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構造色で虹色のチョコレートを作ってみた│ヘルドクターくられの1万円実験室│リケラボ

虹色のチョコレートを作ってみた!│ヘルドクターくられの1万円実験室

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科学を愛する読者のみなさま、ごきげんよう。くられです。

使える予算は1万円以内。「高価な実験機器は使えない」という制約のなかで知恵と工夫を凝らして実行可能なおもしろ実験を紹介する本企画。

第21回目のお題は「虹色チョコレート」です。今回も、私が主宰する秘密結社「薬理凶室」のメンバーであり化学に造詣の深いレイユール氏の協力のもと、お届けします。それではお楽しみください!


皆さんこんにちは。レイユールです。

今回は、虹色に輝くチョコレートを作ってみたいと思います。本来、チョコレートは黒褐色の食品ですが、ある加工を施すと虹色に輝きます。着色料やシールを貼り付けるわけではなく、チョコレート本体に微細な加工を施すため、食べることもできます。

今回作る虹色チョコレートの完成品

虹色の正体

通常、ある物体に色をつける場合には着色料(色素や顔料)を使用します。食品に色をつける食紅や絵を書く際に使用する絵の具やインクも着色料の一種です。

虹の写真をプリンターなどで印刷すると、インクなどを用いて白い紙に着色が行われ、まるで本物のような虹を再現することができます。しかし、本物の虹は当然空に着色しているわけではなく、空気中の微細な水滴がプリズムのような働きをして虹色に見えるのです。

太陽をはじめとする多くの光源では、様々な波長(=色)の光が混ざっており、プリズムなどをつかう「分光」という方法で特定の波長の光を取り出すことができます。

一般的なガラス製プリズム

プリズムによる白熱電球の分光

たくさんの波長が混ざった光を分光することによって、特定の波長の光が連続的に分離され、これが私たちの目には虹として見えるわけです。

直視分光器による日光の分光スペクトル

構造色

一方、タマムシやカナブンなどをはじめとする独特の光沢を持っている昆虫などはそれぞれの色の色素を生産しているわけではなく、表面に微細な凹凸を持っていて、これが光を分光することで、虹色や特定の色を表現しています。このように表面の構造に由来する色のことを「構造色」と呼びます。

構造色を持つ昆虫の例 (画像提供:shutterstock)

構造色は光を分光・反射していますが、その原理はプリズムとは異なり、「光の回折(かいせつ)」による現象です。光には物体を回り込むような性質があり、非常に微細な溝をたくさん用意するとまるでプリズムを通したように光が分光されるのです。意図的に微細な溝を作って回折現象を起こす道具は「回折格子(かいせつこうし)」と呼ばれます。今回は、チョコレートの表面に回折格子のパターンを刻み込んで、この構造色を再現してみましょう。

実際の回折格子 写真はPET膜によるレプリカ(1000LINE/1mm)

パターン転写

回折格子としての機能を持たせるには、溝を数μm(マイクロメートル、1mm=1000μm)の間隔で均等に並べる必要があります。光学実験用の回折格子は平滑なガラス板にダイヤモンドの刃を使って均等に溝を切ってあります。しかし、このような加工をご家庭で行うのは現実的ではありません。そこで、今回はこの回折格子を鋳型にしてレプリカを作成する方法を使います。

回折格子の表面には微細な凹凸があるので、ここにチョコレートを流すことによってチョコレートが溝に入り込みます。これが固まるとチョコレート側に回折格子のパターンが正確に転写されるのです。

回折格子レプリカ

肝心の回折格子ですが、ガラス製の実物を購入するととても予算が足りません。そこで、この回折格子を樹脂で模った回折格子レプリカを使用します。これは、回折シートや分光シートという名前で通販サイトで入手することができます。

通販サイトで入手した回折格子シート

つまり、今回は回折格子を樹脂で模った回折格子レプリカをチョコレートで模ってチョコレートの表面に回折格子を間接的に発生させるわけです。コピーのコピーになりますが、光学実験に使用するわけではないので、十分な精度で転写が行えます。

実際に作る

それでは、実際に虹色に輝くチョコレートを作ってみましょう。

※注意
この実験では、食品を扱います。使用する器具は食品専用のものを使用してください。
回折格子はプラスチック製ですが、食品に使用することを想定して製造されていません。完成品を食べる場合は自己責任でお願いいたします。また、回折格子を食品に使用してもよいか気になる方は販売元へ直接ご確認ください。

1 回折格子を洗浄する

回折格子に傷を付けないよう中性洗剤で慎重に洗い上げてください。その後キッチンペーパーなどで優しく水滴を取り、十分に乾燥しておきます。

回折格子の洗浄

2 チョコレートを溶かす

湯煎(湯せん)によってチョコレートを溶かしていきます。この際に水が入らないように注意してください。チョコレートはブラック系の色の濃いものが望ましいです。今回は製菓用のチップを使っていますが、板チョコを刻んで使うこともできます。

チョコレートの湯煎

3 回折格子にチョコレートを流す

溶けたチョコレート(回折格子が傷まないよう温度は50℃以下)を流します。

回折格子シートには表裏があるので、うまくいかない場合には裏面を使用している可能性があります。シールなどを貼って区別しましょう。

チョコレートを流しているところ

4 型を乗せる

チョコレートをならしてからクッキーの抜き型を乗せます。型は乗せなくてもチョコレートはできます。

クッキー型を乗せたところ

5 冷蔵庫で1時間冷やす

型を乗せたチョコレートを冷蔵庫で1時間程度冷やします。この際にシートを動かすと失敗します。

6 回折格子を慎重に剥がす

シートを折り曲げるように慎重にシートを剥がします。温度が高い場合や、シートを急いで剥がすと虹が掠れることがあります。

回折格子シートを剥がしたところ この時点で表面に虹色が現れているはず

7 枠からはみ出した部分を取り除く

枠からはみ出したチョコレートを慎重に取り除きます。この際、枠内のチョコレート表面には触らないよう注意してください。

はみ出し部分のトリミング 表面に触らないよう慎重に割るのがコツ

8 型から抜き出す

裏側から慎重に押して型から抜き出します。

型から抜き出したチョコレート

完成したチョコレート

以上で、美しく虹色に輝くチョコレートができたはずです。完成したチョコレートは非常にデリケートなので、回折格子面に触れると虹色が出なくなってしまいます。

テンパリング

さて、実際に美しく輝くチョコレートが完成しました。このようにチョコレートを溶かして固める場合には本来「テンパリング」という工程が入ります。これは、チョコレートに含まれる脂肪酸エステル=油の結晶構造を均一化するもので、手作りしたチョコレートより市販のものの方がより口当たりが良い場合が多いのはこの工程があるためです。

チョコレート中に含まれる脂肪酸エステルは当然ながら常温で固まっているわけですが、この結晶構造には様々な形があります。それぞれの構造によって融点や硬さなどの性質が異なります。チョコレートを一定の温度変化を経て固めることで、この結晶構造を最も口当たりが良くなるように調整することができるのです。

今回は、食味は考慮せずに実験を進めましたが、より味を追求したい方や虹色チョコレート以外でチョコレートを手作りする際には、ぜひテンパリングに挑戦してみてください。

テンパリングの方法や条件はチョコレートの種類や製造メーカーごとに異なります。多くはメーカーが条件を公開しているので、一度検索をしてみると良いでしょう。

実験にかかった費用

・チョコレート 数百円程度
・回折格子シート 1,000円〜4,000円
・型 1,000円程度

掲載写真,図全てレイユール氏提供

レイユール
薬理凶室怪人。専門は有機合成化学。薬理凶室では化学分野を担当している。

薬理凶室のYouTubeチャンネルでは、化学実験をコミカルな動画で紹介する「ガチ実験シリーズ」を不定期更新している。

薬理凶室YouTubeチャンネル

くられ with 薬理凶室

くられ with 薬理凶室

くられ。自称、不良科学者。作家/科学監修、大学講師なども兼任する。近著では「アリエナクナイ科学ノ教科書」で2018年第49回 SF大会にて星雲賞ノンフィクション部門を受賞(続きの連載をDiscoveryチャンネル公式WEBにて掲載、好評を博し終了。現在単行本化作業中)。週刊少年ジャンプで連載中の人気漫画『Dr.STONE』の科学監修を務める。人気Youtuber動画チーム「〜の主役は我々だ!」とのコラボによる「科学はすべてを解決する」はコミック化されるなど好評を博している。
公式サイトはこちら

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