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科学を愛する読者のみなさま、ごきげんよう。くられです。
使える予算は1万円以内。「高価な実験機器は使えない」という制約のなかで知恵と工夫を凝らして実行可能なおもしろ実験を紹介する本企画。第6回目の今回お題は偏光板についてです。
皆さん、「偏光」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
まず、皆さんが目の前にあるモノが見えていてそのモノの色がわかる…というのは、その物体が可視光を反射しているからこそ、見ることができているわけです。赤であれば赤色より下界の波長を吸収して赤色を反射、青であれば青より上界の波長を反射…という感じで色というものはできています(厳密にはそれ以外の要素もありますが、便宜上説明を簡略化しました)。
よく、道の看板や町内会の案内看板などで
──────────────────────────
この先「 」「 」を「 」でください
──────────────────────────
……だから何が言いたいねん! 大喜利か!!
といった肝心な部分が抜け落ちたやつを見たことがあると思います。
あれには、赤色という色素が赤より下の波長をすべて吸収するという特性があることからその分光のエネルギーによるダメージも多く受けてしまい劣化しやすいという理由があります。
まず、可視光について知っておきましょう。
俗に言う七色。これが一般的に人類の「見ることができる」色域です。
(見えない:赤外線)←赤、橙、黄、緑、青、藍、紫→(見えない:紫外線)
(波が大きい)ーーーーーーーーーーーーーーーーーー(波が小さい)
赤より波が大きいものは赤外線や電波、紫より波が小さいものは紫外線やX線といった感じで「見えない光」となります。wifiだって携帯の電波だって、見えませんが、広義の意味では光(電磁波)であるわけです。
ちなみにですが、ガラスやプラスチックは透明ですがなぜ見ることができるのでしょう?
それはガラスやプラスチックを光が通過する際に反射光が発生したり光の通る角度が変わることで、その存在を認識することができるからです。
いずれにしても上でいう「見える」「見えない」および「色」というのはあくまで人間を基準したものであって、たとえば昆虫には赤外線領域や紫外線領域を見るのが得意な種類が多くいます。
モンシロチョウはオスでもメスでも人間からみると同じ白いチョウですが、オスは紫外線を吸収し、紫外域で見ると黒っぽく、メスは反射するので白っぽくみえるという感じで、モンシロチョウからすると一目瞭然でオスメスの区別ができていると思われます。
豆知識ついでにさらに面白いことには、反射する光が紫外域にずれるというとんでもない生き物もいて、サフィリナという海の甲殻類なのですが、紫外域に光を反射することで、光学迷彩能力を持っており、現在、研究が進められているそうです。
偏光板で遊んでみよう
さて、話を本題に戻します。自然光にはあらゆる角度の波があるのですが、反射した光や、人工光には方向性があります。もちろん裸眼で見てもその違いはわからないのですが、その差を区別することができる道具として「偏光板」というものがあります。
偏光板は、特殊なプラスチックを成形する際に、引き延ばしてフィルム加工することで、非常に細かいスリットが入った状態になっているのがその特徴です。スリットと同じ向きに振動する光のみが偏光板を通過できることから、ある一定方向のみの光を取り出して観測できるようになります。この特性を利用していろいろな実験が可能です。
代表的な人工光としてはTVやPCなどの液晶モニタがわかりやすく、液晶モニタに偏光板を近づけて回転させると映像が完全に見えなくなる角度があります。
また反射光も特定の波になりやすいので、偏光版を通して写真をとると、水面の反射などを低減して撮ることも可能です。
これは実際にiPhoneのカメラに偏光板をかぶせて同じ風景を撮影したものです。水面の反射が相当低減されているのが分かると思います。
この特性を利用して、偏光加工を施しているサングラスも多いです。高級なサングラス用レンズは偏光加工によって、反射光をカットすることで非常にクリアな視界かつ目に優しいつくりを実現しています。
しかしこのサングラスの特性、液晶にかこまれた生活をしていると、液晶モニタが真っ黒、ないしは別の色に見えることもしばしばあります。その場合は液晶をナナメにするか首をかしげて偏光方向を変えなければいけないので、かなり不便な思いをします。偏光レンズは液晶画面と相性がよくないことがある…というのは覚えておいてもいいかもしれません。
見えないものが見えてくる…?
さて、この偏光版を使うと思いもよらない観察をすることが可能です。
例えばプラスチックの応力分布などを可視化できます。
一見透明にみえるプラスチック製品も、実際には複雑な構造なので、その分子の分布が均一ではありません。つまるところ冷やして固めた際に、中の分子には歪みが生じているわけです。これが実は偏光として観察できます。偏光板2枚で透明な物体を挟むことで、その応力分布を見ることができます。
例えばこれは、トレース版の上に偏光板を置いてその上に注射器のシリンダーを置いたモノです。
さらにカメラの側にも偏光板をかぶせてこれを撮影すると、なんとそのプラスチックの歪みの部分が可視化されてみえてくるのです。
このように普段は見ることができないものが見えてくる偏光板。安くて入手も容易なので、ちょっとした実験にはもってこいの逸品です。
手品グッズを作る
最後にこの偏光板の特性を利用した手品グッズを紹介しましょう。
このように真ん中に黒い仕切りの入った筒です。
しかし、ビー玉を中に転がすと…
中の黒い板を通り抜けます…!!
これは偏光板は90度ずらして重ねると黒く見えるという特性を利用したトリックです。
作り方は簡単です。
まず10センチ角程度の偏光板を用意しましょう。偏光板の多くはフィルムによって保護されているので、保護シートを上手く剥がしておきましょう。両面に保護シートがついているので、取り忘れないように。
次に、重なると色が黒くなる方向でセロテープでつなぎます。
あとはくるりと丸めてテープで固定すれば完成です。
つなぎ目の部分がまるで壁があるように真っ黒な仕切りにみえます。
でもあくまでそう見えるだけなので、ビー玉は通ることが可能なのです。
以上、今回は偏光板について考察してみました。偏光板はサイズやセット枚数によりますが数百円レベルから購入可能なので、ぜひ気軽に遊んでみてほしいと思います。
ひとつだけご注意点として「偏光板」と、PCの周辺機器などとして売られているいわゆる「のぞき見防止フィルタ」とは、似ているようで全然違うものですので気をつけてください。「のぞき見防止フィルタ」は簡単にいうとフィルムにブラインドカーテンのような加工が施されていて液晶画面の光をある一定方向=正面のみに制御するものです。対して偏光板のスリット構造はナノレベルの非常に細かいものですので、のぞき見防止のような機能にはなりません。
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