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科学を愛する読者のみなさま、ごきげんよう。くられです。
使える予算は1万円以内。「高価な実験機器は使えない」という制約のなかで知恵と工夫を凝らして実行可能なおもしろ実験を紹介する本企画。
第31回目のお題は「形状記憶合金」です。今回も、私が主宰する秘密結社「薬理凶室」のメンバーであり化学に造詣の深いレイユール氏の協力のもと、お届けします。それではお楽しみください!
皆さんこんにちは。レイユールです。
今回は、形を記憶できる面白い性質を持つ合金について実験をしていきましょう。形状記憶合金は、形状記憶と超弾性という二つの面白い性質を持っています。それでは早速解説をしていきたいと思います。
形状記憶合金とは
形状記憶合金とは、その名の通り形状を記憶することのできる合金です。形状記憶というと、例えばシワにならないYシャツのような型崩れしないものをイメージすると思います。形状記憶合金とは、これの金属版です。このように形状を記憶することのできる性質を「形状記憶特性」や「形状記憶効果」といいます。Yシャツなどとは違い、形状記憶合金は温度変化によって記憶した形へと戻ります。
形状記憶合金を元の形に戻す実験!
それでは、早速ではありますがまずは形状記憶特性について実験を行ってみましょう。あらかじめ形状を覚え込ませた形状記憶合金は教材としてネットショップなどで購入することができます。針金の先端で手を切らないように注意しながら実験を行ってください。
1 常温での変形
今回はクローバーの形を記憶した形状記憶合金を用意しました。これをこんなふうに別の形へと変えてしまいます。
2 形状の復元
では次に、お湯にこれを入れて約70℃ほどに加熱してみましょう。すると元の形へと戻ります。
このように、形状記憶合金は違う形へと変形させても加熱することで元の形に戻すことができます。注意事項としては、形状記憶合金にも限界があり、結晶構造の1割を超えるような極端な変形には耐えられず、熱しても元の形に戻らなくなってしまいます。鋭角に曲げたりなど一部に大きな負荷のかかる方法で曲げるのは避けましょう。また、直火や熱風で変形させる場合には温度が高くなりすぎないように注意しないと形状を忘れてしまうことがあります。
形状記憶の原理
では、形状記憶合金について解説していきましょう。初期の形状記憶合金は貴金属である金や銀とカドミウムとの合金でしたが、現在は特殊な用途を除いてほとんどがニッケルとチタンの合金です。扱いやすく形状記憶特性が高いなどの利点があります。現在はさらに安価な鉄系形状記憶合金も開発されていますが、市場に流通する大部分がこのニッケルチタン合金です。
では、肝心の形状記憶の仕組みを解説しましょう。形状記憶合金にはマルテンサイトとオーステナイトという2種類の構造があります。
水が、氷→水→水蒸気と変わるように、金属も温度によって性質が変わります。金属の原子の並び方が変わる温度を「変態点」といいますが、温度が変態点より低いときは原子が柔らかい並び方(マルテンサイト)となり、外からの力で形を変えても原子のつながりが切れません。一方、温度が高いときはオーステナイトという状態になり原子の並び方は固くなります。
変態点は、金属の種類によって異なりますが、形状記憶合金は、この2種類の構造を比較的低い温度で行き来することができるのです。
通常、金属は金属原子同士が結合して形を保っています。これを曲げることで、一旦金属同士の結合が切れ、より近い別の原子と再結合しながら変形していきます。しかし、形状記憶合金はマルテンサイトの状態で変形させると、この結合を離さず、原子の位置をずらしながら変形します。これを加熱してオーステナイトに変化させると、原子を元の位置に戻そうとする力が働き、形状を復元することができるのです。逆に、形状を覚え込ませたい時には合金を目的の形で強く固定し、そのまま加熱することで、オーテステナイトの時の形を記憶させます。これを冷却してマルテンサイトにすると形状記憶が完了します。実際には熱処理の微妙な条件で、形状を復元する温度などが変化するため、形状の覚え込ませはなかなか家庭で行うことはできません。
形状記憶合金の力
では次に、形状記憶合金が形状復帰の際にどのくらいの力を発揮するのか見てみましょう。バネ状の形状記憶合金を用意しました。
これを引き伸ばし、重りを取り付けて温風で慎重に熱してみます。
すると重りを持ち上げながら元の形へと戻ります。これは重りの重さよりも形状記憶合金が元の形状に戻ろうとする力の方が強いためです。
このような性質を利用し、人工筋肉のような働きとして利用する試みも行われています。
超弾性合金
ここまで、形状記憶合金の持つ形状記憶特性について実験してきました。ここからはあまり知られていない「超弾性」という性質について実験してみましょう。
超弾性というのは金属でありながらゴムのような性質も持つことです。形状記憶合金は熱処理の違いにより超弾性合金となります。オーステナイト状態の合金を曲げようとすると瞬間的にマルテンサイトへと変化し、力を取り除くと直ちに安定なオーステナイトへと戻ります。このような変化から常に形を元に戻そうとする力が働き、まるでゴムのように変形しにくい特性を示すのです。オーステナイトとマルテンサイトを行き来しない通常の金属ではありえないほどの弾性を持つことからこのような性質を特別に超弾性と呼んでいます。
それでは、実際にその超弾性を見てみましょう。形状記憶合金は常温でマルテンサイトですが、常温よりも低い温度でオーステナイトになるように合金の配合や熱処理温度を調整したものを用意します。これを手で折り曲げてみます。同様に適当な金属の針金(ピアノ線などの焼きの入った金属以外。今回は銅)を同様に折り曲げてみます。
銅の針金はもちろん、そのままの形で留まり、折れ曲がりました。それに対し、超弾性合金は完全に元の形に戻ります。これも形状記憶と同様、過度な折り曲げには耐えられませんが驚くほど高い弾性を示すので、実際に手で触って確かめて欲しいと思います。
このような性質から、歯の矯正器具や女性用下着のガイドワイヤー、メガネフレームなど変形しては困る部分の材料によく用いられているのです。身近なところに使われているので、ぜひ探してみてください。
実験にかかった費用
・形状記憶合金クローバー 3,000円程度
・形状記憶合金バネ 5,000円程度
・超弾性合金 2,000円程度
掲載写真,図全てレイユール氏提供
レイユール 薬理凶室のYouTubeチャンネルでは、化学実験をコミカルな動画で紹介する「ガチ実験シリーズ」を不定期更新している。 |
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