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科学を愛する読者のみなさま、ごきげんよう。くられです。
使える予算は1万円以内。「高価な実験機器は使えない」という制約のなかで知恵と工夫を凝らして実行可能なおもしろ実験を紹介する本企画。
第17回目のお題は「指紋検出」です。今回も、私が主宰する秘密結社「薬理凶室」のメンバーであり化学に造詣の深いレイユール氏の協力のもと、お届けします。それではお楽しみください!
皆さんこんにちは。レイユールです。
今回は、犯罪捜査などでも使われている指紋の検出を、鑑識の専門家に頼らずとも行えるかについて実験していきましょう。
そもそも指紋とは?
指紋とは、人の手足の指の皮膚にある特徴的な模様です。生物学的には滑り止めや皮膚表面に凹凸をつくることで感覚を受容しやすくする(=細かなものを感じ取りやすくする)目的があると考えられています。また、指紋は個人ごと異なった形をもっていて、身体的な特徴が似るといわれている一卵性双生児であっても指紋は異なります。くわえて指紋の形は生涯不変であると考えられていることから、個人を識別できる特徴としてもよく知られています。この性質を応用して、印鑑の代わりに親指の指紋を取る「拇印」や、スマートフォンやPCのロック解除などの生体認証システムに使われています。
また、犯罪捜査においては、現場から指紋を採取して証拠とすることもあり、物に付着した指紋を検出する数々の方法が模索されてきました。
指紋の転写について
拇印は朱肉を使って指紋を紙に写し取りますが、朱肉などを塗らなくても指の表面には皮脂などの油分や汗などが付着しており、これらが触れた物に転写されます。
スマートフォンの画面に指紋がつくことは皆さんご存知かと思いますが、布や紙であっても同様の現象が起こるのです。今回の実験では、このように物体に転写された指紋を検出しようというものです。
ガラスから指紋を採取する
物体に付着した指紋を検出する方法はこれまでに様々なものが模索されてきました。最も有名なのは指紋に粉をかける方法です。それでは、実際にガラス製品から指紋をとってみましょう
1.指紋を付ける
十分に洗浄したガラス製品(コップなどが良い)に触れて指紋をつけます。作業の際には手袋をして、他の余計な指紋がつかないようにすると目的の指紋がはっきりと取れます。また、石鹸での手洗い直後などは皮脂が少なく指紋がつき難いです。
2.粉を付ける
耳かきの綿毛の部分をつかって適当な粉(本来はアルミ粉が適するが片栗粉などでも代用可)を振りかけます。
3.余分な粉を落とす
耳かきの綿毛部分を使って余分な粉を払い落とします。この際に強く擦ると指紋が乱れてしまうので、優しく丁寧に行いましょう。
4.透明テープに写しとる
透明テープ(幅広のセロハンテープなど)で粉を写し取ります。これを黒い台紙に貼れば標本ができます。
以上のように、ガラス製品など皮脂を吸収せず、平滑な面がある素材からは比較的簡単に指紋を採取することができます。しかし、同様の方法では布や紙から指紋を取ることはできません。
紙から指紋を採取する
では、紙など粉末を使えない場合はどのように指紋を採取すれば良いでしょうか。紙などの表面は凹凸が多く、また皮脂や汗を吸収してしまうため、粉末が張り付きにくく、粉末では指紋が検出できません。そこで、今回はヨウ素という物質を利用して指紋を検出します。まずは、実際にヨウ素を使って指紋を検出してみましょう。
※ヨウ素蒸気は有害なので、実験は必ず換気扇の下や屋外で行いましょう。
※加熱はホットプレートなどを使用してください。
※容器は実験用ガラス器具が望ましいですが、用意できない時は空き缶などを使います。ガラス瓶では割れる危険があります。
1.コピー用紙を用意する
新品のコピー用紙を用意し、指紋をつけないように手袋をつけて短冊状に切ります。
2.指紋をつける
短冊の下の方に指紋をつけます。ガラスの時と同様に行いましょう。
3.ヨウ素蒸気を発生させる
空き缶などの容器を利用して1ml程度のヨウ素液を蒸発させます。
4.ヨウ素で燻蒸する
ヨウ素の蒸気が充満したところに短冊を入れて紙がうっすら紫色になったらすぐに引き出します。
※ヨウ素液はうがい薬として売られているもの(成分に「ポビドンヨード」が含まれるもの)は使えません。傷口消毒剤として売られている「希ヨードチンキ」などヨウ素とヨウ化カリウムが含まれるものを選んでください。
ヨウ素の蒸気に触れるとすぐさま指紋が浮き上がります。これは、皮脂などの成分にヨウ素が溶け込んで色がつくためです。ヨウ素は「ソルバトクロミズム」という溶けるものに応じて異なる色を出す性質や、紙よりも皮脂などの成分に溶けやすいなどの性質があり、指紋部分に特異的に色がつくのです。
その他の検出法
さて、ここまで粉末やヨウ素による検出法を紹介してきました。実際にはその他にも検出の方法があり、ここでは中でも有名な「ニンヒドリン」を使った方法も解説しましょう。
ニンヒドリンという化合物はアミノ酸とともに熱すると「ルーヘマン紫」という紫色の化合物が生じます。この性質を利用して、対象物にニンヒドリンのアセトン溶液をスプレーしてからアイロンをかけるなどして熱することで汗や皮脂に含まれるアミノ酸を発色させて指紋を検出する方法があります。布などからも指紋を検出できることから実際の犯罪捜査でも使用されているようです。
※ニンヒドリンは市販されていないため今回実験は行っていません。
実験にかかった費用
・耳かき 100円程度
・片栗粉 100円程度
・アルミ粉 3,000円程度
・ビーカー 1,000円程度
・ヨウ素液 1,000円程度
・コピー紙 500円程度
アルミ粉末は燃えやすく処分が難しいため、特に理由がなければ片栗粉などで十分です。
掲載写真,図全てレイユール氏提供
レイユール 薬理凶室のYouTubeチャンネルでは、化学実験をコミカルな動画で紹介する「ガチ実験シリーズ」を不定期更新している。 |
薬理凶室YouTubeチャンネル
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