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科学を愛する読者のみなさま、ごきげんよう。くられです。
使える予算は1万円以内。「高価な実験機器は使えない」という制約のなかで知恵と工夫を凝らして実行可能なおもしろ実験を紹介する本企画。第5目の今回お題は着火の科学です。
地震や、巨大台風、または遭難といった、極限環境で生き残るには何が必要でしょうか?
まずは身の安全、シェルターの確保、そして食料調達など・・・。
当然状況に応じてもいろいろなものがあるのですが、その中でも特に重要なものが火です。極限環境では、たき火ができるかどうかで生存率が大きく変わってきます。
火があれば森の中で遭難しても大型の捕食者に狙われにくくなりますし、火を通せば大抵の生き物を食料にすることもできます。汚水だって火を使って蒸留すれば大抵の水は飲めるモノにできます。
今回はそうした不測の状況下でも知っておくと役に立つ「火を起こす」方法と、その仕組みを科学的に見直すことによって、サバイバル力とリテラシーを鍛えていきましょう。
炎ってなんでしょう?
まず唐突な質問ですが、炎とはなんでしょうか?
物質の状態としては何に該当するのでしょうか?
炎は固体でも液体でも気体でも無い、プラズマの一種で、電離した原子の状態です。電離しているので電気を流す性質があり、実際に電気に炎は引き寄せられます。
こちらの写真は、テスラコイルという雷を発生させる装置の上で、ホウ酸を溶かしたアルコールの皿で燃焼を行い、そこから放電が出るかどうかを確認したものです。
実際に緑の炎から緑色のイナズマが観測できました。見ての通り、炎は電気を流すわけです。
炎というのは、高温状態になった物体が高速で酸化していくなか凄まじい反応熱によって電離状態にまでなるという状態です。大半の有機物には発火点というものがあり、発火点を超えると自然着火したり、燃えやすくなったりします。天ぷら火災なんかが火元がないIHヒーターでも起きてしまうことからもわかるとおり、有機物は特定の温度になると、酸素と反応しやすくなって燃焼するわけです。そのときに高温のエネルギーが発生するので、他の元素があると、それらがその熱で励起して、炎色反応を見ることができる・・・みたいな感じですね。
炎を産み出す方法
炎をつけるには・・・。マッチかライター。これで現代のほぼ全ての問題は解決します。ですが、どうしてサバイバル作品やサバイバルドキュメンタリーなんかでは、わざわざ錐もみして火を起こしたり、面倒くさい方法で火をつけているのでしょうか?
実はコレ、ちゃんと理由がありまして、災害時にマッチとライターは意外なほど戦力にならないことが多いからです。マッチは濡れるともうおしまいですし、ライターも濡れや汚れに思いのほか弱いモノです。どちらも泥水一発被るだけで戦闘不能なので、サバイバル環境下ではかえってちょっと面倒な火起こしアイテムといえるわけです。
火を起こすというのは先の科学から考えて、まずは物質を発火点に到達させて小さな火口をつくりそれを少しずつ大きくできれば、山火事がポイ捨てタバコから始まるように、炎というのは指数関数的にエネルギーが大きくなるので、あとはそれをうまくコントロールするのみ。ここが火を科学する上で重要な点です。
基本にして一番難しい、メタルマッチの使い方
メタルマッチは、キャンプ用品店などで売られている火を起こすための道具で、フェロセリウムの棒とヤスリのようなものがセットになっているものです。モノによってはマグネシウム合金がセットになっており、もっと簡単に火をおこせるというものもあります。
フェロセリウムは固いモノでこすると火花が出やすい性質があり、この火花をマグネシウムの削りくずに着火させれば、いきなり千度以上の高温が発生するため、多少湿気ている藁や枝であっても十分、たき火を開始できる・・・というものです。
フェロセリウムだけのメタルマッチも多いですが、こちらは火打ち石と同じくらい火をつけるのは大変です。
ちなみに火打ち石というのは石と石でカチカチやって火花がでるのではなく、炭素をおおく含む炭素鋼が固いモノにあたって火花が飛んでいるだけです。故に、ヤスリやハンマーなどでも原理的には火を起こすことは可能で、火花が多いか少ないかの差でしかありません。
とはいえ、フェロセリウムはナイフやノコギリの背でいっきにこすると凄い量の火花が出るので、ガマの穂や乾いた木くずなどに簡単に着火でき、種火とすることができ
電池で火をつける
着火具がなくても、火はつけることができます。
一時期twitterなどで有名になった、ガムの包み紙と単三電池で火をつけるという方法。ガムの包み紙は導電体の金属が薄く蒸着されている紙なので、細くして電気を流せば発火します。
しかし、手でちぎってやるのは実はかなり大変で、電池も新品でなければ着火が難しいので、実際のところ簡単にできる方法とはいいがたいです。
単三電池ではなく9V電池であれば話はかわってきます。9V電池は、中に小さな電池がたくさん詰まっており、それを直列にして9Vという電圧を作っています。これだけの電圧があると、細い電線などを赤熱させることが可能で、細い針金や、スチールウールに9V電池を押しつけて火だねを作ることができます。
また、ボタン電池は金属リチウムが含まれているので、少しだけ濡らした紙でくるんでハンマーなどで叩き壊すと発火します(・・・が、爆発の恐れもあるのでオススメしません)。リチウムポリマー電池は、もはや事故のイメージのほうが印象的なように、高エネルギーの大電流が中に化学エネルギーとして閉じ込められているので、酸素が入り込むと速やかに大炎上を起こします。痛んだバッテリーが膨らむのは中でガスが発生しているからで、容器が破れると火災の原因にもなるものです。こちらは興味本位で実験すると大事故に繋がりかねないので、絶対に止めましょう。
薬品で火をつける
液体同士を混ぜるだけでも発火します。
これは混合危険反応といったものや、強い酸に金属などが反応すると高い温度が発生するので、それがまわりの溶媒などの発火温度に達すれば当然、火はつきます。
また、意外なものが自然発火することもあります。
湿度の高い日本ではあまり起きないのですが、植物油などを拭いた布やティッシュをそのまま置いておくだけで発火することがあります。要するに何の火だねもないゴミ箱の中で油が自然発火するという現象です。
その中でも特に発火しやすい油がアマニ油で、他にも桐油、大豆油などの乾性油の類いは、布やティッシュで拭いたものを置いておくだけで、酸素と反応しどんどん酸化熱を貯めていき、発火の温度に達します。ゴミ箱の中は輻射熱が籠もりやすいので当然温度も上がりやすい・・・というわけで、油をふいたあとは、かならず水をしみこませてから捨てるようにしてください。
またアロマテラピーなどにもこれらの油はよく使われ、それらを拭いたタオルをドラム型洗濯機で乾燥までしていたら、落とし切れてない油が酸化し発火温度に到達、洗濯機の中で火災発生なんて事件も実際に起きています(参考:「洗濯物が発火!!」いわき市消防本部)。
以上、今回は色々な方法を一気にご紹介したので予算の内訳は割愛しますが、いずれも身近なものでできる火起こしについて考察してみました。
このように、「火」というものも、その原理原則、どこから由来しているのか・・・を考えることで、事故を未然に防いだり、サバイバルで生き残れたりするわけです。まさに知識こそ最大の武器、ということですね。
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