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科学を愛する読者のみなさま、ごきげんよう。くられです。
使える予算は1万円以内。「高価な実験機器は使えない」という制約のなかで知恵と工夫を凝らして実行可能なおもしろ実験を紹介する本企画。
第28回目のお題は「青銅鏡」です。今回も、私が主宰する秘密結社「薬理凶室」のメンバーであり化学に造詣の深いレイユール氏の協力のもと、お届けします。それではお楽しみください!
皆さんこんにちは。レイユールです。
今回は、古代より使われてきた青銅鏡を実際に作ってみようと思います。卑弥呼をはじめとした昔の人はどのように自分の顔が映ったのでしょうか?
青銅鏡とは?
青銅鏡は古墳などから出土する古来の鏡です。古代エジプトでも用いられた形跡があるといわれています。日本では古墳出土品として見つかるなど古い時代の鏡で、現代のガラス鏡とは原理が異なり、金属の光沢を直接利用する鏡です。ガラス鏡の製法が伝来・普及する前は全てこの青銅の鏡が用いられていたと考えられています。今回はそんな青銅の鏡を実際に作り、その輝きを確かめてみましょう。
ガラス鏡と青銅鏡
ガラス鏡とは、洗面所や手鏡に利用される最も一般的な鏡です。これは、ガラスに銀メッキを施し、その反射を利用したものです。銀メッキは銀イオンをガラスの上に均等に析出させるという比較的高度な技術が要求され、また透明で平滑なガラス板も必要です。このような技術が発達する前は青銅を鋳造し、平面に研ぎ、これを磨き上げてピカピカの光沢を出してそれを鏡として用いていました。現在見られる複雑な紋様の緑色の青銅鏡は実は裏面の飾りが見えています。表面は平らな板となっており、現在は腐食の影響で緑色(銅酸化物の一種である塩基性炭酸銅など)に見えますが当時は鏡面仕上げになっていたとされています。
金属光沢
金属は全て「電気伝導性」、「金属光沢」、「展性および延性」の3つの特徴を持っています。これらは金属結合という原子の繋がり方に由来する性質です。金属の板をどんどん研磨して傷がなくなると光の大部分を反射するようになります。これが青銅鏡の原理なのです。シンクや硬貨がくすんで見えるのは酸化皮膜や傷による乱反射のためで、全ての金属は平滑に研ぎ澄ますことで鏡の性質を持ちます。
しかし、銅や金などは金属自体に色があるため鏡としては向いていません。そこで、現代は最も反射率の高い金属である銀を鏡に利用しますが、青銅鏡が使われた時代では古代でも容易に入手できた青銅がその目的に用いられていました。
青銅の成分
青銅は、銅を主成分として、スズ、亜鉛、鉛などを含む合金です。銅の比率が高くなるにつれて、銀色から金色、銅色の合金へと変化しています。私たちが使っている十円硬貨も銅の比率の高い青銅です。今回は鏡として用いるので、銀色の合金となるように銅の比率を下げます。また鋳造が行いやすいようにスズの割合を増やし、銅60%・スズ40%の合金を作っていきたいと思います。
青銅の鋳造
それでは作業を開始していきたいと思います。まずは青銅合金を作らなくてはなりません。銅としては、純銅製の針金、スズとしてはスズショットを用います。いずれも通販サイトなどで見つかりますが、銅色のアルミ針金などもあるので、成分が銅99%以上であるものを選ぶと良いでしょう。
※注意 この実験では火気と高温を使用します。やけどや火災に十分注意し、慎重に作業を進めてください。また、高温の金属は水に入れると弾けることがあるので、水がかからないよう注意してください。
1.銅の計量
銅の針金を5mm程度に刻み、30g計量する。
2.スズの計量
スズショット20gを計量する。
3.銅を融かす
磁製るつぼに銅を入れて穏やかに加熱する。急激に加熱するとるつぼが割れるので10分以上かけて徐々に火を近づける。
4.合金化
スズを少しずつ加えて全体が均一に融けるまで加熱する。
5.鋳造
金属製の型などに慎重に流し込み、塊を得る。
十分に冷えたら青銅の塊が完成します。
研磨して鏡にする
完成した青銅の塊は酸化物に覆われてくすんだ色をしています。これを耐水研磨紙で研磨することで鏡に仕上げていきましょう。
耐水研磨紙の番手は#120から始めて、#240、#600、#800、#1000、#1500、#2000を順に行います。前の研磨痕が残らないように、番手を上げる時には直角に研磨すると分かりやすいでしょう。
耐水研磨紙による研磨が完了したら、不要な布やキッチンペーパーに金属磨きを少量付けてよく磨きます。十分な研磨面が得られたら完成です。
古代の研磨
今回は現代の道具を使って磨きましたが、昔は耐水研磨紙などありませんでした。その頃は天然の砥石などを用いたと考えられています。仕上げにはザクロやカタバミなどの酸性の植物の汁を用いて曇りを取ったとされています。 今回作った鏡も指で触るなどしてしまうとすぐに燻んでしまうので、紙などに包んで保管しましょう。
実験にかかった費用
・バーナー 3,000円前後
・るつぼ 300円前後
・三角架 1,000円前後
・三脚台 1,000円前後
・銅針金 1,500円前後
・スズ 2,000円前後
・耐水研磨紙 300円前後
・金属磨き 500円前後
掲載写真,図全てレイユール氏提供
レイユール 薬理凶室のYouTubeチャンネルでは、化学実験をコミカルな動画で紹介する「ガチ実験シリーズ」を不定期更新している。 |
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