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科学を愛する読者のみなさま、ごきげんよう。くられです。
使える予算は1万円以内。「高価な実験機器は使えない」という制約のなかで知恵と工夫を凝らして実行可能なおもしろ実験を紹介する本企画。
第32回目のお題は「発光細菌」です。今回も、私が主宰する秘密結社「薬理凶室」のメンバーであり化学に造詣の深いレイユール氏の協力のもと、お届けします。それではお楽しみください!
皆さんこんにちは。レイユールです。
今回は、暗闇で光を発する微生物を培養してみようと思います。発光細菌はホタルに代表される発光生物の中で最も小さい生物ですが、その光は肉眼で見えるほどになります。
イカの発光細菌
よく食卓に並ぶ海産物としてイカがあります。イカは軟体動物で刺身や煮付けにしてよく召し上がる人も多いかと思います。しかし、イカの表面に光を出す微生物が住み着いているのはあまり知られていないようです。今回はそんな発光細菌をご家庭にある道具と材料だけで純粋培養し、実際に光らせてみましょう。今回の記事は性質上、イカの内臓やバクテリアの写真がありますので、苦手な方はご注意ください。
光る生き物と発光細菌
発光する生物はみなさんどのくらいご存知でしょうか。有名なものとしてはホタルや海辺で大量発生することのあるヤコウチュウなどでしょうか。そのほか、ヤコウタケやツキヨタケなどの光るキノコや光るヒトデ(正確にはクモヒトデ)、光るミミズなどもいます。
それに対して、今回扱うのは細菌。細菌(バクテリア)は非常に小さく一つ一つを肉眼で観察することはできません。1000倍以上の高倍率な顕微鏡でようやく姿を見ることができます。しかしながら、非常に早い速度で繁殖し、実に数千万、数億、数兆と途方もない数まで爆発的に増えるため、それらの集合体はコロニーという形で見ることができるのです。今回培養する発光細菌も途方もない数の細菌が集まって形成したコロニーが光って見えるのです。
培養開始!
では、イカの発光細菌を実際に培養してみましょう。まずは新鮮なイカを入手しなくてはなりません。スーパーマーケットや鮮魚店などで一度も冷凍されていない生イカ(刺身として食べられるもの)を入手してください。種類は問いませんが、ヤリイカとスルメイカを使うのが一般的です。特にヤリイカはスルメイカよりもより強く発光する場合が多いですが、入手時期が限られます。実験は涼しい場所が必要なため、ヤリイカの流通する2月〜4月ごろに実施すると良いでしょう。クーラーなどの設備があれば夏や秋に流通するスルメイカを使っての実験も可能です。ではまずは集積培養という最初のステップを行います。
1.人工海水を作る
水道水1リットルに人工海水を規定量(大部分の製品はは33〜34g)溶かします。
2.イカの下処理
イカの表面「外套膜」にはできるだけ触れないようにして、腹を切って頭と内臓を抜き取ります。この際に水洗いなどはしないように注意してください。
3.集積培養
イカが収まる大きさのプラスチックトレー(金属は不適)にイカを表向きに配置します。ここに人工海水を流し込み、イカの1/3が浸かるようにします。乾燥を防ぐためにラップなどをかけて15〜20℃の室内に24時間放置します。
集積培養というのは目的とする細菌が他の細菌よりも繁殖しやすい環境を整え、優先的に増えるようにして、個体数を増加させる培養方法です。これにより発光細菌が表面に増えていきます。これは腐敗のプロセスでもあるため、とても生臭い匂いが発生します。できるだけ密閉し、換気に十分に注意をしてください。
24時間〜48時間が経過すると徐々に表面が光り出してくるはずです。水が多過ぎて水没してしまったり、温度が高くなりすぎると失敗してしまいます。必ず成功させたい場合には複数の条件で仕込むと良いでしょう。
複数条件仕込む場合には、イカ一杯を全て使うのではなく、切片を作って、ガーゼを被せて人工海水を注ぐことでも集積培養ができます。
では、ここから発光細菌の純粋培養に取り掛かっていきましょう。現在は様々な細菌の中に目的の発光細菌が混ざっている状態ですが、このイカから、発光細菌だけを取り出して、培養を行っていきます。
1.培地を作る
イカ切り身(培養に用いたものと同種のイカ)約40gに人工海水200mlを加えて15分煮込み、残り2分になったところで、粉寒天1.6gを溶かす。
2.培地を固める
寒天を加えた培地を熱いうちにガーゼで濾過して、シャーレなどに注いで固めておく。
イカの身に含まれる、発光細菌が生育するのに必要な栄養素がたっぷり含まれています。
3.白金耳を作る
0.2mm程度のニクロム線を丸めてループを作り、これを割り箸などに固定して簡易的な白金耳とする。
4.塗抹
培地温度が25℃以下であることを確認したら、イカの発光部位を白金耳で掬って培地に塗り広げる。
5.培養
15−20℃で24−48時間培養する。
以上の実験で発光する細菌を純粋培養することに成功しました。塗抹の方法を少し工夫すれば文字を書いたりすることもできます。
実験にかかった費用
・イカ 2,000円程度
・人工海水 2,000円程度
・粉寒天 500円程度
・プラスチックトレー 500円程度
・シャーレ 1,000円程度
・ニクロム線 500円程度
・ガーゼ 500円程度
・割り箸 100円程度
掲載写真,図全てレイユール氏提供
レイユール 薬理凶室のYouTubeチャンネルでは、化学実験をコミカルな動画で紹介する「ガチ実験シリーズ」を不定期更新している。 |
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