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科学を愛する読者のみなさま、ごきげんよう。くられです。
使える予算は1万円以内。「高価な実験機器は使えない」という制約のなかで知恵と工夫を凝らして実行可能なおもしろ実験を紹介する本企画。
第23回目のお題は「強化ガラス」です。今回も、私が主宰する秘密結社「薬理凶室」のメンバーであり化学に造詣の深いレイユール氏の協力のもと、お届けします。それではお楽しみください!
皆さんこんにちは。レイユールです。
今回は、普段の生活でも目にする「強化ガラス」についてご紹介しましょう。
ガラスの種類
私たちの身の回りには多くのガラス製品があります。窓ガラス、ガラスコップ、スマートフォンの画面、ガラス瓶、調理具など様々なシーンで使われている材料です。しかし、ガラスに種類があることはあまり知られていません。本題の強化ガラスの解説の前にガラスの種類を少しご紹介します。
・ソーダライムガラス
一般的なガラスで、窓やコップなどに使われています。フチが緑色をしているので見分けるのは比較的簡単です。安価で最も大量に流通する「普通」のガラスですが、耐熱性は低く電子レンジやガスコンロでの加熱には使えません。
・耐熱ガラス(ほうけい酸ガラス)
実験器具に代表される、直火加熱が必要な場面でよく用いられます。縁は透明か薄い黄色をしています。電子レンジやオーブン、場合によっては直火での加熱もできて、耐熱性に優れたガラスです。近年では価格も下がり、様々な場面で使われるようになってきました。
・鉛ガラス
鉛の酸化物を加えたガラスで、透明度と屈折率が高いので非常に美しいガラスです。カットしてシャンデリアに使われたり光学機器のレンズに使われています。また、鉛を含んでおりX線をはじめとする放射線を遮蔽することができるため、レントゲン室の窓ガラスなどに使われることもあります。
・硬質ガラス(カリガラス)
昔はピペットなどの製造によく使われていたガラスです。現在では耐熱ガラスの値段が下がった影響で流通はかなり減ってきているようです。
ガラスは今回挙げたもの以外にも用途に応じて様々な種類がありますが、普段目にする代表的なガラスはこの辺りになります。
強化ガラスとは
さて、ガラスの種類を一通り見てきましたが、強化ガラスはまだ出ていません。実は、強化ガラスとは、ガラスそのものの種類ではないのです。ガラスに「強化加工」をすることで加工前のガラスに比べて強度の高いガラスへと変化させることができます。
より具体的にはガラスの上面に圧縮された層を作ることで衝撃などに強くなるのです。圧縮層を作る方法は様々ですが、大きく化学的な処理と物理的な処理に分けられます。化学的な処理は、ガラスに金属イオンを浸透させる方法で、簡単には行えそうにありません。そこで、今回は物理的な処理によって強化ガラスを実際に作ってみましょう。
強化ガラスの作り方
多くのガラスは温度によって体積が変化します。これは熱膨張といって、大抵の材料にみられる特性です。この性質によって、ガラスは急激に加熱したり冷却したりすると表面だけが伸びたり縮んだりすることで内部に高い圧力が発生して割れてしまうのです。逆に耐熱ガラスなどはこの熱膨張を抑えるように配合が工夫されていることで、激しい温度変化に対応できるのです。
強化ガラスも同じような原理を使って表面に割れない程度の圧力で圧縮された層を作ります。工業的には熱したガラスに冷風を当てて表面をより早く冷やすことで圧縮層を作るのです。これは設備が大きくなってしまうので、今回は融けたガラスを液体に落として急速に冷やす方法を採用しましょう。
実際に強化ガラスを作る
今回紹介するのは、「オランダの涙」という俗称で知られる強化ガラスのドロップです。
オランダの涙は熱して融けたガラスを水や油で急速に冷却して製造します。それでは実際に作ってみましょう。
注意:火気を使用するので火災・やけどに十分ご注意ください。またガラスの破片や糸状の細いガラスは刺さると大変危険ですのでお取り扱いにご注意ください。
1. ガラス棒をバーナーで熱する
2. ガラス溜まりを作る
3. 水に落として急速冷却する
融けたガラスを水に入れるとガラスの種類や場合によっては砕けてしまうことがあるので、何度か試して難しいようであれば水の代わりに食用油(サラダ油など)を使うと良いでしょう。油は水よりも熱を伝える速度が遅いため、水に比べると緩やかな冷却ができます。
完成したガラスドロップを引き上げ、細いガラスの糸を適当な長さでカットします。このガラスの細い糸は刺さると体内で折れることがあり非常に危険なので、バーナーで端を丸めてから厚紙などに挟んで割れガラスとして自治体の指示に従って廃棄してください。また、細い尻尾の部分を折ると破裂するので、取り扱いに注意してください。
強化ガラスの強度
では、完成した強化ガラスを試してみましょう。ガラスが飛び散っても困らない屋外でドロップをハンマーで叩いてみます。普通のガラスに比べると強度が高いことが分かります。
また、強化ガラスは内部に歪な力のかかり方をしているため、偏光板を通して観察すると虹色の模様を見ることができます。これは「光弾性法」というガラス内部の応力を観察する方法です。
強化ガラスの弱点
通常のガラスよりも高い強度を持つ強化ガラスですが、弱点があります。表面には高い圧力がかかっているため、この圧縮層を超える深い傷を受けると、そこが起点となって一気に圧力が解放されて非常に細かく割れてしまいます。実際にニッパーなどを用いてこのドロップの細い部分を割ると一瞬で砕け散っていく様子を見ることができます。
この亀裂の伝播速度はマッハ5以上だとされ、速やかに全体が砕けます。実験の際には、
自動車の窓などではこの強化ガラスが使われ、細かく砕けることで怪我を防止するという都合の良さもあります。しかし、破片が目に入るなどの問題があったことから現在ではフィルムを貼り合わせた複合ガラスが使われ、砕けた破片が飛び散らないように工夫されています。
強化ガラスの上手な扱い方
家や戸棚のガラス窓も大部分に強化ガラスが使われています。強化ガラスは傷を受けない限りはかなり高い強度を発揮しますが、硬いもので深い傷を受けると一瞬で砕けてしまいます。ご家庭のガラス窓なども鋭利なもので傷を付けないように慎重に扱うことが大切です。
実験にかかった費用
・ガラス棒 500円程度
・ガスバーナー 一式2,000円程度
・金属カップ 500円程度
・食用油 300円程度
・偏光板 1,500円程度
・ニッパー 500円程度
・ハンマー 500円程度
その他、安全メガネや適切な保護具を必要に応じて用意してください。
実験で生じたガラスゴミは自治体の指示に従って適正に処分しましょう。
掲載写真,図全てレイユール氏提供
レイユール 薬理凶室のYouTubeチャンネルでは、化学実験をコミカルな動画で紹介する「ガチ実験シリーズ」を不定期更新している。 |
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