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料理や食材に別の食材を足して「味変」を楽しむのが静かなブーム。
今回の『リケラボ 料理や食材の豆知識』は、意外な組み合わせで楽しめる「味変」レシピを、おいしさの裏側にある科学的な根拠とあわせてご紹介します。
教えていただくのは、管理栄養士の棚橋伸子先生です。
管理栄養士/フードスタイリスト 棚橋 伸子先生
国際薬膳師、中医薬膳専門栄養士、日本野菜ソムリエ協会 野菜ソムリエ、日本ニュートリション協会公認 ビジネスサプリメントアドバイザー 。 管理栄養士養成施設非常勤講師。 栄養バランスを考慮したヘルシー料理を得意とし、企業の商品開発業務等にも携わる。中医学理論に基づいた薬膳料理の提案も得意とする。 facebookページ:管理栄養士棚橋伸子のすまいるきっちん https://www.facebook.com/smilekitchen
今回のテーマは、調味料としておなじみの「お酢」。
お酢をちょい足しすることで味変を楽しめる組み合わせとして棚橋先生にピックアップいただいたのは、こちらの4つです。
・あんかけ焼きそば×お酢
・お味噌汁×お酢
・牛乳×お酢
・チーズケーキ×お酢
組み合わせの紹介に入る前に、お酢について棚橋先生から教えていただきます。
お酢について
先生、本日はお酢について教えてください!
お酢には、胃酸の分泌を促して食欲を促進させる効果があります。また、疲労回復効果も期待できます。
酸味を調味に使用する事により塩分を感じやすくなり減塩効果がある、酸味により旨みが引き立てられるなど、様々な健康効果も期待できるうえに、調味料としても大活躍です。
スーパーなどでは、いろいろな種類のお酢を見かけますが、お酢ってそもそも何なのでしょうか?
お酢は、糖を含む食品を原料として、アルコール発酵、酢酸発酵させた液体調味料のことです。正しくは食酢(しょくず)と呼ばれます。主成分は酢酸で、他に乳酸などの有機酸、アミノ酸、香り成分等が存在し、特有の風味を形成しています。
お酢は、製造過程により醸造酢と合成酢に大別されますが、分類は日本農林規格により定められています。
解説:お酢の分類について
醸造酢のうち、原材料として穀類を使用したもので、穀類使用総量が醸造酢1Ⅼにつき40g以上のものは『穀物酢』に分類されます。『穀物酢』はさっぱりとした味が特徴です。
『穀物酢』1Ⅼのうち、米の使用量が40g以上のものは『米酢』で、米の風味があり、まろやかな味が特徴です。中華料理等で良く使用される『米黒酢』は、米の使用量が1Ⅼにつき180g以上で、褐色又は黒褐色をしたものになります。アミノ酸の含有量が多く、香り高くコクがあるのが特徴です。
醸造酢のうち、原材料として果実を使用したもので、果実の搾汁使用総量が醸造酢1Ⅼにつき300g以上のものは『果実酢』に分類されます。『果実酢』はフルーティーな酸味が特徴です。
『果実酢』1Ⅼのうち、りんご搾汁の使用量が300g以上のものは『りんご酢』、『果実酢』1Ⅼのうち、ぶどう搾汁の使用量が300g以上のものは『ぶどう酢』と分類されます。
『合成酢』は、氷酢酸または酢酸を希釈した液に、糖類、酸味料、科学調味料、食塩等を加えたもの、または醸造酢を加えたものになります。
お酢は、日本だけでなく世界中で使われている調味料です。世界を見てみると、その土地の風土や気候にあった農作物を原料とするお酢が各地で作られ使用されています。
代表的なものでは、フランスのワインビネガー、イタリアのバルサミコ酢、イギリスのモルトビネガー、アメリカのホワイトビネガー等があります。
さらにお酢には、先に紹介した健康効果や、酸味を添加するだけでなく、様々な調理特性があります。
【調理特性】 | 【説明】 |
---|---|
色素の変化 | ・アントシアン色素を赤く発色(例:紫キャベツ、紫ジソ、生姜 甘酢しょうがのピンク色) ・フラボノイド色素を白くする(例:カリフラワーをお酢を加えた湯で茹でると白く仕上がる) ・クロロフィルを褐色にする(例:キュウリのピクルス) |
テクスチャーの変化 | ・脱水(例:なます) ・軟化(例:昆布の煮物、マリネ) |
タンパク質の変性 | ・凝固させて、身をしめる(例:魚の酢じめ) 熱凝固を促進(例:ポーチドエッグ) |
殺菌・防腐効果 | ・微生物の繁殖を抑制する(例:ラッキョウ漬け) |
酵素作用抑制 | ・酸化酵素の活性を抑制し、褐変を防ぐ(例:ゴボウ、レンコン 酢水につける褐変を防止) |
魚臭除去 | ・トリメチルアミンを酢酸化合物にする(例:魚の酢じめ) |
何気なく使われていたお酢ですが、さまざまな料理特性があるんですね!
では続いて、ちょい足しレシピの紹介に参りましょう。
あんかけ焼きそば×お酢
はじめに、あんかけ焼きそばを挙げていただきました。油っぽいものをさっぱりといただくイメージでしょうか?
その通りです!中国料理の定番、あんかけ焼きそばは、麺を揚げる又は多量の油で炒めています。あんかけの具材も、素材をあらかじめ泡油※(パウイウ)してから仕上げているため、多くの油を使用しています。
※泡油とは、加熱した油の中をごく短時間くぐらせるという意味で、中国料理の調理で準備操作として行われる油通しのことを指します
お酢には、油の粒子を細かく均一な大きに分散させる作用があります。なので、お酢を加える事により、油っぽさを感じにくくなります。油の粒子が細かくなることで、油独特のベタっとした感じが軽減され、油っぽさを感じにくく食べやすくなるのです。
脂っこい料理にお酢が合うのは、酸味でさっぱりさせているだけでなく、ちゃんと理由があるんですね!
胡麻がたっぷりで濃厚な担担麵、油たっぷりの海老のチリソース炒め等も、味付けに酢が使われていることにより食べやすい仕上がりになっています。もっとさっぱり食べたい!という場合には、お酢を足してみてくださいね。こってり系のラーメンにもおすすめです。
お味噌汁×お酢
続いて、お味噌汁を挙げていただきました。初めて聞く組み合わせです!
お味噌汁に少量のお酢を加えるのは、相性もいいですし、健康面からとてもおすすめの組み合わせになります。お酢には、減塩効果や旨味を引き立ててくれる効果があります。同じ塩分濃度のお味噌汁でも、お酢を加えることで、より塩味を感じることができます。
すなわち、お酢を加える事により塩分を控える事ができ、しかも美味しくいただけるのです。お酢を少量加えたお味噌汁と、そのままのお味噌汁を飲み比べてみてください。
お味噌汁に合うお酢はありますか?
まろやかな酸味をプラスしてくれる「米酢」がおすすめです。お好みにもよりますが、1人分のお味噌汁に対して、小さじ1/2~1杯程度が適量です。お味噌とお酢は、お互いに発酵食品ですので味の相性も良いです。お味噌汁にはお出し汁を使用しますが、その旨みをお酢は引き立ててくれます。
お味噌汁にお酢、試してみたくなりました!
牛乳×お酢
続いては牛乳とお酢です。こちらも初めて聞く組み合わせですが・・・・・・
少し抵抗がある方も多いと思いますが、アレンジが楽しいオリジナルドリンクができます!
牛乳に含まれているたんぱく質の約80%はカゼインです。カゼインミセルという粒子状態で牛乳中にたくさん浮遊していますが、これにお酢や果汁等の酸性のものが加わると、ミセル構造が変化し、カゼイン同士が凝集するため牛乳の性状が変化し、凝固や沈殿が起こりヨーグルト状になります。ヨーグルトの原理と同じです。
ヨーグルトみたいなものだと思うとハードルが下がりますね。どんなお酢が合うのでしょうか?
フルーティーな酸味の「りんご酢」や「ぶどう酢」がおすすめです。更に、レモンの爽やかな酸味、砂糖、はちみつ等で甘味をプラスすると美味しくいただけます。ゆるいヨーグルト状になりますので、とろりとした食感もお楽しみください。最近は、様々な果実を使った『飲む酢』も色々と販売されていますので、牛乳とのマリアージュを試してみてください。
いろいろなアレンジができて楽しそうですね!
さらに、お酢にはカルシウムの吸収を促進する働きがあります。日本人が不足しがちな栄養素であるカルシウムを効率良く摂取するために、お酢は一役買ってくれる存在です。コップ1杯につき、大さじ1杯程度のお酢を目安にお試しください。
チーズケーキ×お酢
最後はチーズケーキです。お酢はスイーツにも合うんですか!?
そうなんです。甘いスイーツに酸味は良く合います。チーズケーキを作る時には、レモン汁を加える事が多いのですが、酸味を加える事により味が引き締まり、旨味も引き立ちます。
オススメのお酢はありますか?
チーズケーキに酢をかける場合は、バルサミコ酢がおすすめです。バルサミコ酢は、ブドウの濃縮果汁を使用し、長期熟成したものになります。果実酢になりますが、酸味と甘みが熟成によりまろやかな味わいとなり、芳醇な香りがあるのが特徴です。加熱により酸味が和らぎ甘みが増すので、加熱して煮詰めたものをデザートソースにするのもおすすめです。メーカーや、熟成期間により味に差がありますので、お好みのものを見つけてみてください。
レモンとはまた違ったフルーティーな酸味を楽しめるのはいいですね!
甘味のあるものにお酢を足すことで、口中で味の抑制効果が起こります。甘いデザートにお酢をかけることで、酸味により甘みが抑えられ、さっぱり食べやすく変化します。甘みに飽きたらお酢のちょい足しがおすすめです。
前回の「アイスクリームにちょい足し」の最後で少し紹介しましたが、アイスクリーム×バルサミコ酢は私も時々やるお気に入りの組み合わせです。甘みを引き締める酸味が加わりながら、香りとコクがプラスされます。長期熟成している濃厚な味わいのバルサミコ酢を使用するのがおすすめです!
まとめ
「お酢」は、種類により味も香りも異なります。それぞれの特性を理解し使い分けることで、美味しいだけでなく、健康的な食生活にもつながりますので、日々の食事に取り入れていきましょう。
お酢にあう料理がこんなにたくさんあるとは知りませんでした!オススメ組み合わせを参考に、お酢のちょい足しを楽しんでみたいと思います!
棚橋先生、ありがとうございました。
リケラボでは今後も料理や食材の素朴な疑問の答えを探求してまいります!
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