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東京都心から電車ですぐ、木材の集積場として歴史ある街「新木場」。今も木材関係の会社が多く立ち並ぶこの地域が今、ライフサイエンスに携わる人々にとって見逃せないホットなエリアとして、注目を集めています。
その理由は、この地に三井不動産が都心近接型の賃貸ラボ&オフィス事業として、大型の施設を続々オープンさせているから。2021年の「三井リンクラボ新木場1」の完成を皮切りに、現時点で4つの施設が整備される予定です。
この都市開発により、新木場エリアに続々とライフサイエンス分野の大企業やスタートアップやアカデミアなど多彩なプレイヤーが集まりつつあります。今回リケラボ編集部では2023年4月に完成したばかりの「三井リンクラボ新木場2」にお邪魔し、プロジェクトを担当する三井不動産 兼LINK-Jの山本幸宏さんと、施設運営に携わる三井不動産の竹村晴実さんに施設を案内していただきました!(取材日:2023年6月29日)
賃貸ラボに多様なプレイヤーが集まり、オープンイノベーションを創出する時代へ
── 新木場にこのような大型ラボを整備するに至ったのはどのような経緯からでしょうか。
山本 我々が推進しているライフサイエンス・イノベーションのプロジェクトは、10年ほど前に三井不動産の創業の地である東京・日本橋からスタートしました。日本橋といえば江戸時代から薬種問屋が軒を連ね、今も製薬会社の本社や支社が数多く存在する「薬の街」。三井不動産は、その街の地場産業として製薬・ライフサイエンス産業を応援していきたいという考えのもと、産学の有志の方々と共同で2016年にLINK-J(※)というライフサイエンスの団体を設立。日本橋を中心に私たちの得意分野である不動産の部分で会議室やオフィス・シェアラボといった場を提供するなど、ライフサイエンスコミュニティが活性化するためのさまざまな取り組みを続けてきました。こうしたLINK-Jでの活動を通じて蓄積した知見を活かし、さらにライフサイエンスの研究環境を広げ、進化させるために誕生したのが、三井リンクラボです。今回ご紹介する新木場だけでなく、例えば日本橋と並んで日本を代表する薬の街として知られる大阪・道修町など、全国的、さらには海外も含めた事業展開を考えており、既に10件以上のプロジェクトが同時に進行しています。
※LINK-J(リンク-ジェイ)…正式名称は一般社団法人ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン。三井不動産とアカデミアが、ライフサイエンス業界のコミュニティ構築やオープンイノベーション促進等のために設立した団体。2016年設立。特別会員数は2023年6月現在企業・団体・個人を含め661、年間1000件近くのイベントを開催している。
── すごいペースですね。非常に大胆な挑戦とも思えますが、どのような狙いがあるのでしょうか。
山本 これまで日本でのライフサイエンス研究、創薬といった事業は自社で研究施設を持つことが主流でした。各製薬企業がそれぞれ郊外に研究施設を持ち、クローズドな環境で研究を進めていくスタイルです。しかし現在では、アカデミアやスタートアップ企業、医療機関などさまざまなプレイヤーの協業、つまりオープンイノベーションを推進していくほうが、市場のニーズを満たす薬をより早く世に送り出すことができるという考えが世界的に主流となっています。米国ではバイオテック・クラスター都市としてボストンが有名ですね。賃貸ラボやバイオスタートアップ向けのオフィス物件が豊富で、アカデミアや医療機関含めバイオ研究の機能がボストンという街に集約されている。その結果、次々と革新的な薬やビジネスが生まれています。日本でもそうした環境を作っていきたいというところから、このプロジェクトを進めています。
── この度新築オープンした「三井リンクラボ新木場2」(以下新木場2)は、プロジェクトのなかでも特にフラッグシップ物件と位置付けられているそうですが、その特徴を教えてください。
山本 従来の大型賃貸ラボといえば、何もないスペースに入居者が自前で研究環境を構築するところが多かったのですが、新木場2ではこれまでの利用者様の要望を反映する形で、ハード・ソフト両面でサービスをより充実させました。設備等のハード面でいうと、スタートアップ企業向けに一部の設備をあらかじめ備えた小規模な居室や、共同で使える実験器具を置いた共通機器室もあります。研究に使用する消耗品や試薬等をその場で1つ単位から購入することが可能な試薬消耗品販売ストア「LINK-Stock」も、新木場2から実現予定です。
── ソフト面はいかがですか?
竹村 研究者様の研究活動を下支えしていくために、入居者のサポートとなるソフト面でのサービスは欠かせないと考えています。入居者の方々とも日々コミュニケーションをさせていただいて、フィードバックをもらっています。私は理系出身ではないですが、「こういうかゆいところに手が届くサービスがあるといいのかな」と、常々考えているような日々ですね。
── 具体的にどんなサービスがありますか?
竹村 代表的なものはサイエンスコンシェルジュの設置です。我々のライフサイエンス部には、製薬企業出身の研究経験の豊富な経歴を持つサイエンティストが何人も在籍しています。こうした方々の経験や知見を活かし、研究に関するお困りごとに応えるいわばよろず相談所といったサービスです。
その他にも、器具洗浄や実験サンプル配送代行のサービスがあったらどうか、他にも入居テナントの方々の研究活動に資する勉強会や講習会を企画する等、目下さまざまなサービスを検討しています。常に入居者様の声に耳を傾け、必要にあわせた新しいサービスを提供していきたいと思っています。
山本 私たち不動産のプロが「場」を整備することで、育成支援としてのピッチコンテストやキャリアフォーラムなどのイベントの開催、コミュニティの構築といったものもより発展していくと考えています。
いざ内部へ!コンビニにカフェテリアまで多様なニーズに応える施設がズラリ
それではいよいよ、館内ツアーに出発です!
新木場2は、東京都内でも最大規模の賃貸型ウェットラボ。まず1階には、入居エリアだけでなく、共用施設が集まっています。
エントランスを入ると、しゃれた家具が置かれ、軽い打ち合わせができるスペースが目に入りますが、研究施設というより、都心のオフィスビルのようです。また、新木場という場所柄から、館内全体に木がふんだんに使われているのもこだわりとのこと。
エントランスをまっすぐ奥へと進んでいくと、24時間警備体制の防災センターや、無人コンビニ、LINK-Stock(ともに2023年秋オープン予定)が併設されています。消耗品が1点から購入できるのは本当に助かりますよね。まさに「かゆいところに手が届く」のきめ細やかさです。
1階通路を奥まで抜けると、開放感抜群の海が見えるカフェテリアです。
ランチタイムには日替わりでメニューが提供されていますが、実験に熱中してお昼時間を逃しても大丈夫!カフェタイムもサンドイッチ等の軽食がいただけます。LINK-J会員専用のラウンジも用意されています。
カフェテリアの海側の並びにあるのが、コネクティングして大空間にもできる大小の会議室エリア。つなげると100名ほどの会議も可能で、こちらも元貯木場に面して視界がひらけた、明るい空間です。この階だけでなくフロアごとに会議室があるのもうれしいポイントです。
ユーザーニーズに合わせ、サイズや設備の異なる複数のラボを用意
さて、いよいよ肝心のラボゾーンへと進みます。
ラボはBSL2対応のウェットラボ。最小73㎡から、ワンフロアあたりでは最大4,000㎡まで、必要に応じたサイズで借りることができます。
こちらは用途や規模に応じて、壁で仕切り、自由なレイアウトで使える大型フロアです。立ち並ぶ柱と柱の間のスペースが一区画の目安。大きな窓の外は設備バルコニーになっていて、一区画ごとに直接給排水・給排気などの配管が通っています。
ベンチャーやスタートアップ向けの小型のラボ(73〜99㎡)。デスクワークゾーンと実験ゾーンには最初から仕切りが設けられて、コンセントも十分な数を設置。こちらももちろん、設備バルコニーつきです。奥に見えるのは流し台です。局所排気ダクトもあらかじめ設置されています。
共通機器室です。セルアナライザーやリアルタイムPCR等の高価な機器を、入居者は共同で使えます。こちらもユーザーの声から生まれた設備で、入居の決め手にされる方も多いそう。
景観・清潔感・程よいサイズ感、環境も魅力的な“新木場2”
こうしてみると、新木場2はどのスペースも明るく開放感にあふれていて、研究やディスカッションがはかどりそうな環境が細部にわたり整えられています。古い研究室出身の取材陣の一人は「とにかく気分が上がる環境!」と連呼していました。
海側の2〜4階にある共用会議室は、大きな窓から景色を一望!またその手前にはちょっと休憩できるハイチェアやテーブルを置いたコーナーも。議論が行き詰まったとき、景色を見て気分転換するのにぴったりです。
部屋番号が大きく扉に書かれた、近未来的な通路。各階の廊下にある緊急洗い流し用のシャワーも多めに設置されています。中心部にエレベーターや階段、トイレ等があり、どの部屋からでも適度な距離で共用ゾーンに移動できる無駄のないレイアウトも、ストレスがありません。
屋上です。芝生コーナーとベンチと空中に迫り出した展望スペースがあり、こちらも景観は抜群。道路側は塀で目隠しされていて、プライベート感もあります。とても気持ちのいい空間です!
これで新木場2のツアーは終了です。最後にリケラボ編集部的な感動ポイントをあえて3つにまとめると…
・施設が綺麗で清潔感抜群!
・景観がいい!
・通路も敷地も広さがちょうどいい!
3点目の広さについては、都市型らしいほどよくコンパクトな規模感ゆえに、移動に時間がかかりすぎない点をメリットだと捉えました。大学など大きな研究施設だと、施設内を移動するのも一苦労・・・ですが、ここではちょっとした買い物に、息抜きに、ラボから出て歩いてみようという気持ちになれる距離内に設備が集約されているので、研究者どうしの交流も生まれやすいと感じました。
現在各入居部屋の工事も着々と進んでおり、今後さらに研究者が多数行き交うにぎわいある場所になることが、今からとても楽しみです!
場やコミュニティづくりからライフサイエンス業界を支え、街づくりにも貢献
── 最後に、今回ご案内いただいたお2人にプロジェクトにおけるやりがいや想い、伝えたいことをお聞きしました。
山本 研究者の方とお話しすると皆さんすごく前向きで、常に未来に向けてどうするかというお仕事をされていることに感銘を受けます。でも同時に課題もたくさん抱えていらっしゃいます。それはベンチャーも大企業もアカデミアも変わりません。やるべきことがたくさんありすぎるなかで、研究者の方はより研究に集中していただきたい。そのために必要な不動産や「場」の提供という部分については私たち三井不動産や、LINK-Jのコミュニティリソースでサポートしたい。その挑戦にとてもやりがいを感じています。
竹村 私はもともと、街づくりをしたいという想いを持って三井不動産に転職してきました。これから新木場を企業やスタートアップ、アカデミアの方々がリンクラボを中心に集まって研究が盛り上がる活気ある街にしたいと思っています。関わる社員一同とても前向きな空気で日々の仕事を進めていますが、一方で新しい試みのため未知の部分もたくさんあります。トライ・アンド・エラーでいろいろ試しながらライフサイエンス研究の発展に貢献出来たら、と思っています。
山本 不動産とライフサイエンスは、全く畑違いのようですがひとつ共通する点もあると思っています。それはタイムスパン。例えば創薬にしても1つのプロジェクトに10年、20年かかるものですが、不動産も同じで、10年20年先の未来を描き形にする仕事です。もともとLINK-Jはベンチャー的なスピリットで立ち上げて活動してきました。これからもその気持ちを忘れることなく、新たに街づくりという事業を通じて、研究者の皆さんの声と共に未来を創造していきたいと考えています。
三井リンクラボ
https://www.mitsui-linklab.jp
掲載写真:リケラボ編集部撮影
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