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科学を愛する読者のみなさま、ごきげんよう。くられです。
使える予算は1万円以内。「高価な実験機器は使えない」という制約のなかで知恵と工夫を凝らして実行可能なおもしろ実験を紹介する本企画。
第34回目のお題は「アンモニア」を使った実験です。今回も、私が主宰する秘密結社「薬理凶室」のメンバーであり化学に造詣の深いレイユール氏の協力のもと、お届けします。それではお楽しみください!
皆さんこんにちは。レイユールです。
今回は学校では習うけれど、実態はあまりよくわからないという人も多いと思われる「アンモニア」についてご紹介しましょう。
アンモニアとは
アンモニアは中学理科・高校化学ではよく登場する気体で、日常的にも耳にする化学用語ではないでしょうか。アンモニアと聞くと尿を連想する人もいるかもしれませんが、尿に含まれているのはアンモニアと炭酸の反応した「尿素」という物質で、アンモニアはほとんど含まれていません。体内でアミノ酸などの窒素を含む物質が代謝される際に出るアンモニアを無害化するために一旦尿素の形で安定化し、これを腎臓から尿として分離、排泄するのです。
さて、早速脇道に外れてしまいましたが、このように実際の姿があまり知られていないアンモニアですが、まずはその性質をおさらいしてみましょう。アンモニアは常温では無色のガスで、強い刺激臭を持っています。匂いを言い表すのはとても難しいですが、低濃度では魚が傷んだ時のような悪臭があり、高濃度では匂いはあまり感じず、鼻の奥に強い痛みが走ります。目や傷口も強く刺激します。アンモニアは水に非常によく溶け、アルカリ性の水溶液であるアンモニア水を作ります。薬局などで売られているアンモニア水は約10%ですが、実験用に売られているものは約25−30%程度の濃度です。
アンモニアの噴水実験
アンモニアの特徴といえば、やはり非常に水に溶けやすいことでしょう。水に溶けやすい気体として身近なものは炭酸水の二酸化炭素などがありますが、アンモニアは二酸化炭素の約367倍も水に溶けます。(単位重量の水に溶解する標準状態のガス体積の比)この性質を使って、よくアンモニアの噴水という実験が行われます。今回はこの実験を家庭で再現してみようというわけです。ただし、アンモニアは刺激性の強いガスなので、換気を十分に行い、取り扱いには注意しましょう。
アンモニアの製法
アンモニアの噴水には大量のアンモニアガスが必要です。アンモニアは工業的にはハーバーボッシュ法という窒素と水素の直接反応を利用して生産されています。しかし、この方法は高い温度と圧力が必要になり、実験に使うような数リットル程度のガスを得るには塩化アンモニウムの分解か、アンモニア水を沸騰させる方法が簡単です。
塩化アンモニウムは、アンモニアと塩化水素の反応で得られる安定した固体で、これを水酸化カルシウムなどの適当なアルカリと共に加熱すると、アンモニアと塩化水素に分解し、アルカリがこの塩化水素を吸収することで、アンモニアを得ることができます。しかし、試験管程度のサイズで発生させられるガスはせいぜい1リットルほどが限界になります。そこで、まとまった分量のアンモニアを発生させるなら、アンモニア水を沸騰させる方法がおすすめです。薬局などで販売されているアンモニア水は約10%の濃度で、計算上は100mlあたり12.5リットルのアンモニアを含んでいる計算です。(10%水溶液=5.6mol/l、1mol当たり22.4lとして計算)
実際には、全てのアンモニアが取り出せるわけではないので、これは理想的な目安値ですが、今回の実験では1.5リットルほどのアンモニアがあれば十分なので、15ml程度を沸騰させれば十分でしょう。
噴水実験
それではいよいよ実験に取りかかりましょう。使用する装置はシンプルで、500−1000ml程度の大きさの丸底フラスコに2つ穴を開けたゴム栓をして、ここに先端を絞ったL字管と普通の直管を繋ぎます。L字管の方にはピペットのゴム球を取り付け、内部には水を入れておきましょう。この作業にはガラス細工が必要なので、方法を簡単に紹介します。※ガラス細工では、切り口などで怪我をしないように取り扱いに注意しましょう。
L字管作り
まずは外径6mmのガラス管をガストーチで熱して溶かします。この際には、ガラス管の両端を持ってクルクルと回しながら均一に加熱していきます。この回転が一定でないとガラス管が徐々に歪んできてしまいます。
ある程度溶けたら、火から出してゆっくりと引っ張ります。すると伸びて細いガラス管になります。
次に、ガラス管の細くなっているちょうど中間あたりにダイヤモンドやすりで小さな傷をつけます。
管を外側に引っ張りながら、わずかに傷を開くような力をかけると簡単に折れます。慣れないうちは軍手や革手袋をすると安全です。
これで先端を絞ることができました。次はこれを曲げていきます。
再びガラス管を熱して、これを折り曲げます。あまり急速に折り曲げると管が潰れてしまうので、ゆっくりと直角になるように曲げていきましょう。
あとは、再びガラス管に傷をつけて適当な長さに折ります。
ガラス管が折れたら最後に切り口を少しだけ熱して丸くしておきます。こうすることで、怪我防止やチューブが傷つくことを防ぐことができます。
これでL字管が完成しました。同じ要領で直径5mmのガラス管を切り出します。使用するフラスコに合わせた長さでカットしてください。
これらを組み立てて以下のような部品を作ります。
ガラス管のパーツはそれぞれ市販品がありますが、このくらいのガラス細工ができると何かと便利です。全てを市販品で揃えようとすると規格にない長さが入手できないなど都合の悪い場合もあります。さて、この部品が完成してしまえばあとは簡単な組み立てで実験ができます。500ml程度の丸底フラスコに先ほど作ったパーツを取り付け、これを逆さにします。固定用クランプがない場合には二人組で実験をして片方の人が手で持って支えれば大丈夫です。
それでは、アンモニアガスをフラスコに入れていきます。アンモニアは水に溶けやすいので、フラスコや器具は乾燥したものを用いましょう。フラスコの内部が濡れていたりするとアンモニアが吸収されてしまいうまくいきません。
試験管に10−15ml程度のアンモニア水をとり、これを熱して沸騰させます。このガスをフラスコに入れた長い管の方からフラスコに送り込みます。アンモニアは空気よりも軽いため、逆のガラス管から入れてしまうと、ガスが外に逃げやすくなってしまうのです。
1分ほど沸騰を続ければほとんどのアンモニアがフラスコに移動します。最後に、L字管に水の入ったゴム球を取り付ければ準備が完了です。長いガラス管は洗面器(本記事ではビーカー)などに汲んだ水に浸しておきます。
ゴム球を押すと、L字管を通じて水がフラスコの内部に噴射されます。このとき、フラスコ内に放出されたアンモニアガスは水に溶け、体積が減少します。この体積の減少により、フラスコ内の気圧が外部よりも低くなり、低気圧の方へ空気や水が吸い上げられるのです。吸い上げられた水にはさらにアンモニアが溶け込み、再び体積が減少し、この過程が繰り返されることで噴水のように水が流れ続けます。やがて反応が進み、丸底フラスコ内の気圧が十分に低下して、水をこれ以上吸い上げられなくなると、この噴水現象は止まります。
アンモニアが溶解した水はアルカリ性なので、アルカリ性になると色の変化する指示薬(フェノールフタレインなど)を入れておくと、フラスコに吸われた水の色が変化します。家で実験する場合には、紫キャベツの煮汁などを使うと色の変化を観察できます。
指示薬の多くは一般には流通していないため、参考に一つ紹介させていただきます。コンゴーレッドという指示薬は酸性で青、アルカリ性で赤というリトマスと逆の色に変色する指示薬です。これを使用すると、酸性で青色だった液体がフラスコに入ってから赤く変色する様子を見ることができます。
実験にかかった費用
・ガラス管 2,000円程度
・やすり 500円程度
・バーナー 1,500円程度
・フラスコ 2,000円程度
・ゴム栓・チューブ類 1,000円程度
・アンモニア水 1,500円程度
器具はネット通販で入手可能です。
掲載写真,図全てレイユール氏提供
レイユール 薬理凶室のYouTubeチャンネルでは、化学実験をコミカルな動画で紹介する「ガチ実験シリーズ」を不定期更新している。 |
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