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「エアコンが分解できる、大人気のイベントがあるらしい」
そんな噂を聞きつけ、編集部はダイキン ソリューションプラザ「フーハ大阪」に向かい「エアコン分解」を体験してきました。ダイキン工業株式会社は、「空気で答えを出す会社」として広く知られる空調のリーディングカンパニー。家庭用から業務用まであらゆるシーンの空調設備を世界中の170を超える国と地域に提供しています。
もはや私たちの生活に欠かせないエアコンの中にはどんなパーツがあり、どんな働きをしているのでしょうか。分解してみると、空気について圧倒的に考えてきた企業ならではの工夫がたくさん詰まっていました!
お客様の声から生まれた「大人向け」のエアコン分解イベント
イベント体験の前に、このイベントがスタートしたきっかけや開催への思いをフーハ大阪のスタッフでイベント企画がご担当の木村庄一さんにお話を伺いました。
── 「エアコン分解 大人向け」が誕生したきっかけについて教えてください。
木村:まず親子向けに、夏休みの自由研究イベント「めざせ!空気博士」として2012年にスタートしました。申込を開始するとすぐに枠が埋まるほどの人気で、特に保護者の方々から熱量の高さを感じていました。「大人だけで参加できませんか?」というお問い合わせも多く、ご要望にお応えする形で開始しました。最近では親子向けより大人向けの方が反響が大きく、高倍率なんです。
── 「エアコン分解」という響きは、“マグロの解体ショー”を想起させるユニークなイベントですね。どのような思いで始められたのでしょうか?
木村:2011年の東日本大震災後に節電が全国に呼びかけられるようになりました。ご家庭での電気使用量に占めるエアコンの割合は約3割とかなり大きく、「エアコンを上手に使って節電に役立てていただけるような機会を作りたい」という思いから始めました。
── 意外にも節電がスタートだったのですか。
木村:そうなんです。エアコンは無くてはならない家電製品になりつつあると思いますが、中身の構造や仕組みはあまり意識されていない印象です。また、メンテナンス方法も良くわからないという方が実は多いように感じますね。特に室内機のフィルターは掃除をしないと目詰まりを起こして消費電力が上がってしまいます。自動お掃除機能がついているエアコンが増えましたが、定期的なメンテナンスは引き続き必要です。フィルター自動お掃除機能がない場合は、2週間に一度を目安に、掃除機でフィルターのほこりを吸ってあげてくださいね。今日はエアコンの仕組みを知って、使い方のコツを持ち帰っていただけたらうれしいです。
まずは、エアコンの仕組みについてレクチャー
分解用のエアコンが置かれたテーブルに、グループごとに集まって、いよいよイベント開始です。
実際に手を動かす前に、エアコンの仕組みや空気の性質について教えていただきました。レクチャーしていただいたのは、ダイキン社員でフーハ大阪スタッフの宮崎さん。
そもそも、なぜエアコンは空気を“暖める”“冷やす”の両方が可能なのでしょうか。
「熱が高いところから低いところへ移動するという性質を利用しています」と宮崎さん。
例えば、熱いスープをテーブルに置いておくと冷めていきますが、それは部屋の空気へスープの熱が移っているということ。
「エアコンは、部屋の空気を温めたり冷やしたりする機械であるというよりは、“熱を移動させる機械”と言ったほうが正しい解釈となります」(宮崎さん)
熱の移動を連続的に行うために必要なのが、室内機と室外機、そしてそれらを繋ぐ配管です。
室内機・室外機それぞれに組み込まれている「熱交換器」で、吸い込んだ空気中の熱だけを奪い、熱は配管を循環している冷媒によって運ばれます。
冷房運転を行う際は、室内の空気中の熱を室内機の熱交換器で取り込み、冷媒で運んで室外機から放出します。冷房運転中に室外機から熱い風が出るのは室内の熱を外に放出しているからです。
「しかし、熱を外の空気に移すには、外の空気の温度よりも高い温度にしなければ移動してくれません。そのために、室外機内にある圧縮機で冷媒を圧縮し、外気温よりも高温にしています」(宮崎さん)
気体は圧縮すると暖まり、膨張すると冷えます。圧縮によって分子が速く動き、運動エネルギーの増大によって温度が上昇するという原理です。(編集部注:ボイル・シャルルの法則ですね!)
室外機で圧縮された冷媒は屋外に熱を放出した後、今度は膨張弁を通ることで急激に膨張して低温になり、室内機に移動して室内の空気から熱を集めます。室内機での熱の取り込みと室外機での熱の放出を繰り返すサイクルにより、冷房運転が行われているのです。
暖房運転も冷房と同じ仕組みを使います。冷媒の流れを反対にし、熱の受け渡しも逆にして室内の空気を温めます。
「圧縮機の性能がエアコンの省エネ性能を大きく左右します。というのも、エアコンの消費電力の約8割を圧縮機が占めているからです。ダイキン工業では圧縮機の開発にこだわり続け、さらなる省エネを目指してきました」(宮崎さん)
圧縮機へのこだわり
1989年のモントリオール議定書により、それまで使用していた冷媒に規制がかかり、代替の冷媒に適応するために圧縮機の構造の見直しに取り組みました。そこで開発されたのが「スイング圧縮機」。ダイキンだけが採用している高効率で効果を発揮する圧縮機です。ほか、数種の圧縮機を用途や容量によって使い分け、小型化や省資源化にも重点を置いて開発に取り組んでいます。
(ダイキン工業株式会社 テクノロジー・イノベーションセンター(TIC)WEBサイト 「差別化の技術が支える、ダイキンの圧縮機」より)
このように、冷媒を圧縮・膨張させて起こる温度変化で熱を移動させる仕組みを、熱を汲み出すポンプになぞらえて「ヒートポンプ」といいます。
「ヒートポンプは投入したエネルギー以上の熱エネルギーを得ることができ、省エネ性に優れた技術なのですよ*」(宮崎さん)
*「1」のエネルギーで「1」の熱(暖房効果)を生み出す電気ストーブに対し、ヒートポンプは「1」のエネルギーでその6倍の空気熱を集め圧縮し、「7」の暖房効果を得ることができる(一般財団法人 ヒートポンプ・蓄熱センター WEBサイト「ヒートポンプとは」より)
ここで、空気の圧力を変えてみる実験を行いました。
「500mlのペットボトルに、自転車用の空気ポンプをつなげたものを用意しました。ペットボトル内の温度は約24℃ですね。どうぞポンプを何回か踏んでみてください」(宮崎さん)
すると、あっという間に28℃まで上昇。
「エアコンの場合、圧縮は室外機にある圧縮機が行い、高い圧力まで圧縮された冷媒の温度は約80℃にもなります。」(※運転条件によります)(宮崎さん)
いよいよ、エアコン分解(室内機)に取り掛かる!
※エアコン内部には鋭利な部品等が内蔵されており、触るとケガや感電の危険性があります!イベントで使用するエアコンはケーブルを切断するなど、安全に十分配慮されたものを使用しています。ご自宅のエアコンについて、定められた範囲以外の部品の取り外し等は絶対に行わないでください。
手を切らないように軍手をして、いよいよエアコンの分解スタートです!
①前面パネルを取り外すと、フィルターが見えてきます。
ポイントはエアコンの真ん中に立って均等の力をかけることだそう。
②ダストボックス(自動お掃除機能で除かれたホコリが集まるパーツ)を外して、フィルター2枚をゆっくりと引き抜きます。ここまでは家庭でのフィルター清掃と同じ手順。
③さて、ここからはプロの領域、ご自宅ではマネしないでくださいね!
フラップ(上下風向調節羽根)を取り外します。
④外枠を取り外すと、エアコンの「中身」が現れました!
⑤室内機のさまざまな制御を行う電装ボックスを外した後、これがエアコンのメインパーツ、アルミ製の熱交換器(冷却フィン)です。フィンの表面積はたたみ7畳分の広さに相当するとのこと!(※エアコンのモデルにより異なります。)
⑥こちらは風を吸い込むと同時に、“たくさん・遠くへ・静かに”送りだす「クロスフローファン」。右端にある小さなモーターがファンを回転させ、部屋の隅々まで空気を飛ばします。パーツ一つ一つに工夫が詰まっています。
⑦分解完了です!多数の部品がとてもコンパクトに収まっていて設計者の苦心と工夫が感じられました。
エアコン分解後は、フーハ大阪内に展示してあるダイキン製品や最新の技術を見学。
そして最後に、室外機の取り扱いの注意点について教えていただきました。
「室外機はみなさんの想像以上に多くの仕事をしています」と宮崎さん。室外機から排出される空気の流れを遮ると熱交換の性能が落ち、消費電力も上がってしまうという、省エネ性能を左右する重要なパーツです。
デリケートな調整を行っているので、かならず水平に設置してくださいとのこと。
「万が一、地震などで室外機が倒れてしまっても自分で立て直そうとせず、速やかにサービスエンジニアを呼んでください。室外機と室内機をつなぐ冷媒配管に負荷がかかり、その時にできた亀裂や穴から冷媒が漏洩する可能性があるからです。小さな亀裂や穴から勢いよく噴き出る冷媒はマイナスの温度になっていることもあり、触れてしまうことで負傷につながることがあります。」(宮崎さん)
ダイキンの技術を体感し、エアコンの「なぜ?」を知るにはフーハ大阪・フーハ東京へ!
── 今日はありがとうございました!毎日使っているのに知らないことばかりで驚きました。
木村:エアコンは日頃使っている割に、そう頻繁に買い替える家電でもなく、なかなか関心が湧きにくいかもしれません。仕組みを知っていただければ節電につながるポイントやその理由が分かり、上手に長く使っていただけるのではないかということも「エアコン分解」を大人向けに開催している理由です。何かひとつでも役立つコツを持ち帰って、より快適に使っていただけたらうれしいです。
── 「フーハ大阪」には、誰でも来てよいのですか?
木村:はい、予約不要でどなたでもお越しいただけます。「詳しい説明をメーカーの方から直接聞きたくて」と、買い替えのタイミングでご相談に来られる方も多いですね。
私たちにとっても、お客様と直接コミュニケーションが取れる貴重な場です。ダイキン工業は空調を専業とした、圧倒的に空気のことを考え抜き、空気の可能性を見つめてきた企業です。今年で創業100年、長い時間をかけ空調技術を磨いてきました。
けれどもその技術力が十分にお客様に伝わっているとは言い難いのが現状です。せっかくなら、エアコンをご購入いただいた方に上手に活用していただいて、ご満足いただきたい。エアコンについて知りたい、もっと上手に活用したいと思われたら、ソリューションプラザ「フーハ大阪」または「フーハ東京」へお気軽にお越しください。「エアコン分解」イベントへのご参加もお待ちしています。一緒に空気博士を目指しましょう!
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リケラボ編集部より
イベント・ショールーム情報
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*イベント内容や参加対象はイベントにより異なりますので、下記イベントページよりご確認ください。
イベントページ
めざせ空気博士!エアコン分解 | ダイキン ソリューションプラザ フーハ | ダイキン工業株式会社
ダイキン工業の会員サイト「CLUB DAIKIN」
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ショールーム「ダイキンソリューションプラザ フーハ」
https://www.ac.daikin.co.jp/fuha
ソリューションプラザ フーハ東京
営業時間 10:00~18:00(入館は17:30まで)
所在地 〒163-0801
東京都新宿区西新宿2-4-1
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休館日 毎週水曜日・年末年始・夏季休業・NSビル休館日(2月第4日曜日、8月第4日曜日)
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ソリューションプラザ フーハ大阪
営業時間 10:00~19:00(入館は18:45まで)
所在地 〒530-0011
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休館日 第2、第4水曜日・年末年始
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