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科学を愛する読者のみなさま、ごきげんよう。くられです。
使える予算は1万円以内。「高価な実験機器は使えない」という制約のなかで知恵と工夫を凝らして実行可能なおもしろ実験を紹介する本企画。
第20回目のお題は「3層液体」です。今回も、私が主宰する秘密結社「薬理凶室」のメンバーであり化学に造詣の深いレイユール氏の協力のもと、お届けします。それではお楽しみください!
皆さんこんにちは。レイユールです。
今回は、水と油のように混ざり合わない液体を使って3層に分離する不思議な液体を作ってみようと思います。
水と油
水と油が混ざらないことはよく知られていると思います。例えば、ドレッシングが2層に分かれていたり、ラーメンのスープの上に油滴が浮いていたりなど、水と油が2層に分離している様子は見慣れたものかと思います。
では、3層に分離した液体を見たことはあるでしょうか? おそらく大部分の方はそのような液体は目にしたことがないのではないかと思います。それには理由があり、例外はあるものの、水に溶けやすい液体は油に溶けにくく、油に溶けやすい液体は水に溶けにくいという法則があるためです。例えば、ごま油とサラダ油では、構成している成分は違いますがお互いに混ざりやすく、いずれも水とは混ざりません。このように、通常は2層以上に液体が分離することはほとんどありません。
比重による分離
お互いに混ざりやすい液体であったとしても、比重が大きく異なれば分離することがあります。例えば、アイスティーにガムシロップを入れても混ぜなければ底に沈澱したままになり、外見上は分離しているように見えることがあります。
これは、アイスティーとガムシロップには1.3から1.4倍の重さ(密度、比重)の違いがあるためです。しかし、もともとはどちらも水をベースにした溶液なので、かき混ぜるなどすればすぐに均一な溶液となってしまいます。
これでは、分離しているとは言えなさそうです。
水に沈む有機溶媒
それでは、発想を変えてみましょう。水と2種類の有機溶媒(油のような液体)を混ぜた場合を考えてみます。ここでは例として水に混ざらない溶媒である「トルエン」と「ヘキサン」を水に加えてみます。すると、水とトルエン+ヘキサン溶液というようにやはり2層になってしまいます。
これは、トルエンとヘキサンが混ざりやすいこと以外に、両方とも水よりも比重が小さいので水に浮いて混ざり合ってしまうという問題点があります。しかし、この問題を解決してくれる水よりも重い有機溶媒というものも存在しています。
例えば、ジクロロメタンやクロロホルムといった塩素などのハロゲンを含む溶媒です。これらは水よりも比重が大きく、且つ水に混ざりにくいという性質を持っています。それでは、トルエンの代わりにこのジクロロメタンを使って同様の実験を行ってみましょう。
まずは最も比重の大きなジクロロメタンを加え、次に水を加えます。
最後にヘキサンを加えると見事に3層に分離しました。
これは比重の差に加えて、互いが混ざり合わないのでこのまま安定して3層を維持することができます。
これにて3層液体が完成したかのように思われましたが、実はまだこの3層液体は完璧とは言えないのです。試しに、強く振ってみると、水がセパレーターとなって有機溶媒同士が触れ合わないようになっていましたが、振ってしまうと溶媒同士が混ざって最終的に2層に分離してしまうのです。
水にも油にも混ざらない溶媒
残念ながら、有機溶媒同士が混ざってしまう以上、単純な方法では完璧な3層液体は得られそうにありません。しかし、有機溶媒の中には、水とも油とも混ざる溶媒というものもあります。代表的なものがエタノールなどのアルコール系の溶媒です。高濃度のアルコールは多くの有機溶媒と混和しますし、お酒に代表されるように水とも混和します。しかし、水と水に混ざらない有機溶媒とアルコールを混合すると、アルコールは水に溶けてやはり2層に分離します。ここで重要なのは、水が溶けたアルコールには水に溶けない有機溶媒は混ざり合わないということです。
この性質をうまく使うことで、3層に安定して分離して、振っても再び3層に戻る液体を作ることができるのです。
真の3層液体を作ってみよう
では、まずは3層液体を実際に作ってみましょう。
※薬品はどれも毒性が低いものですが、換気に注意し手袋・安全メガネなどを装着してください。
無水エタノール、n-ヘキサンは以下に注意が必要です
●引火しやすいので、火気の近くでは使用しないで下さい。
●換気を充分に行なって下さい。
●目、その他粘膜等に触れないよう注意して下さい。
●飲んではいけません。
赤血塩は以下に注意が必要です
●加熱すると分解し、有毒な気体(シアン化水素など)を生じます。
1.水10mlにエタノール10mlを加えて十分に混合する。
2.炭酸カリウム(無水和物)5.0gを加えて完全に溶解する。
3.ヘキサン10mlを加える
4.お好みで各層の厚みを調整する。(単純に混ぜただけでは1:1:1にはならない)
意外と簡単に3層に別れる溶液が得られたと思います。これだけでは見映えがしないので、層に色をつけてみましょう。赤血塩などの色のある無機塩を少量加えると一番下の層に色を付けることができます。中間層は食紅など適当な水性の色素で色を付けることができます。上層は市販の色素で色を付けることは極めて難しいです。
なぜ分かれたのか?
では、気になる原理を解説しましょう。まず最初にエタノールを水に混ぜました。この段階では完全に混ざり合っていますが、ここに炭酸カリウムを加えると2層に分離します。これは、水は無機塩類を溶かすと有機化合物の溶解度が下がるという「塩析」という現象です。塩析は、有機化学の実験室では比較的よく使われる手法です。これにより有機化合物であるエタノールが押し出されるように分離したのです。しかし、完全に純粋なエタノールだけが分離するわけではなく、一部水も巻き込んでいます(これが液体が1:1で分離しない主な理由です)。
ここに油のような性質があるヘキサンを加えると、もちろん水(厳密には炭酸カリウム溶液)には溶けませんし、水分を含むエタノールにも溶けないので、3層にしっかりと分離します。このように各溶媒の性質と塩析という現象を組み合わせることで普通ではありえない完璧な3層液体が得られるのです。
実験にかかった費用
・無水エタノール 500ml 1,500円程度
・炭酸カリウム 500g 1,000円程度
・n-ヘキサン 500ml 1,500〜2,000円程度
・赤血塩 50g 2,500円程度
・食紅 1個 数百円程度
※無水エタノール、n-ヘキサンは以下に注意が必要です
●引火しやすいので、火気の近くでは使用しないで下さい。
●換気を充分に行なって下さい。
●目、その他粘膜等に触れないよう注意して下さい。
●飲んではいけません。
※赤血塩は以下に注意が必要です
●加熱すると分解し、有毒な気体(シアン化水素など)を生じます。
掲載写真,図全てレイユール氏提供
レイユール 薬理凶室のYouTubeチャンネルでは、化学実験をコミカルな動画で紹介する「ガチ実験シリーズ」を不定期更新している。 |
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