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科学を愛する読者のみなさま、ごきげんよう。くられです。
使える予算は1万円以内。「高価な実験機器は使えない」という制約のなかで知恵と工夫を凝らして実行可能なおもしろ実験を紹介する本企画。
第13回目のお題は「葉脈標本」です。今回も、私が主宰する秘密結社「薬理凶室」のメンバーであり化学に造詣の深いレイユール氏に協力のもと、お届けします。それではお楽しみください!
皆さんこんにちは。レイユールです。
今回は、ハーバリウムなどでもお馴染みの「葉脈標本」を自作してみようと思います。ネット上には葉脈標本の自作法を紹介している記事や動画が既にいくつかありますが、今回は1万円実験室らしく市販品のみを使いながらも、かつてない最高品質の葉脈標本の自作を目指してみたいと思います。
葉脈標本とは
ハーバリウムやクリスマスリースなどクラフト・インテリアとしてよく目にする「葉脈標本」。そもそも葉脈標本は、葉の中に存在する「葉脈」と呼ばれる組織のみを取り出した標本のことで、標本とは名が付くものの、学術的な意味で製作されることは少ないようです。この葉脈とは、葉に水分を供給したり、栄養素を運び出すなどの運搬の役割のほか、葉の形を保つ構造としての役割も持ちます。人間で言うところの血管と骨を合わせたような役割があるわけです。
重曹では、出来栄えはイマイチ!?
葉脈標本はもともと水中で葉を腐らせて作られていましたが、現代では強塩基を使った化学的な処理が一般的です。強塩基である「水酸化ナトリウム」の10%水溶液で煮たり、長時間漬け込むことで製造できます。インターネットで「葉脈標本 自作」で検索すると様々なサイトで制作方法が紹介されていますが、その大部分が重曹を使った方法です。重曹の水溶液は50℃以上に熱すれば分解し、二酸化炭素を放出して炭酸ナトリウムに変化します。
◆化学式◆
2NaHCO3 → Na2CO3 + CO2 + H2O
炭酸ナトリウムは、重曹より強い塩基ですが、煮込んで葉を腐食するのには少々力不足です。実際に10%の重曹水を沸騰させ、2時間ほど葉を煮込んでみると変色し、柔らかくはなるものの、葉脈標本にはなりませんでした。
つまり、炭酸ナトリウムよりも強力な塩基が必要です。そこで今回は新たな自作法をご提案しましょう。
まず市販品をそのまま使う場合は、水酸化ナトリウムを配合したパイプ洗剤が最も有効でした。実際に市販のパイプ洗浄剤を使った方法で葉脈を取出してみましょう。
実験① 市販のパイプ洗浄剤を使って葉脈を取り出す
1. 市販のパイプ洗浄剤をガラス製の容器に取り、ヒイラギの葉を入れ、湯煎によってしばらく熱する
※パイプ洗浄剤を入れる容器は、溶けないよう必ずガラス製のものを使用してください。実験の際は、充分な換気を行い、液はねにも注意してゴーグル・手袋を着用して行なってください。
2. 水で葉を濯(すす)ぐ
3. バットに水を張り、歯ブラシなどを使って葉肉を落とす
4. 漂白剤(原液)に30秒から2分間程度浸漬し脱色する
5. 漂白剤を洗い流して自然に乾燥させる
パイプ洗浄剤も優秀だが…
さて、パイプ洗浄剤を使ってキレイな葉脈標本を作ることができました。
実際に行ってみると分かるかと思いますが、引き上げるタイミングや、僅かに葉肉が残ってしまったりと、売り物レベルのクオリティを出すまでには少し慣れが必要かもしれません。これは、市販のパイプ洗浄剤に含まれる塩基が薄いことや、その他の成分を含むことが原因となっています。とはいえ、一般家庭での再現実験はこれが限界でしょう。
しかし、折角なので今回は、特別に化学の専門家である筆者が「純粋な化学の実験」として実験室でさらなるハイクオリティな葉脈標本作りに挑んでみようと思います。
実験② 「苛性法」で強塩基の溶液を自作して葉脈を取り出す
さて、やはり高品質な葉脈を作るには水酸化ナトリウムそのものを用意するのがベストだと思われます。そこで今回は「化学の専門家」レイユールが、水酸化ナトリウムの合成からトライしてみたいと思います(水酸化ナトリウムは濃度10%を超える製品になると劇物の指定を受けるため、一般家庭で読者の皆さんが購入するにはハードルが高い、かつおすすめいたしません)。
水酸化ナトリウムの合成には、主に2通りの方法が考えられ、食塩水の電気分解または「苛性法」と呼ばれるイオン交換反応が利用できます。食塩水の電気分解は原料の食塩が安価に手に入るので、工業的にはこの方法で合成されることが多いです。しかし原料が安い反面、電極や電源装置を用意する必要性や溶液が混ざらないようにする工夫など、少量を作るには不相応な手間とコストがかかります。それに引き換え苛性法は、工程数は増えますが、安価な市販品から容易に水酸化ナトリウムを得ることができます。さらに、副生物の炭酸カルシウムが水に溶けないので、反応後、そのまま水酸化物の溶液となる非常に便利な反応です。今回は、この苛性法を採用し、重曹から出発し、これに水酸化カルシウムである「消石灰」を反応させることで水酸化ナトリウムの溶液を得ようと思います。
注意:水酸化ナトリウムは高い腐食性を持った化合物です。この実験は化学の専門家が専用の設備を用いて実験を行っています。
水酸化ナトリウムの合成
材料 重曹(炭酸水素ナトリウム)…84g |
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1. 1lビーカーに水500mlを入れ沸騰させる
2. 加熱を止めて重曹84gを少しづつ加える(※吹きこぼれに注意!)
3. 発泡が収まったら、2分間沸騰して二酸化炭素を追い出す
4. 再び加熱を止めて消石灰41gを少しづつ加える
5. ガラス棒でよく攪拌しながら5分間沸騰させる
6. 加熱を止めて放置する
7. 上澄み液200mlを慎重に別のビーカーに移す
さて、ここまでで薄い水酸化ナトリウム水溶液200mlを入手することに成功しました。
後はパイプ洗浄剤の代わりにこの溶液を使って、同様の操作で標本を作ることができます。
今回実験にかかった費用
実験① 市販のパイプ洗浄剤を使って葉脈を取り出す ・パイプ洗浄剤 数百円 |
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実験② 「苛性法」で強塩基の溶液を自作して葉脈を取り出す ・重曹 数百円 |
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予算にはまだ余裕があるので、完成した葉脈標本をインクで染色したりラミネート加工して栞などを作るのも面白いでしょう。クリスマスリースやハーバリウムにも、もちろん使うことができます。
掲載写真,図全てレイユール氏提供
レイユール |
薬理凶室YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UC_sxCGl2slqyAj9i26KLKuA
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