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千・万・億・那由他!巨大な数の模様に触れよう 子どもにおすすめの理系センスを磨く図形ワーク②【数と図形のセンスを磨く編】| リケラボ

子どもにおすすめの理系センスを磨く図形ワーク②【数と図形のセンスを磨く編】

千・万・億・那由他!巨大な数の模様に触れよう

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はじめに

この記事を執筆します荒木義明です。敷きつめ模様(テセレーション)の数理を研究する数学者です。数学の研究で見つかる面白い形や模様の楽しさを多くの人に伝えようと、全国の科学館や小学校などで展示やワークショップを行っています。

この記事は、主に未就学児から小学生までのお子さんを対象とした敷きつめ図形を使った楽しいワークをご紹介しています。前回は「準備のいらないおうち遊び編」として、T3パズルのwebアプリの基本操作について遊びのヒントを交えてご紹介しました。

今回もT3パズルを利用して、より踏み込んで理系のセンスを磨く話題をお届けします。T3パズルとは下図のように上下を二色に塗り分け正三角形の1種類のピースを並べるパズルです。左と右に二つのピースがありますが、これらは同じピースを表面と裏面でそれぞれ置いたものです。左の表面は上が白色、下が緑色です。一方、右の裏面は上が緑色、下が白色です。

このT3パズルはwebアプリとして無料で利用することができます(www.t3puzzle.com/b)。webアプリの利用方法の詳細や、紙版のT3パズルの入手方法については、前回の記事をご参照ください。

数と図形

さて未就学児のお子さんは、日常の様々な場面で数と向き合っていることでしょう。遊んだ友達の人数、作った泥団子の個数、漕いだブランコの回数、家までの帰り道の歩数など、場合によっては100を超える数を扱うこともあるかもしれません。

このような場面では、数字を使う必要も計算する必要もなく、数を1ずつ増やしていけばこと足ります。初めのうちは、どこまで数えたか忘れたり、19から20や、99から100への切りかわりに混乱するでしょうが、いずれ慣れてしまうでしょう。

お子さんはそのうち、100を超える大きな数があり、それに名前がついていることを知る時がきます。もし、100の次は何?その次は何?とお子さんから質問攻めにあったら、それは理系センスを磨くチャンスの到来です。

今回はT3パズルを並べることで、そんな大きな数に出会えるワークをご紹介します。日常生活では出会いづらい、大きな単位で一度に数が増える体験をT3パズルで実感しましょう。

お子さまへのヒント①:2ピースで沢山の柄のダイヤを作ろう!

T3パズルを2ピース使いピッタリつなげると、下図のような上下に尖った輪郭の図形が出来ます。この図形には、いくつか身近な名前がついています。3月にひな祭りをお祝いしたお子さんには、菱餅を例に「菱形」という名前がわかりやすいでしょう。またトランプ遊びを始めたお子さんには「ダイヤ」という名前がしっくりくるでしょう。今回は、この図形をダイヤと呼ぶことにします。

実際に2ピースを並べるとわかりますが、上図は2ピースでできるダイヤの一例にすぎません。お子さんに「いろんな柄のダイヤを作ろう」と声がけしてみてください。もし手が止まってしまうようであれば、「4個の違うダイヤを作ろう」と具体的な目標を伝えるのもよいでしょう。

次図はワークショップでよくみかける4個のダイヤの作例です。柄の違うダイヤを作ろうとした形跡を見つけたら、お子さんをたっぷり褒めてあげてください。この例では、隣り合うどうしで比べれば、柄の違うダイヤが並んでいます。

もし同じ柄のダイヤが含まれるなら、お子さんと一緒にダイヤを見直してみましょう。遠くから画面を眺めたり、画面の向きを変えたりしながら、「同じダイヤはないかな」と声がけしてみてください。上図の例では、両端のダイヤが同じものです。左から「緑・緑」、「白・白」、「白・緑」、「緑・緑!」と指さしながら、ダイヤの色の組み合わせを声に出して確認するのもよいでしょう。

次図の4つのダイヤは、どれも回転したピースを含む作例です。T3パズルの形状は正三角形ですから、ピースを左右に1/3回転して置き直しても、ダイヤの輪郭自体は変わりません。このように回転して置き直すだけで、新しいダイヤを作れるのです。

この1/3回転したピースを含むダイヤを一つでも見つけたら、「このダイヤ素敵!こんなダイヤは他にどれだけ作れるかな?」と声がけしてみてください。T3パズルのワークショップでは、この1/3回転したピースを含むダイヤに気づいたことがキッカケで、どんどんダイヤを作り始める子供たちが多くいます。

このダイヤの製造の秘訣に気づくと数十分経過しても集中が途切れず作業が続く場合があります。作ったダイヤの数が増えると、ダイヤどうしと比較するのも煩雑になります。そのうち子供たちは、異なる柄のダイヤが一体何個あるのか、もやもやとし始めるようです。

次図の写真は、科学館でのワークショップの一風景です。左の帽子を被った小学生が「ダイヤを全部作った!」という声をあげたのを聞いて、周りの子供たちが集まってきた様子を写したものです。

次図は、上の写真のダイヤの並びをwebアプリで再現したものです。この図には縦6行、横6列に36個のダイヤが並べられています。勘のよい方は、このダイヤの配置により、異なる柄のダイヤを網羅していることに気づいたでしょう。

例えば初めの1行を確認すると、ダイヤの上側のピースはすべて同じ向きで、ダイヤの下側のピースは互いにどれも異なる向きです。このピースの並びの規則は他の行でも同じことが成り立ちます。

一方で、今度は列に着目して、初めの一列を確認すると、ダイヤの上側のピースは互いにどれも異なる向きで、ダイヤの下側のピースはすべて同じ向きです。このピースの並びの規則は他の列でも同じことが成り立ちます。

正三角形であるT3パズルは輪郭を変えずに置くやり方が6通りあります。ダイヤの上側のピースの置き方が6通り、ダイヤの下側のピースが6通りなので、異なるダイヤの数は、6×6つまり6の2乗=36個となります。

お子さまへのヒント②:6ピースで沢山の柄の正六角形を作ろう!

T3パズルを6ピースつなげると、下のような正六角形の輪郭の図形が出来ます。この正六角形もワークショップでよく見かけるもので、「朝顔が出来た」という声をよく聞きます。T3パズルを自由に触って遊ぶ場合には、ピース数の少ないダイヤよりも対称性の高い朝顔が作りやすいというお子さんもいます。

次はお子さんに「こんな形をいろいろ作ろう」と、上図の六角形を提示した上で、声がけしてみてください。この整った対称的な図形を作るのに、正六角形という名前は必要ないのです。

2ピースだけでも36種類のダイヤができるので、正六角形はさらに多くの柄ができることはお分かりでしょう。そこで小学生以上のお子さんには「こんな形なら全部でどれだけ作れるかな?」と、声がけしてみるのもいいでしょう。漠然と聞いても答えるのは難しいので選択肢を提示します。選択肢は①約100種類 ②約1,000種類 ③約10,000種類 ④それ以上、としましょう。

勘のよい方は、この答えが6×6×6×6×6×6つまり6の6乗=46,656個であることがわかるでしょう。小学生向けのワークショップでもこの組み合わせに気づき筆算や電卓を持ち出して計算するお子さんがいます。実際にこの大きな数を伝えて、興味を示すようなら、電卓を一緒に触って楽しむのもいいでしょう。

この大きな数に実感がわかないお子さんには、より身近な事象に当てはめて伝えてみましょう。例えば、「何日あれば、この形を全部作れるかな?」と声がけしてみましょう。1個の正六角形を作るのに10秒かかるとすると、(46,656個×10秒)/(24時間×60分×60秒) = 5.4日と計算できます。つまり、休みなく飲まず食わず間違えずにT3パズルを並べると約5日半で、全部の正六角形が作れるのです。

それでも数だけでは実感の湧かない場合は、実際にたくさん正六角形を作ってみることも大切です。先日の小学1年生向けのワークショップでは、ユニークな方法で正六角形を増産するお子さんがいました。下の写真がその増産現場で、写真の左側には材料となるダイヤが、右側には出来上がった正六角形が置いてあります。つまり、この小学1年生は、3つの菱形を組み合わせることで効率的に正六角形を作る方法を発見したのです。この方法では、でき上がる正六角形も毎回異なる柄が現れやすいので、正六角形の柄の多さを実感しやすいでしょう。

お子さまへのヒント③:たくさんのピースで名前も無い図形を描こう

もっとピースを増やした場合には、どんな図形が作れるでしょうか。「たくさん使って大きな形を作ろう」と声がけしてみてください。この声がけで、迷わずT3パズルを並べ始めるお子さんは一定数います。じっと見守って何が出来上がるか一緒に作った気持ちになって想像するのも楽しいでしょう。

何を作っていいかお子さんが戸惑うようであれば、「大きな三角形を作ろう」と具体的な目標を提示するのもいいでしょう。ただし、多くの子供たちはこの声がけを聞いて、どこまでも大きな三角形を作り始めます。子供たちが熱中するあまり、ピースの数もワークショップの持ち時間も足りなくなります。このため、この声がけはワークショプで使うことを禁じ手にしているほどです。

このワークでできた「名も無い図形」や「大きな三角形」には何ピースを使ったでしょうか?ピースが増えるほど、同じ輪郭の図形の異なる柄の数も当然多くなります。

一般にnピースのT3パズルを使って図形を描く場合、6をn回掛けた数、つまり6のn乗分だけ異なる柄がありえます。例えばT3パズルの製品版は1セットで78ピースありますが、その全ピースを使って図形を作った場合には、異なる柄は6の78乗 = 約5×10の60乗個になります。この数には約5那由他(なゆた)という呼び方があります。無量大数という数をお子さんがご存じなら、それよりちょっと少ない数であることを教えてあげてください。

さてT3パズルを通して大きな数を体感していただけたでしょうか?お子さんの手の中におさまる小さなピースに見尽くすことのできない柄の可能性が隠れているのです。

たくさんの枚数で作ればほとんど世界に一つだけのオリジナルな作品だと言っても過言でないでしょう。ワークを通してできた作品には、ぜひ素敵な名前をつけてあげてください。

T3初夢コンテスト作品募集のお知らせ

素敵な名前のついた皆さんの作品を開催中のコンテストにご応募いただけます。

■応募作品について:
・T3パズルを使った作品なら何でもOKです。

■日程:
・エントリー開始:10月5日 (木)
・副賞情報を公開:12月9日 (土) 予定
・募集締切:1月9日 (火) 24:00 (団体応募は別途)
・入賞発表:1月31日 (水) 弊協会HPにて発表予定

詳しくはコンテストサイトをご覧ください (www.t3puzzle.com/contest) 。

たくさんのご応募お待ちしております!

荒木義明

荒木義明

1973年生。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。博士(政策・メディア)。専門は敷きつめ模様(テセレーション)の数理。1998年に日本テセレーションデザイン協会を設立し、国内外の教育機関と連携し敷きつめ模様に関する展示、ワークショップを企画運営。2003年〜2006年東京大学数理科学研究科客員助教授。著書『M.C.エッシャーと楽しむ算数・数学パズル』明治図書(2022)。
https://www.tessellation.jp/

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