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はじめに
この記事を執筆します、荒木義明です。敷きつめ模様(テセレーション)の数理を研究する数学者です。数学の研究で見つかる面白い形や模様の楽しさを多くの人に伝えようと、全国の科学館や小学校などで展示やワークショップを行っています。
この記事では主に未就学児のお子さんを対象とした図形の敷きつめを使った楽しいワークをご紹介します。図形の敷きつめは小学校の算数で学習する内容ですが、図形に関する知識や作図の技能がなくても問題ありません。むしろ、勉強として図形に取り組み始める前に、遊びとして図形に親しんでいただきたいです。
図形の敷きつめの眼で身の回りを観察することは、理系センスを磨くことになるはずです。蜂の巣には正六角形の敷きつめが、舗道のタイルには長方形の敷きつめが見つかります。こういった観察は、物質の結晶構造や建築のトラス構造などへの興味につながることでしょう。
今回のワークでは、図形の敷きつめを自分で作っていただきます。まずはいくつかの図形をピッタリ並べることから始めて、図形を増やして繰り返し並べていきます。次々と並べるとでてくるパターンの法則を自分なりに見つけていきます。
数学×アートの力を育む「T3パズル」
敷きつめられる図形の中で最もシンプルな形といえば正三角形です。この図形の辺は3本だけで、どの辺の長さも同じです。同じ大きさの正三角形をピッタリ並べると、誰でも失敗なく敷きつめることができます。
今回のワークではT3パズルという教材を使います。T3パズルは一種類の正三角形のピースをピッタリ並べて絵を描くパズルです。ピースのシンプルな柄は裏返すと色が反転し、様々な図形を生み出します。2014年以来、全国で展示・ワークショップ・コンテストを開催しています。
T3パズルはwebアプリとして無料で利用することができます(www.t3puzzle.com/b)。webアプリはスマホでも利用できますが、より沢山のピースを並べるにはタブレットやPCがおすすめです。また、実際に手で並べたい方には、紙版のT3パズルもご用意しています (www.t3puzzle.com)。
お子さまへのヒント①「お花を描いてみよう」
では早速、未就学児のお子さんが並べたT3パズルの例を見てみましょう。
この写真は4歳のお子さんが紙版のT3パズルで制作した作品「お花畑とネズミくん」です。五輪のお花の中を2匹のネズミくんたちが走っている様子が見えるでしょうか。この作品は3年前に開催したT3パズルのコンテストの入選作の一つです (https://www.tessellation.jp/t3summer/2020)。
この図は先の作品の一部「お花」をwebアプリで描いたものです。このお花は6枚の花弁が対称的についています。線対称図形としてみると6本の対称軸があるので、確かめてみてください。
このお花の図形を構成するのがT3パズルです。正三角形のピースの上半分と下半分が白色と青色に分かれています。このT3パズルでお花を切り分けていくと、12ピースあることがわかるでしょう。
お子さまへのヒント②「繰り返し模様を描いてみよう」
次は作り手の視点から、お花の発展形を考えましょう。お花の発展形と言っても、お花にこだわる必要はありません。このお花も先に完成形を想像して描かれたわけではないようです。ピースを並べていくうちに図形ができ、その図形が結果的にお花に見えたのです。
またお花の発展形と言っても、先ほど調べた対称性にこだわる必要もありません。この対称性も、先に完成形を想像して描かれたわけではないようです。ピースを並べていくうちに図形ができ、その図形に結果的に対称性が現れたのです。
ここでは隣り合う2ピース「ダイヤ」を考えます。ダイヤでお花を切り分けていくと、下の2通りのダイヤが見つかるでしょう。左のダイヤでお花を切り分けると6つのダイヤになります。右のダイヤでお花を切り分けると3つのダイヤとT3パズルが6ピースになります。
4歳の作り手はピースを並べていくうちに、これらのダイヤを見つけたようです。まず右のダイヤの並びを繰り返すと中心の六角形ができます。さらに六角形にピースを増やして左のダイヤを6つ付けてお花ができたのです。
そこで、「お花みたいに2種類のダイヤだけを使うとどんな図形ができる?」とお子さんに声がけしてみるのもいいでしょう。これらのダイヤをパターンの規則として捉え、どんどんピースを増やしてみましょう。
そして「できた形は何に見えた?」とお子さんに聞いてみるのもいいでしょう。下の3つの図はそれぞれ心の眼で見ると、太陽や、歯車、蜂の巣に見えるという人もいるでしょう。化学に詳しい方ならきっと、ベンゼン環やコロネンなどの芳香族炭化水素に見えたことでしょう。
下の図はダイヤの規則をさらに繰り返したものです。伝統模様の亀甲模様に見えるでしょうか。または炭素原子のシート状に結晶構造であるグラフェンと見ることもできるでしょう。
お子さまへのヒント③「もっと繰り返し模様を描いてみよう」
ダイヤの規則を変えて繰り返し模様を作ることもできます。下の図はその一例です。ダイヤで模様を切り分けて、ダイヤが2種類あることを見つけてみてください。
お子さまへのヒント④「色違いのピースを使ってみよう」
ここまでは1種類のT3パズルだけを説明しましたが、他のピースも組み合わせてみましょう。
同じ青色のピースでも上半分と下半分で色が逆のピースもあります。webアプリでこの逆のピースを使うには、T3パズルの上半分の三角形を押してください。紙版のT3パズルでは裏返しをすると色が逆のピースになります。
下の作品は6歳のお子さんがwebアプリで制作した作品「かにかにくん」です。両手のハサミを元気に挙げて正面を向いたカニが見えるでしょうか。この作品は今年の正月に開催したT3パズルのコンテストの入選作の1つです (https://www.tessellation.jp/t3dream/2023)。
お花とは対照的で、この作品は先に完成形を想像した上で描かれたようです。細部のピースの並びは不規則で荒々しく、全体像としてカニの勢いよく描かれた見事な作品です。
さらに青色以外のピースも活用してみてください。カラーバリエーションは青色、緑色、桃色、ミント色の四色です。webアプリでは画面左上の色のついた丸いボタンを押すと色を切り替えることができます。
下の写真は5歳のお子さんが紙版のT3パズルで制作した作品「プリンセス」です。ティアラを被りピンクのドレス姿のお姫様が踊っている様子が見えるでしょうか。この作品は三年前に開催したT3パズルのコンテストの入選作の1つです (https://www.tessellation.jp/t3summer/2020)。
この作品ではT3パズルの特徴をうまく活用して描かれています。ドレスの柄は二種類のダイヤの規則で作れる繰り返し模様です。そしてプリンセスの顔の表情は少ないピースで見事に表現されています。
この作品の極め付けは右側の図形です。植木鉢から伸びる細い植物の上に青色の星のお飾りが乗っているのが見えるでしょうか。T3パズルを並べるだけではなく重ねることで星のお飾りを表現した見事な作品です。
T3パズルのワークはいかがでしたか?正三角形のピースを並べて自由な発想でお子さんと一緒に遊びながら作品作りをしてみてください!
T3サマーコンテスト作品募集のお知らせ
皆さんの作品を現在開催中のコンテストにご応募いただけます。詳しくはコンテストサイトをご覧ください (www.t3puzzle.com/contest) 。
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