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私たちが日ごろ口にするあらゆる料理は、さまざまな化学反応によって生まれています。調理とは科学であり、レシピとはある料理を再現するための“実験手順書”でもあるのです。
今回ご紹介する「理系すぎるお料理レシピ」は、「肉じゃが」。味がしっかりとしみたおいしい肉じゃがを作るコツをご紹介するので、ぜひ参考にしてみてください!
肉じゃがの再現方法とその考察
目的
味しみホクホクのおいしい肉じゃがを作る。
方法
〈材料〉2人分
・牛切り落とし肉 150g
・たまねぎ 1個(約200g)
・じゃがいも 3個(約450g)
・にんじん 1本(約150g)
・しらたき 100g
・だし汁(かつお出汁がおすすめ) 300ml ※顆粒だしを使用する場合は水300mlに小さじ1の顆粒だしを溶いておく
・砂糖 大さじ1
・みりん 大さじ3
・酒 大さじ3
・醤油 大さじ3
・サラダ油 大さじ1
〈手順〉
■下準備
- じゃがいもは4等分、玉ねぎは6〜8等分のくし切り、にんじんは一口大の乱切り、牛肉は食べやすい大きさに切る。しらたきも食べやすい大きさに切り、熱湯で1分茹でて水気をよく切る。
■調理工程
- 鍋にサラダ油をひいて熱し、中火で牛肉を炒める。肉の色が変わってきたら玉ねぎを加えて炒め、透明感が出てきたらじゃがいもとにんじん、しらたきを加えて油が馴染むまでさらに2分ほど炒める。
- だし汁、酒を加えて沸騰したらアクをとる。
- 砂糖、みりんを加えて落し蓋をし、弱火で10分煮る。
- じゃがいもに竹串を刺してスッと通ったら(まだ固ければ追加で2分ほど加熱)、落し蓋を外して醤油を加え、中火で5分加熱して煮詰める。
結果
味がしっかりとしみた、おいしい肉じゃがが完成した。
考察
肉じゃがをおいしく仕上げるためには、以下を心がけるとよい。
■じゃがいもの品種の選び方
じゃがいもには「粘質」と「粉質」といった2種類の性質があり、粘質では「メークイン」、粉質では「男爵」が代表的な品種である。細長い形状が特徴的な「メークイン」は煮崩れしにくくしっかりと硬めの食感が特徴で、表面がごつごつとした「男爵」は、ホクホクやわらかいことが特徴。一般的には、「メークイン」は煮物やシチューやカレー等に向いており、「男爵」は粉ふき芋やポテトサラダ等に向くとされている。「肉じゃが」を作る場合は、煮崩れしにくい「メークイン」を使うと仕上がりが美しくなる。
■調味料を加える順番
しっかりと味をしみさせるには、調味料を加える順番がポイントになる。昔から調味料を使う順は「さしすせそ」と言われており、「さ」は砂糖、「し」は塩、「す」は酢、「せ」は醤油(昔は“せうゆ”と表記したため)、「そ」は味噌 を指す。
砂糖は分子量が大きいため味が浸透するのに時間がかかることから、じっくりと味を浸透させるため最初に入れる。ちなみに、今回は塩は使用しないが、塩は分子量が小さく食品の組織を引き締める効果があるため、砂糖より先に入れると砂糖が浸透しにくくなってしまうほか、食材が固くなってしまう可能性もあることから砂糖の後に入れることが推奨されている。醤油は風味を楽しむ調味料でもあるため、加熱しすぎて香りが飛んでしまわないよう、後半に使用する。また、今回のレシピで最初に使用した酒には、料理に旨みやコクをプラスし、肉の臭み消し等の効果があるだけではなく、味の浸透を促進させる効果もある。時間があれば、調理後に冷ます時間を活用し、じっくりと味をしみさせるのも良い。
■落し蓋の使用
今回のレシピでは、具材を煮込む際に落し蓋を使用した。煮物に落としぶたを使用する理由としては主に以下の3つが挙げられる。
- 食材に味がしみやすくなる
落し蓋をすることにより煮汁が対流し、煮汁が具材全体に行きわたり味がしみやすくなるほか、味のムラができにくくなる。
- 煮崩れしにくくなる
鍋の中で食材が踊らなくなるため、食材同士がぶつかり合わず、煮崩れしにくくなる。また、煮汁が対流し鍋の上部の具材までしっかりと行きわたることから、かき混ぜる頻度が少なく済むことも煮崩れ防止につながる。
- 調理時間の短縮
落し蓋をすることにより熱が逃げにくくなるため、調理時間の短縮にもつながる。落し蓋は、鍋の中に納まるサイズのものを(鍋よりも一回り小さいものが望ましい)、鍋の中の食材に直接置いて使用する。木製、ステンレス製、シリコン等の樹脂製のものがあるが、使い捨てでき、鍋の大きさに合わせて調整がしやすいアルミホイルやクッキングシートの使用も便利。その場合は、空気の逃げ道となる穴を作り使用すると良い。
結論として、味しみホクホクのおいしい肉じゃがを再現するには
- 煮崩れしにくい「メークイン」を使う
- 砂糖を先に入れ、醤油は後半に入れる
- 落し蓋を使用する
ことが重要である。
ホクホクのじゃがいもと、ゴロゴロ入ったにんじん。甘じょっぱい味付けに、奥深い出汁の味わいとお肉の旨味が調和する……。何度食べても不思議と飽きない、家庭料理の代表ともいえる存在です。そんな肉じゃがですが、味がなかなかしみなかったり、じゃがいもが煮崩れてしまったりと、完璧を目指すと意外と難しさを感じる料理だったりもします。でも、もう大丈夫! 今回ご紹介したポイントに気をつけて作れば、誰でも成功させることができますよ。ぜひお試しください!
フローチャート作成参考:
『応用自在な調理の基礎 フローチャートによる系統的実習書 西洋料理編』
河内一行ほか/家政教育社
(記事監修/管理栄養士 棚橋伸子)
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