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科学を愛する読者のみなさま、ごきげんよう。くられです。
使える予算は1万円以内。「高価な実験機器は使えない」という制約のなかで知恵と工夫を凝らして実行可能なおもしろ実験を紹介する本企画。
第14回目のお題は「青写真」です。今回も、私が主宰する秘密結社「薬理凶室」のメンバーであり化学に造詣の深いレイユール氏の協力のもと、お届けします。それではお楽しみください!
皆さんこんにちは。レイユールです。
今回は、アナログ写真の一種である「青写真」を紹介しましょう。現代ではほぼ見かけることのない写真技法ですが、化学的にとても面白い反応を起こしています。実際に青写真を撮りながらその仕組みを探ってみましょう。
青写真とは
青写真とは、別名「サイアノタイプ」とも呼ばれるアナログ写真の一種です。現代では、フィルムタイプのアナログ写真はほとんど姿を消し、半導体を使ったデジタル写真が普及しています。
デジタルカメラが登場する前はフィルムや感光紙と呼ばれる光の明暗を色の明暗として記録する専用の紙が用いられていました。現在でもフィルムタイプの写真機は愛好家向けやインスタントカメラの分野で一定の人気と需要を誇ってはいますが、デジタルカメラに比べてその数はかなり少なくなっています。
青写真は、化学反応により光が当たった部分と光が当たらなかった部分で色の濃さが変わるタイプの写真で、色はその名の通り青色ですが、カラー写真ではなくモノクロの写真になります。写真撮影にも用いられましたが、それよりも図面の複写などによく用いられ、その方面では「青図」などと呼ばれていました。古い建築図面や戦艦などの造船図面は複写に青写真の原理がよく使われていたそうです。
感光紙を作る
では、早速青写真を実際に写してみましょう。青写真は紙に「感光液」と呼ばれる薬液を塗布し、乾燥させることで「感光紙」というカメラのフィルムに相当するものを作ります。まずは、市販の材料から感光液と感光紙を作りましょう。感光液は光が当たると分解してしまうので、室内をできるだけ暗くして作業を行なってください。
1. クエン酸鉄アンモニウムを溶解する
50mlのビーカーに水20mlを入れ、クエン酸鉄アンモニウム1gを溶かします。
※クエン酸鉄アンモニウムの他にそのナトリウム・カリウム塩、トリスオキサラト鉄酸アンモニウムやそのナトリウム・カリウム塩なども用いることができます
2. 赤血塩を溶解する
1で得られた溶液に赤血塩0.5gを加えて溶解します。
3. 溶液を濾過する
2で得られた溶液をNo.2の定性濾紙を用いて濾過します。
ここまでの作業で感光液が得られました。感光液は保存が効かないので、完全な暗所に保存してもその日のうちに使い切りましょう。
4. 画用紙に塗布する
3で得られた感光液を画用紙にできるだけ均一に塗布します。
※画用紙が大きすぎるとムラができてしまうので、最大でもB5サイズ程度に留めましょう。
※紙はケント紙や画用紙が良いでしょう。コピー紙のように薄いものやコート紙など水を弾きやすいものは使えません。
5. 感光紙を乾燥する
暗室にて自然乾燥を行うか、ドライヤーなどで強制乾燥させます。
※自然乾燥を行うには完全な暗室でなければ感光してしまうので、ご家庭では薄暗い部屋でのドライヤー乾燥がおすすめです。乾燥後の感光紙はアルミ箔に挟んで光を遮って保存する。感光紙は完全遮光しても2日が保存限界です。
ネガフィルムを作る
さて、感光紙が作れました。次に写真の元となる「ネガフィルム」を作ります。青写真は光が当たった部分が青く変化するので、人の目で見る世界と明暗が反転して映ります。そこで、写真の明暗をあらかじめ反転させたネガフィルムを用意し、それを通して露光を行うことで、明暗が反転していない「ポジ」と呼ばれる状態の写真が撮影できます。
旧式の写真機で青写真を露光するのは難しいので、デジタルの写真やイラストなどをネガに変換し、これを透明なフィルムに印刷することで間接的に青写真を写します。
1. デジタルの写真・イラストを用意する
今回は星形と筆者のキャラクターイラストを使います。
※普通の写真でも可能ですが、コントラストの高いものでないとうまく写らないことがあります。
2. モノクロ画像にする
高機能な画像編集ソフトがあればベターですが、無料で画像編集が行えるWebサービスなどでも構いません。
3. ネガ画像にする
モノクロ写真の白黒(明暗)を反転します。これも画像編集ソフトかWebサービスを使います。
4. フィルムに印刷する
印刷可能な透明フィルムであれば何でも使えますが、今回はOHPフィルムを使いました。適当な透明なフィルムにマジックペンなどで手書きしても良いでしょう。
青写真を露光する
下準備が済んだのでここから実際に青写真を露光していきます。
1. ガラス板に感光紙を置く
感光紙の塗布面を上にしてセットします。
※厚さ3mm以上のガラス板を使います。額などを分解して取り出すと安価に入手可能です。
2. ネガフィルムを重ねる
ネガフィルムを感光紙の上に重ねます。OHPフィルムの印刷面が上になるようにセットします。
※これが逆だと左右方向が反転してしまいます。また、使用したフィルムによっては感光紙と張り付いてしまうこともあります。
3. ガラス板を被せて固定する
ガラス板でサンドするようなイメージです。
4. 露光する
晴れの日は屋外で直射日光を当てて露光することができます。時間は3分〜5分程度です。
※ブラックライト・ハロゲンランプ・白熱電球などでも露光することができます。光源の種類などで露光の必要時間が変わるので、何度かテストを行なってください。
青写真を現像する
露光が済んだ感光紙はその状態でも写真になっていますが、酢酸溶液で洗浄してより鮮やかな色に仕上げます。
1. 現象液の調製
水500mlに氷酢酸5mlを溶かします。
2. 現像
感光紙が入る大きさのバットに現像液を入れて、写真を2分程度漬けます。
3. 濯ぎ
水道の流水で軽く洗い流します。
4. 乾燥
表面の水滴をキッチンペーパーなどで吸い取り自然乾燥またはドライヤーで強制乾燥します。
以上で青写真が作成できたはずです。
青写真の仕組み
では、ここから気になる原理について解説しましょう。
青写真は、鉄の価数が光により変化して色が変わります。まず、クエン酸鉄アンモニウムは鉄が3+の状態です。ここに紫外線を含む光を当てることで2+に還元されます。
◆反応式◆
Fe3+ → Fe2+ (紫外線照射)
赤血塩は、Fe3+の鉄イオンとは反応しませんが、Fe2+の鉄イオンとは反応し「紺青」という濃い青色の沈殿を生じます。
つまり、Fe3+のクエン酸鉄アンモニウムと赤血塩を紙に染み込ませ、ネガフィルムを重ねて光を当てると、光が当たった部分のみFe2+が生じます。これが赤血塩と反応し、青くなるという仕組みです。紺青は水に溶けない安定した顔料なので、水洗いしても流れません。未反応のクエン酸鉄アンモニウムや赤血塩は現象液や流水洗浄によって取り除かれます。
今回実験にかかった費用
・クエン酸鉄アンモニウム 3,000円程度 |
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クエン酸鉄アンモニウムや赤血塩・氷酢酸はカメラの専門店やその通販サイトなどで購入することができます。いずれも毒性はあまり高くありませんが、廃棄などは販売元の指示に従うようにしてください。
掲載写真,図は著作者表記のあるものを除き全てレイユール氏提供
レイユール |
薬理凶室YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UC_sxCGl2slqyAj9i26KLKuA
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