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科学を愛する読者のみなさま、ごきげんよう。くられです。
使える予算は1万円以内。「高価な実験機器は使えない」という制約のなかで知恵と工夫を凝らして実行可能なおもしろ実験を紹介する本企画。
第30回目のお題は「サーモクロミズム」です。今回も、私が主宰する秘密結社「薬理凶室」のメンバーであり化学に造詣の深いレイユール氏の協力のもと、お届けします。それではお楽しみください!
皆さんこんにちは。レイユールです。
今回は、温度で色の変化する物質について実験を行ってみましょう。温度と色には実は深い関わりがあるのです。今回はそんな不思議な関係に迫ってみましょう。
温度と色
皆さんは「サーモクロミズム」という現象をご存知でしょうか。サーモは熱、クロミズムは物質の光物性が外部刺激によって変化する現象のことです。つまり、熱の刺激によって物質の光物性が変わる現象と解釈できます。光物性の変化というと難しく聞こえますが、色が変化するなど物質の光学的な物性の変化です。つまり、温めたり、冷やしたりすることで色や蛍光などが変化する現象です。今回はそんなサーモクロミズムを実際に観察しながら温度と色の関係を見ていきましょう。
変色原理
サーモクロミズムの変色原理は様々です。クロミズムは主に可逆的反応を示すので、単純な熱分解による変色などはサーモクロミズムと呼ばないことが多いです。熱分解の代表としては酸化銀の熱分解があります。
黒色粉末である酸化銀が熱分解を受けると金属光沢を持つ銀に還元される反応です。これは中学理科でも取り扱われ、よく知られた熱分解の一つです。当然分解の前後では物質が違っていますから光学的な物性が違うのは当然です。しかし、サーモクロミズムは可逆的でなくてはなりません。つまり、熱により別の物質に変化したとしても温度が戻ればまた同じ物質を再生するといった反応を示さなければならないわけです。
では、具体的なサーモクロミズムを見ながら、原理を探ってみましょう。よく実験に使われるものとして、酸化窒素があります。
酸化窒素の一種である二酸化窒素をガラス容器に封入したものを温めたり冷やしたりすると色の濃さが変化します。
この反応は平衡の移動により起こります。通常、二酸化窒素には四酸化二窒素(二酸化窒素が2個繋がったもの)が一定の割合で存在しています。常温、常圧付近ではどちらか一方を純粋な形で分離することはできません。これを熱すると褐色の色を持つ酸化窒素の割合が増え、色が濃くなり、逆に冷やすと無色透明な四酸化二窒素の割合が増えて色が薄くなるのです。この平衡移動はルシャトリエの原理(平衡移動に関する法則)の解説のために学校でも度々行われます。
このように、サーモクロミズムは物質の平衡移動と関係している場合が多くあります。その他、分子内の結合が変化したり、錯体の配位変化などが光物性の変化につながる場合があります。
実際に観察する
それでは、いよいよ実際にサーモクロミズムを観察してみましょう。今回は塩化コバルトという物質を用いて実験を行っていきます。
注意:塩化コバルトは毒性があります。使用する器具は食用とは分け、皮膚に触れたり、口に入らないよう注意して取り扱ってください。毒性はそれほど高くないので、十分に注意して扱えば安全です。
1.無水エタノール25mlに塩化コバルト0.2gを溶解する
使用するエタノールは必ず無水のものを選んでください。塩化コバルトには毒性があるので、計量時などにこぼさないよう注意してください。
2.水を加える
精製水があればベストですが、水道水も用いることができます。1滴ずつ加えて溶液が赤紫色になるように調整します。
3.完成
キャップを閉じれば完成です。これを冷水と熱水(80℃以下)にいれて様子を観察しましょう。
さて、実際に変色を観察することができたと思います。注意事項としては、容器は50mlサイズよりも大きなものを使うこと、加熱するお湯は80℃よりも低くすることです。エタノールは約80℃で沸騰するため、沸騰水や直火、電子レンジなどで加熱すると内圧が上昇して危険なため、加熱は80℃以下の熱水を用います。
変色の原理
今回使用した塩化コバルトは水との結合度合いにより色が変化します。塩化コバルトには、色々な水和物が知られていて、無水物は青、水和物は紫や赤色をしています。代表的なものとして、無水物と6水和物(最大水和物)を見比べてみましょう。
無水和物と水和物が違う色をしているのは、コバルトが結びついている水の数が違うためで、構造が異なっているからです。この結びつきを「配位」といいます。例えば、エタノールのような水を含まない液体に溶かすと、水と配位していない状態になり、青い色の溶液になります。ここに水を少しずつ加えると、水が配位してだんだんと水和物に近い構造に変わります。
塩化コバルトが水と結びつく力は、低い温度の方が強く、水の割合が多いほど結びつきやすいという性質があります。水の量が一定なので、温度による結びつく力の違いが色の変化として現れるのです。
身近な応用
今回は温度による配位能力の差を利用したサーモクロミズムを見ましたが、水の濃度の差による変色は身近なところで利用されています。お菓子などの乾燥剤として使われる「シリカゲル」は水分を吸収しても見た目が変化しないため、ここに塩化コバルトを少量加えてシリカゲルの吸水状況を色で判別する工夫がなされています。
実験にかかった費用
・塩化コバルト 1,000円程度
・無水エタノール 2,000円程度
・スクリュー瓶 500円程度
・精製水 200円程度
掲載写真,図全てレイユール氏提供
レイユール 薬理凶室のYouTubeチャンネルでは、化学実験をコミカルな動画で紹介する「ガチ実験シリーズ」を不定期更新している。 |
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