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みかんの薄皮むき│ヘルドクターくられの1万円実験室│リケラボ

みかんの薄皮を化学的処理でむいてみた!│ヘルドクターくられの1万円実験室

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科学を愛する読者のみなさま、ごきげんよう。くられです。

使える予算は1万円以内。「高価な実験機器は使えない」という制約のなかで知恵と工夫を凝らして実行可能なおもしろ実験を紹介する本企画。

第36回目のお題は「みかんの薄皮むき」です。今回も、私が主宰する秘密結社「薬理凶室」のメンバーであり化学に造詣の深いレイユール氏の協力のもと、お届けします。それではお楽しみください!


皆さんこんにちは。レイユールです。

今回は缶詰などに入っている薄皮のむけたみかんがどのように作られるのか実験をしながら紹介していきたいと思います。

みかん 今回はみかんを用いるが、他の柑橘類でも同様に処理することができる。

みかんの皮むき

缶詰みかんは薄皮を化学的な処理によって取り除いていることは比較的有名な話です。しかし、実際にどういった処理を行っているのかはあまり知られていないと思います。そこで、今回はみかん缶詰のコピー品を作ってその原理を探ってみましょう。

みかん缶詰の製造工程は検索すると比較的容易に詳細を知ることができます。メーカーにより処理の方法や薬品の濃度など若干の差はありますが、概ね塩酸と水酸化ナトリウムによる処理が共通しています。

みかん缶 みかんが流通していない時期でも食べることができる保存食

缶詰のみかん 綺麗に薄皮がむかれている

薄皮の処理方法

みかんの薄皮は「セルロース」と「ペクチン」が物理的に絡まり合ってできていて、酸と塩基の処理によってこれらを分解することで薄皮を取り除いているわけです。まずは、実際にみかんの薄皮を処理してその実際を見てみましょう。今回の実験は、全て食品添加物グレードの薬品と、清潔な器具を使用しています。

注意 使用する薬品は食品に配合されている成分ですが、酸やアルカリは刺激性があるので、手袋や安全メガネなどの保護具の着用を行ってください。また、この記事の趣旨は化学的な原理の解説なので、実際に実験し、食べることは推奨いたしません。

実験 みかんの薄皮処理

1. みかん2個分の皮をむき、一房ずつに分けておく

2. 水道水500mlにクエン酸100gを加えてクエン酸水を作る

クエン酸の溶解。撮影のため専門的な器具を使用しているがプラコップと割り箸などを使っても良い

3. 2の溶液にみかんを投入し50℃に加熱し30分浸漬する(5分ごとに優しく混ぜる)

みかんの浸漬 本来は塩酸を使うが、今回はクエン酸を使っているので少し温める必要がある

4. 浸漬を終えたみかんを取り出し、軽く水洗いする

浸漬後のみかん 見た目に大きな変化は無いが分子レベルでは変化している

5. 水道水500mlに炭酸ナトリウム20gを溶解して溶液を作る

6. 5の溶液に4のみかんを投入し30分浸漬する(5分ごとに優しく混ぜる)

塩基溶液への浸漬 塩基溶液に浸漬すると黄色い色に変化するが果汁が漏れているわけではない

7. 浸漬を終えたみかんを取り出し流水で十分に洗浄する

処理を全て終えたみかん 缶詰のものと比較しても遜色ない仕上がりだ

以上の工程で薄皮がむけて缶詰に入っているものと同じようなみかんが得られるはずです。

薄皮処理の原理

実際に薄皮をむくことに成功したので、ここからはその原理を解説しましょう。前述の通り、薄皮はセルロースとペクチンから成っています。セルロースは紙などの成分として知られている丈夫な繊維で、酸や塩基に対する耐性も高いことが知られています。この丈夫な物質をペクチンが接着剤のように繋ぎ止めているわけです。ペクチンはジャムのゲル化剤などとして食品加工によく用いられています。このペクチンは「ガラクツロン酸」という化合物が鎖状に長く連なった構造をしており、その末端の部分はメチル基となっています。

ガラクツロン酸 構造はあまり大事ではないので、なんとなく頭の片隅に置いてもらいたい

少し難しい話になってしまいましたが、このような構造のペクチンに酸を作用させると、ペクチンの結合の一部が切断されます。さらにペクチンの末端にあるメチル基部分にも酸が作用して加水分解という反応を起こし分解します。しかし、酸のもつ結合切断の力はまだ弱く、ここからさらに塩基による追加の処理が必要になります。

酸処理を受けた薄皮に塩基である炭酸ナトリウムを作用させると、ペクチンの結合切断がさらに進行し、それと同時に加水分解を受けたペクチンのカルボキシ基が塩基と中和反応を起こすことで、より水に溶けやすくなるのです。これによりペクチンがセルロースを繋ぎ止める機能を失うと、セルロース繊維はバラバラになり、薄皮は破壊されてしまうのです。

果肉のみが残る理由

さて、薄皮が酸と塩基の処理によって分解される仕組みはお分かりいただけたと思います。しかし、みかんの果肉も「砂のう」という細かい粒状の構造を持っています。

みかんの砂のう みかんのつぶつぶは専門的には砂のうと呼ばれる

この砂のうの膜も溶けてしまうと、せっかくの果肉もバラバラになってしまいます。しかし、今回の処理では薄皮のみが溶けています。これには大きく2つの理由があり、一つは、砂のうの膜は薄皮に比べてセルロース比率が高く、酸や塩基に対する耐性が高いことです。そして、もう一つは、酸処理の段階では薄皮に守られて砂のうの膜が溶液の影響を受けていないということもあります。しかし、溶液の濃度を高めたり、処理時間を長くすることによってより強いダメージを与えれば砂のうの膜まで分解されてバラバラになってしまいます。つまり、今回の溶液濃度や処理時間にはそういった現象が起きないように適切に設定されているのです。

瓶詰めを作る

では、せっかくみかんの皮をむくことができたので、これをシロップに漬け込んで缶詰を再現してみましょう。缶に詰める装置は用意できないので、瓶で代用します。

お好みの濃さの砂糖水(みかんジュースなどでも美味しい)を作り、みかんと一緒に瓶に詰めます。

瓶への詰め込み

シロップを注ぐ お好みの濃さの砂糖水などを入れよう。炭酸飲料は破裂の危険があるので用いないこと

これを鍋に入れて水から加熱し(熱湯に入れると瓶が割れてしまう)、十分に加熱して内部を殺菌します。

加熱殺菌 鍋などで加熱する

完成した瓶詰め

実際の缶詰工場ではこれにより内部を無菌にすることで長期間の保存ができるようになります。しかし、今回は殺菌よりもむしろ加熱することで缶詰みかんに近い風味を出すことが主眼です。これはお好みなので、シロップと混ぜてすぐに召し上がっても良いでしょう。殺菌効果はおまけ程度と考えて、もし試食される際は、できるだけ早く食べることをお勧めします。

今回は実際に食べても問題ないレシピを紹介していますが、記事の主な趣旨は化学的な皮むきの原理の解説ですので、実際に試す際には自己責任にて行ってください。

実験にかかった費用

・みかん 1,000円程度
・クエン酸 1,500-2,000円程度
・炭酸ナトリウム 1,500-2,000円程度
・瓶 500円程度
・砂糖 200円程度

器具はネット通販で入手可能です。

掲載写真,図全てレイユール氏提供

レイユール
薬理凶室怪人。専門は有機合成化学。薬理凶室では化学分野を担当している。

薬理凶室のYouTubeチャンネルでは、化学実験をコミカルな動画で紹介する「ガチ実験シリーズ」を不定期更新している。

くられ with 薬理凶室

くられ with 薬理凶室

くられ。自称、不良科学者。作家/科学監修、大学講師なども兼任する。近著では「アリエナクナイ科学ノ教科書」で2018年第49回 SF大会にて星雲賞ノンフィクション部門を受賞(続きの連載をDiscoveryチャンネル公式WEBにて掲載、好評を博し終了。現在単行本化作業中)。週刊少年ジャンプで連載中の人気漫画『Dr.STONE』の科学監修を務める。人気Youtuber動画チーム「〜の主役は我々だ!」とのコラボによる「科学はすべてを解決する」はコミック化されるなど好評を博している。
公式サイトはこちら

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