残るコーヒー粕にセルロースなどを成分とする細胞壁が含まれることに注目し、2018年から新しいリサイクル方法について研究をしてきました。コーヒー粕には元々乾燥重量として10%程度のセルロースしか含まれていないのですが、日本にはユニークなコーヒー文化が多数あり、コーヒー粕の廃棄量が多いことから資源として活用できるのはないかというのが発想の起源です。そして、コーヒー粕とTEMPO試薬を適切な条件で混合するTEMPO触媒酸化法を適用することで、使用済みコーヒー粕からセルロースナノファイバーを生成することに成功しました。

学部の早い段階から研究室に入れる横浜国立大学の「ROUTE」プログラム

修士1年で論文発表するためには、学部生の間にテーマを決定、データもそれなりに取れている必要がありますよね。とてもすごいことだと思います。

金井:通常、学部生が研究室に所属するのは4年生からになりますが、横浜国立大学には1〜3年生が早期に研究室配属となって最先端の研究に触れられる、ROUTEというプログラムがあります。私は入学当初から、研究留学をしたいという目標を持っていて、早めに研究室に所属することで、留学がしやすくなるのではないかと考えました。また、学部生のうちに座学と研究を両方経験できるというのも魅力だったので、3年生のときにROUTEプログラムを選択し、川村先生の研究室に入ることを希望しました。


ROUTEプログラム
学部学生の最先端研究の参加が可能なプロジェクト
第24回日本工学教育協会 工学教育賞(文部科学大臣賞)受賞した横浜国立大学 理工学部の教育プログラム
http://es-route.ynu.ac.jp/

川村:ROUTEは理工学部の他の学科・教育プログラムでは先行して始まっていたのですが、金井さんが所属する化学教育プログラムでは金井さんが一期生になります。このときは同じ学年のおよそ70名のうち金井さんを含めて2名が希望し、もう一人は別の研究室に入っています。

金井:川村先生の研究室を希望したのは、高校時代の化学の授業でNMR(Nuclear Magnetic Resonance=核磁気共鳴、物質の分子構造を原子レベルで解析する手法)の基本について学び、興味を持ったことがきっかけです。川村先生は固体試料を対象とする固体NMRの分析を専門とされており、ぜひここで学びたいと思ったんです。でも当時は3年生でまだ授業もありましたから、最初は週に1回か2回研究室に伺って、指示されたことをするといった感じでした。

川村:通常、当研究室に入る学生には2つのことを求めています。一つは自分でタンパク質を作ること。もう一つはNMRの装置を操作して測定を行うことです。ただ、3年生以下の学部生が両方とも一人で行うのはスケジュールや技術的にも大変です。そこで金井さんにはどちらか片方をまずやってもらうこととし、彼女が興味を持っていたNMRから始めることにしました。これがコーヒー粕やセルロースナノファイバーの出会いのきっかけになっています。

分析手法を学ぶうちにコンセプトが固まっていった

NMRでの分析とセルロースナノファイバーの研究は質が違うものだと思いますが、どのような展開があったのでしょうか。

川村:まずはシンプルな試料を使ってNMRでの分析手法を学ぶことからスタートしてもらいました。砂糖とか、コーヒーとかごく身近にあるものが対象でした。そうして実際に分析手法を学ぶうちに、彼女は文献などをいろいろと調べ、コーヒー粕に残るセルロースナノファイバーの可能性に気づき、これを取り出すための研究についてのコンセプトが定まっていきました。最初からコーヒーのセルロースナノファイバーを取り出そうとしていた訳ではなく、分析手法を学ぶ過程でコーヒー粕が持つ可能性に気づいたということなんです。

金井:コーヒーを調べようと思ったのは、川村先生がよく飲まれていたからです。もし先生があまり飲まれていなかったら、注目するにはもう少し時間がかかったかもしれません。なぜなら私自身はコーヒーを飲まないんです(笑)。

とても面白い経緯ですね。どのあたりでコーヒー粕のセルロースナノファイバーの研究へとシフトしていったのでしょうか。

金井:初めは粕ではなく、コーヒー豆そのものについて分析していました。産地や豆の種類、焙煎温度の違いがNMRに表れるのではないかと考えていました。しかし、どの条件でも結果に差がありませんでした。豆の状態で差がないなら、粕でも成分は変わらないのではということになり、次第に豆そのものから粕へと対象が変わっていきました。川村先生と随時相談しながら研究を進めていきましたが、この方向性を見出すのに1年ほどかかりました。

金井:調べていくと、コーヒー粕にはセルロースなどを成分とする細胞壁が含まれていることがわかりました。しかしその割合は10%程度と多くありません。だからだと思いますが、それまでナノ化したセルロースを抽出する取り組みは誰も行っておらず、論文もありませんでした。コーヒー粕は燃料や飼料等で再利用されています。でももしコーヒー粕の中からセルロースを取り出すことができたら、環境付加価値の高い資源として新たな活用ができると思ったんです。しかも、日本は缶コーヒーが製造される独特のコーヒー文化があり、2018年の消費量は47万トンという消費大国でもあるので、コーヒー粕も大量かつまとまって出ます。セルロースの含有量が少なくても、可能性はあると思いました。

ラボで初めてセルロースナノファイバーを研究対象にする

この研究ではコーヒー粕とTEMPO試薬を混合し、TEMPO触媒酸化法によってセルロースナノファイバーの生成に成功されたそうですが、研究過程での困難や達成感はどのようなときにありましたか?

金井:終始難しいことだらけでした。コーヒー粕に注目してからは研究対象がセルロースナノファイバーとなり、これまで学んでいたこととガラリと中身が変わりました。世の中に論文もなく、参考にできるものもありません。セルロースナノファイバーをどうすれば取り出せるのか、他の研究室のセルロース専門の先生にアドバイスをもらい、またどう分析したら論文に載せられるデータが得られるか、固体NMRを使いつつ、それ以外のいろんな分析手法も一から手探りで試していきました。研究を続けて「これでできたんじゃないか?」という物質を固体NMRにかけて、自分の予想していたデータが得られたときは本当に嬉しかったです。「自分はできたんだ!」という大きな達成感を得られました。

川村:これまで、コーヒー粕のリサイクル方法についてはバイオマス燃料に使うとか家畜の飼料にするなどいくつかありましたが、環境付加価値の高いセルロースナノファイバーを取り出すという、リサイクルを超えたアップサイクリング(Upcycling)的な成果を見出した意味は大きく、かつこれは世界でも初めての研究成果でもあります。セルロース研究に関する専門誌Celluloseに受理され、2020年4月1日にオンライン版が公表されました。海外のニュースやブログでもかなり注目していただきました。

研究者として伸びる学生とは?

川村先生に伺います。金井さんの研究を見守ってこられてどう思われましたか?

川村:研究者としての大きな素質を持った学生だと思います。金井さんを研究室に迎えた当初、どのように指導するのが良いのか考えたのですが、彼女は自分で調べる力がある学生でした。そういうタイプの人にはあれこれ細かい指示をするよりも、機会を与えて自由にやってもらうほうが適しています。それに、とても好奇心が旺盛で、色々なところに行かないと彼女の好奇心を満たせないとも感じました。セルロースナノファイバーは私の本来の研究対象とは違いましたが、彼女に別のテーマを与えるよりは、これを深めてもらった方がいいと思い、さまざまな機会を与えることを大切にしてきました。

川村:目標としてもらったのが学会発表です。これは自分の研究成果が専門的な分野でどのような評価を受けるかが率直に把握することができ、今後の研究計画にも大きな影響を及ぼします。私は研究計画、実験方法、機器の使い方、データ解析や研究の流れの説明をどうするのか等、金井さんと相談しながら、最終的にはどうやったらゴールに辿り着くのかといったことについての指導を心がけました。そして、3年生の終わりには文部科学省主催のサイエンスインカレへ、4年の夏にはセルロースの専門学会に参加させ、彼女の発表は高い評価を受けて優秀発表賞を受賞するに至りました。また、同年の10月にはドイツの国際会議に出席し、学部生ながら口頭での発表も経験しています。ひとつひとつの発表をクリアするごとに成長が見えましたし、これらの機会を通じて彼女自身でも人脈を広げていきました。

金井さんご自身としてはどのように感じていらっしゃいますか?

金井:3年生から研究室に所属したからこそ、このテーマに出会えたと思います。おかげでいろんなつながりが生まれ、そこからさらに研究が広がって楽しくなりました。川村先生は研究室では私たちとデスクを並べておられるので質問も気軽にできます。また、具体的な指示というよりは考えるきっかけを常に与えてくださるので、それも良かったと思います。いい環境の中で高いモチベーションを持って研究を続けていくことができました。

海外でのご経験についてはどうでしたか?

金井:大学4年にドイツの国際会議に参加して、かなり意識が変わりました。海外のレベルに圧倒され、自分の未熟さを痛感しましたし、おかげで視野が広がりました。また、修士1年ではオーストラリアに7ヶ月間NMR関連の研究留学をし、博士課程でも留学をする予定です。研究者を目指すなら、海外に出るのは本当に大事ですね。これからも日本と海外を積極的に行き来して研究を深めていきたいです。

今後の展望

研究の今後の展望を教えてください。

川村:従来の木材由来のセルロースナノファイバーは鉄より5倍軽く、5倍の強度があるなど、環境付加価値の高い次世代のバイオ素材です。モーターショーでもこれを使った自動車が発表されたりしていますが、さまざまな分野での実用化の研究が進んでいます。コーヒー粕から取り出したセルロースナノファイバーは、木材由来のものと類似の特徴を持ちますが、分子レベルでは違いがあることがわかっています。コーヒー粕から取り出したセルロースナノファイバーの機能性を見つけていくのが今後の研究となります。

金井:木材のものと同様に扱えるなら、セルロースナノファイバーが取り出せる原料が増えることになります。もしそうでなくても、コーヒー粕由来のセルロースナノファイバーが持つ特徴を生かせるものを探していきたいと思います。私は現在修士の2年で博士課程にも進む予定ですが、残りの時間で研究を深め、コーヒー粕からのより効率的なセルロースナノファイバー抽出方法や活用方法などを追究していきたいと思います。

「気づきの能力」から研究はめばえる

最後に、研究者を目指す学生さんに向けてアドバイスをお願いします。

川村:私は学生がアカデミックに進むか、あるいは就職するかのどちらにしても研究を通じて二つのことを身に着けてほしいと考えています。一つ目は専門性を高めること。そしてもう一つは人間関係の築き方です。共同研究などを経験することもあると思いますが、そういう場を通じて、人とどう関わればよいのかといったことを学んでほしい。研究室に閉じこもって研究に没頭するだけでなく、積極的に外に向かってアウトプットしてほしいです。学部生であっても自分をアピールできる場はたくさんあるので、ぜひ積極的に挑戦して欲しいと思います。そういう意味では、ROUTEプログラムを通じて、新しいタイプの学生が生まれてきていると感じています。

川村先生のおっしゃる“新しいタイプの学生像”とはどんな学生でしょうか?

川村:単に積極性があるというような、一言では表すことができません…。横浜国立大学の教育理念の中に「国際性」「実践性」「先進性」「開放性」というキーワードがあります。この4つを兼ね備えた者が新しいタイプの学生像といえるかもしれません。すべてを備えることはかなり難しいと思いますが、金井さんはこの4つを備え、それらを深めている学生だと思います。

川村:研究は気づきの能力から芽生えるものですが、金井さんも、研究を進めていく中で、彼女自身で気づきを得て、研究室の枠を越え、時には海外にも新しい知見を求め、成果につなげていきました。そうしたなかで、外部の方に研究に協力してもらうためには、その分野のことをどれくらい勉強しなければならないのかといったことも、自然と会得されていった印象です。ROUTEがあったからこそたどり着けたのかもしれないと思いますし、今後もROUTEを通じて4つの要素を身につけた、多くの学生が続いてくれるだろうと思っています。


川村先生の自由に才能を伸ばす指導法もさることながら、金井さんが自らの知的好奇心に忠実に、貪欲に研究を進めていかれた過程がとても印象的でした。

今後のさらなるご活躍を応援しております!


横浜国立大学 ROUTEプログラムホームページ
http://es-route.ynu.ac.jp/

<文献情報>
雑誌名: Cellulose, 2020 年 27, 5017-5028. DOI: 10.1007/s10570-020-03113-w 論文題目: Structural characterization of cellulose nanofibers isolated from spent coffee grounds and their composite films with poly(vinyl alcohol): A new non-wood source コーヒー粕から分離されたセルロースナノファイバーとポリビニルアルコールとの複合フィルムの構造解析: セルロースナノファイバーの新しい非木材資源 論 文 著 者 : Noriko Kanai, Takumi Honda, Naoki Yoshihara, Toshiyuki Oyama, Akira Naito, Kazuyoshi Ueda, Izuru Kawamura* (金井典子、本田拓望、吉原直希、大山俊幸、内藤晶、上田一義、川村 出*)

リケラボ編集部

リケラボ編集部

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